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ふたりの君2※
……俺は……随分と前向きになったな……。
妻子を奪われた時、自分も一度死んだのだと思った。
孤独を強いられていた自分にも、ようやく持つことの出来た家族だった。一生大切にしようと誓ったそれを、また奪われてしまった。守ることが出来なかった。自分にはもう、守るべきものを持つ資格はない。だから何もかも処分して、失って辛いものなど持たないようにした。最悪の場合は死を覚悟して、真相究明の為に仙台を後にしたのだ。
それが、理不尽に未来を奪われた詩織と子供への弔いだと思った。今もその気持ちは消えていない。
だが……。
思いがけず、雅紀という存在に出逢えた。
死んでも構わないと思っていた自分を、身を呈して庇おうとし、怪我を負った自分を献身的に看病してくれた。ないがしろにしかけた自分のちっぽけな命を、あんなにも懸命に大切に想ってくれる人がいる。
だったらもう1度、自分は前を向くべきだろう。自分を大切に思ってくれた雅紀の為にも、投げやりな気持ちではなく、何としても生きる覚悟で、真相を突き止める。そしてそれが解決したら、もう1度、憧れ続けた家族を持つ。雅紀と共に。
……雅紀の存在が、俺を前向きにしてくれた。こいつが俺に、もう1度立ち上がる勇気をくれたんだ。
雅紀は自分が守る。絶対に巻き添えになんかしない。
どうしたらいい。俺はどう動くべきだ……?
まずは明日病院に行って、1日も早く怪我を治す。そして、早瀬暁として仕事をしていた田澤さんの事務所に行こう。探偵としてのスキルもそうだが、あの人はまだまだ色々な情報を握っている気がする。そして、自分が失った記憶の中にも、事件の真相に迫る手掛かりがあるかもしれない。
田澤を頼るのは、情報を掴む為だけじゃない。自分にもし万が一のことがあった時に、雅紀の身を危険にさらさないようにする為でもある。
目を開けると、目の前に秋音の優しい笑顔がある。夢の続きを見ている気分で、その顔をぼんやり見つめていると、秋音は目を細めて微笑んだ。
「おはよう。雅紀。おまえ、また寝ぼけているだろう」
ぱちくりと瞬きをする度に、秋音の顔がだんだん近づいてきて、唇にキスをされた。ちゅっとリップ音が響く。すぐに離れていこうとする唇が寂しくて、思わず追いかけて唇を突き出した。秋音はくく…っと楽しそうに笑いながら、雅紀の頬を手のひらで撫でて
「ばか……。朝から誘うな。止められなくなるぞ」
そう言うと、はっと我に返って赤くなった雅紀に、すかさず濃厚なキスを仕掛ける。
「ん……っふ……ぅっん…」
逃げ込もうとする舌を絡め取られ、雅紀は鼻から声をもらしながら、秋音の口づけに応えた。
昨夜、愛し合いそのまま眠りについた。2人とも何も身につけていない。重なる素肌が擦れあって熱を持ち、その感触に更に興奮を煽られる。
「んぅ……んっ……んぁ……っんぅ」
秋音は朝の生理現象で半分硬くなっていたものを、雅紀の腰にゆるゆると擦りつけた。雅紀のものも勃ち上がり、互いの昂りが腹の間で触れ合う。
……っ
耳から入る雅紀の悩ましい喘ぎ声と、直接触れ合う肌の刺激に、ずくんっと一気に熱が集まる。
秋音は息を荒げ、唇を放して身を起こし
「挿れて、いいか」
上擦った声で囁いた。
「……ん……。秋音さん……きて…」
恥じらいながら両手を伸ばしてきた雅紀をぎゅっと抱きしめてから、秋音は床に転がっているボトルに手を伸ばす。ローションを自分の昂りきったペニスに垂らして軽く扱くと、
「な、雅紀。おまえの顔、見ながらしたい。足、開けるか?」
「ぅん…」
雅紀はそろそろと開いた膝の裏を、自分の両手で掴んだ。真っ赤になりながら目を逸らし、それでも恥ずかしそうに受け入れのポーズをする雅紀に、秋音はごくっと唾を飲み込む。
ローションを纏わせた指を、慎ましやかな雅紀の蕾に挿れてみる。昨夜の交歓の名残りか、そこはまだ柔らかかった。もう1本指を添えて、2本の指で押し広げながらかき回す。
「……ぅ…んぅ……ぁ…ぁ…ぁっ」
目を閉じ、長い睫毛を震わせて、雅紀は掠れた声をあげる。さっきまでのあどけない寝顔とは別人の、強烈な色気を纏わせ始めた。
既に柔らかくほぐれている中を、それでも慎重に更にほぐしてから、雅紀の足の間に膝立ちの体勢で、入口に己のものをあてがった。
くちゅっと濡れた音がして、収縮するそこがペニスを咥え込んでいく。
昨夜は後ろからの交わりだったから、抱いている最中の表情は見られなかった。
朝の柔らかい陽射しに照らされて、自分を受け入れていく雅紀の顔は、せつなげで綺麗で、ぞくぞくするほど色っぽい。
「……苦しく、ないか?」
秋音の問いかけに、雅紀はうっすらと目を開き、悩ましげに喘ぎながらこくこくと頷いた。
「だ……ぃじょ……ぶ…。ん…っ。ぁきとさ……ぁっ。も……っと……ぉくぅ……きて…」
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