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ふたつの月2

好きだから、側にいたいと思う。 でも、好きだから、側にいちゃいけないのかな……とも思う。 ゲイだと自覚した時から今まで、女になりたいと思ったことは、1度もなかった。ノンケの秋音に苦しい恋をしていた時も、秋音が詩織と結婚すると聞かされた時も、だから女になりたい……とは思わなかった。 初めて……自分の性別を疎ましく感じた。大好きな人に、子供を産んであげることの出来ない自分の性を……。 「おっかえりなさ~~い」 事務所の扉を開けると、案の定、桜さんのクラッカーの派手な出迎えを受けた。秋音は唖然としている。 「よう。思ってたより随分早く、こっちに戻ってきたな」 奥の部屋から出てきた田澤が、苦笑しながら秋音に手を差し出した。 「すみません。お忙しいところ。お言葉に甘えて、お邪魔させてもらいました」 田澤と握手をしてそう言うと、今度は桜さんが目を丸くして 「あらら。ほんとに別人だわぁ。記憶、まだ吹っ飛んだままなのねぇ」 「いいからおめえらは仕事に戻れ」 田澤は舌打ちして、桜さんや他の興味津々に集まってきた連中を追い払うと 「自己紹介は後だ。まずはこっちに来てくれ」 そう言って、奥の部屋に2人を招き入れた。 物珍しそうに部屋を見回している秋音に椅子をすすめると、田澤は雅紀の方に向き直り 「篠宮くん。すまなかった。口止めされてたのにべらべら喋っちまって」 田澤に改まって頭をさげられて、雅紀は焦って手をふり 「やっそんなっ頭あげてくださいっ」 「だが、約束破っちまったよな。本当にすまない」 「いえっ。俺、気にしてませんからっ。謝ったりしないでください」 「俺が無理矢理聞き出したんだ。雅紀、悪かったな」 「いいんです。おかげで秋音さんとちゃんと話出来たし。怒るどころか、俺、すごく感謝してます」 雅紀の言葉に、田澤はほっとして 「そう言ってくれると気が楽になるぜ。あれからずっと気になってたんだ」 「田澤さんが話してくれたおかげで、俺達は気持ちが通じ合えたんです。俺も感謝していますよ」 秋音の言葉に、田澤は嬉しそうに顔を綻ばせた。 「そうか。んじゃ晴れてまた、恋人に戻れたんだな」 満面の笑みでそう言われて、雅紀は少し赤くなると 「……はい」 恥ずかしそうに俯いた。秋音は雅紀を座るように促し、自分も隣に腰をおろすと 「早速ですが、田澤さん。あなたにいろいろとお聞きしたいんです」 田澤は表情を改めて頷き 「ああ。何でも聞いてくれ。俺が知ってることなら全部話すぜ。それに出来るだけ協力するから、俺が手を貸せることがあったら言ってくれ」 「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて。まずは俺が暁だった時に、掴んでいた情報ですが……。あなたは、俺を狙っている犯人の見当がついていますよね?」 秋音の切り込みに田澤は眉を寄せ 「……そうだな。疑わしいのはやはり桐島家の人間だ。これは暁も同意見だった」 「父親の桐島大胡。息子の桐島貴弘。俺はこの2人の何れかだと思っています」 田澤はすかさず首を横にふった。 「父親の大胡さんは、ない。これは俺が断言出来る。あの人はおまえの母親を心から愛していた。あの人が彼女に手をかけることは、絶対にありえねえ」 秋音は疑わしそうに眉を潜め 「愛していた?あの男が母を?……それはちょっと信じられない。なら何故、母と俺を仙台に遠ざけたんです」 「仙台に行ったのは彼女の意思だよ。大胡さんは何度も引き止めたんだ。だが、彼女の気持ちは変わらなかった」 「母が離れたくなるような状況を作ったのは、あの男だ」 険しい顔つきの秋音に、雅紀は目を伏せ、田澤は神妙な顔になった。 「まあ、おまえの気持ちも分かるぜ。母子2人でずっと苦労してきたんだしな。だが、あの頃は大胡さんの方にもいろいろと事情はあったんだ。それに2人の間にどんな気持ちの行き違いがあったかは、当人同士にしか分からねえしな」 秋音は硬い表情のままで頷き、 「あの男だけを一方的に責めるつもりはありません。母だって、既婚者と知っていて、あの男の愛人になり子供を産んだ。どちらにも責任はある。ただ俺は……あの男を許すことも、父と認めることも出来ない」 田澤はため息をついた。 「息子としては、当然の感情だな」 「では、仮にあなたの言う通り、桐島大胡ではないとして……。一番怪しいのは息子の貴弘だ。彼には俺達親子を憎む理由も、遺産相続の為という動機もある。」 田澤は難しい顔になり、腕を組んで 「まあ、そうだな。俺もその線が一番疑わしいとは思う」 言いながら、田澤はちらっと雅紀の様子をうかがった。 雅紀はその貴弘の愛人だった。そのせいで瀧田の家で受けた、酷い仕打ちの記憶もまだ新しい。 案の定、雅紀は目を伏せて唇を噛みしめ、青ざめた顔をしていた。

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