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ふたつの月3

このまま雅紀を同席させた状態で、話を続けるのは酷かもしれない。 田澤は秋音に目配せをした。秋音はそれに気づいて、雅紀の横顔を見ると 「雅紀。話が終わるまで、向こうに行っていてもいいぞ」 雅紀ははっと顔をあげ、秋音と田澤の顔を交互に見て首を横にふり 「いえ。一緒に話を聞きます。俺も無関係じゃないから」 「だが、おまえ顔色が……」 「秋音さんを守る為に、俺も詳しい話聞いておかないと。同席させてください」 青ざめてはいるが、強い決意を秘めた眼差しだった。無理に席を外させようとしても、テコでも動きそうにない。 田澤はにやっと笑って 「そうだな。篠宮くんは暁の恋人だ。大事な彼氏を守んねえとな」 「はいっ。俺にも出来ることがあると思うので」 秋音は気遣わしげに雅紀の顔を見ていたが、しぶしぶ頷いて 「……分かった。だが辛くなったらいつでも席を外していいからな」 そう念を押してから田澤に向き直り 「藤堂さんが病院の紹介状を送ってくれる予定です。俺はまずこちらの病院に通って、怪我の治療に専念します。その間、田澤さんには、出来る範囲でいいので、桐島家の人間の動向を探って欲しいんです。そしてある程度、俺が自由に動けるようになったら、桐島大胡と貴弘に、俺が直接会える手配を……お願い出来ますか?」 秋音の言葉に、雅紀は息を飲み彼の横顔を見つめた。田澤はしばらく黙って秋音の顔を見ていたが、やがておもむろに頷いて 「桐島家の人間には、もうすでに人を張り付かせて探らせてる。特に貴弘氏の周辺はな。その方面は俺の得意分野だ。任せてもらっていい」 田澤はいったん言葉をきり、さりげなく雅紀の顔色を見てから 「それと直接会うことについては、篠宮くんの……例の瀧田邸での件でな、大胡さんと貴弘氏の方から、1度きちんと会って謝罪したいと申し出があったんだ。篠宮くんが精神的に落ち着いたらってことで、おまえはそれを承知していた」 雅紀は俯いて、膝の上で手を握ったり開いたりしている。秋音は田澤から傍らの雅紀に視線を移し、痛ましげに顔を歪めた。 瀧田邸で雅紀がどんな目に遭ったかは、おおよそのことを電話で田澤から聞いている。聞くに耐えない酷い内容だった。雅紀が受けた精神的苦痛を思うと胸が痛む。 秋音は驚かさないように手を伸ばすと、雅紀の手をそっと上から握った。 雅紀は一瞬びくっとして、秋音の顔を見た。 「おまえ……大丈夫か?」 秋音の問いかけに、雅紀は強ばった表情で、それでも大丈夫というように、気丈に微笑んでみせた。秋音は雅紀の手をぎゅっぎゅっと握りながら、田澤の方を見て 「分かりました。ではその件は、俺の怪我の治療と雅紀の様子を見て、改めて詳しい日程をお知らせします」 「了解だ。それと……なあ、暁」 「はい?」 「いや、な。おまえが今は暁じゃねえってのは分かってるんだが、俺ん中ではずっとおまえは、早瀬暁っていう可愛い息子のまんまなんだ。だから……これからも暁って呼んでいいか?」 ちょっと照れくさそうな田澤の申し出に、秋音は破顔して 「もちろんです。怪我が治ったら、当分はこちらでお世話になるつもりなので、前のまま暁として仕事もさせてください」 田澤は嬉しそうに頷くと 「そうか。こっちで復帰してくれるのか。仕事はまたいちから俺が教えてやるよ。」 「はい。よろしくお願いします。あ、それと田澤社長、もしよろしければ、雅紀にも……何か仕事を紹介してやってくれませんか」 「おう、そっちも心配するな。俺がまとめて面倒見てやるぜ」 雅紀は何か言おうと口を開きかけ、頼られて嬉しそうな田澤の顔を見て、何も言えなくなって 「あの……。よろしくお願いします」 そう言って頭をさげた。 「なんとも……個性的な連中だったな」 事務所を出て、再び車に乗り込むと、秋音はやれやれといった感じで大きなため息をついた。雅紀はくすっと笑って 「でも秋音さん、桜さんの特製みっくすじゅーす、ちゃんと飲み干したし」 秋音は笑いながら眉をさげ 「いや。あんなに皆に見つめられたら、飲まないわけにはいかないだろう。あれもなかなか個性的な味だった」 「身体にいいものばかりだそうですよ。俺はあれ、嫌いじゃないな。見た目より全然飲みやすかったし」 「まあな。下手な野菜ジュースよりはずっといい味だ。……ところで雅紀、今どこに向かっている?」 「あー……えっと。とりあえずアパートに戻ろうかと…」 「このまま戻っても、冷蔵庫の中身が空っぽだろう。どこかで昼飯を食べて帰るか?」 「あ……そっか……。じゃあ俺、何か作りますっ。スーパーに寄って食材買って…」 秋音はふふ……と笑うと 「もう12時はとっくに過ぎている。今から作っていたら遅くなるだろう。そんなに無理はするな。天気もいいし、昼は弁当でも買って外で食おう」

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