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幻月3

ひとしきり甘い蜜を堪能して唇を放すと、うっとりと見開いた雅紀の、濡れた瞳と目が合った。秋音はちょっと意地悪く笑ってみせ 「色っぽいな、その顔。キスだけで感じたか?」 秋音の揶揄いに、雅紀は恥ずかしそうに目を逸らし 「……っい……意地悪だし……秋音さん」 拗ねてそっぽを向くその反応が可愛くて、じたばたもがいて逃げようとする身体を、逆にぎゅっと抱き締めた。 「いいな……おまえは。一緒の時間を過ごすだけで、俺をこんなに幸せな気持ちにしてくれる」 秋音がしみじみと呟くと、雅紀はじたばたを止めて大人しくなった。秋音の背中に手をまわし、きゅっと抱き締め返してくる。 「暁も、きっと救われていたんだろうな。おまえを好きになった気持ちがよく分かるよ」 「……秋音さん…」 秋音は両手で雅紀の顔をすくいあげるようにして包むと、ちゅっとキスを落として 「せっかくあたたまったのに、また冷えてしまうな。布団敷いて……横になるか」 「……うん」 テーブルの上のものを2人でキッチンに片付けて、布団を並べて2組敷くと、ぴったりとくっついて横になった。ひんやりしていた寝具は、2人分の熱ですぐに温まった。 「もしまた暁が出てきたら…」 「え……?」 「暁に伝えてくれ。俺は出来るだけおまえの存在を意識するようにする。だからもうおまえは孤独じゃないと」 「……っ」 じっと見上げてくる雅紀に、秋音は優しく微笑んで 「本当は俺の雅紀にちょっかいを出すな……と言いたいところだが、多分それは無理だろうな。先に雅紀を好きになって恋人にしたのは暁の方だ。……悔しいけどな」 そう言って片目を瞑る秋音に、雅紀はくすっと笑った。 「俺は暁の想いを尊重するよ。だから寂しがってあまり雅紀を困らせるな。そう伝えてくれ」 「うん。秋音さんの気持ち、必ず伝えるから」 雅紀はそう言って微笑むと、秋音の胸に頭をすり寄せた。互いに伝え合う鼓動とぬくもりが、心地よい微睡みを誘う。 やがて安心しきってすーすーと寝息をたて始めた雅紀の髪をそっと撫でると、秋音もゆっくりと目を閉じた。 視線を感じて目を開ける。こちらをじっと見下ろしているのは… 「……ん……。暁……さん……?」 「……っ!なんで分かるんだよー。俺まだ一言も喋ってねえじゃん」 驚きつつも嬉しそうに飛びついてきて、髪の毛をわしゃわしゃしてくる暁に、雅紀は両手を伸ばした。 「んー……何となく?」 「すげえな、分かっちまうんだ俺のこと。んーやっぱ愛の力ってやつか」 両腕を掴んで引き起こされ、雅紀は半分寝ぼけながら、暁の身体に抱きついた。 「……愛の力とか……言っちゃうし」 くすくす笑う雅紀は、まだ寝ぼけているせいか、ツンじゃなくデレだ。 「おまえ、俺のこと大好きだろー」 雅紀の素直な反応が嬉しくて、はしゃいで顔中にキスし始める暁の顔を、雅紀は手で押さえて 「うん。大好き」 そう言って唇にちゅっとキスした。 「うわ。何おまえ、超素直じゃん。いつものツンはどーした?」 「や、俺、ツンじゃないし」 暁は唇をはなし、とろんとしている雅紀の目をまじまじ見てから、首筋に視線を落とした。 「そういや秋音、何か言ってたか?そのキスマーク」 暁の質問に雅紀は首を傾げてから 「最初は寝ぼけて自分でつけたって思ったみたい。でも、暁さんのこと話したら…」 「まじか。言っちまったんだ、俺のこと」 「うん。秋音さん鋭いから、俺の隠し事、すぐ見破っちゃうし…」 ……いや。多分それは秋音が鋭いっていうより、おまえがわかり易過ぎんだろ 思わず内心突っ込んだが、拗ねるので口には出さない。 「で?秋音は何て言ってた?っつーか、そもそも信じねえだろ」 「ううん。信じた。けしからんヤツだって。暁さんのこと」 暁は呆れた表情になり 「……信じたのかよ……。なんつーか……。さすがは俺の分身だな」 「俺もそう思いました。そんなにショックも受けてなかったし」 暁は眉をしかめて首を捻った。 「どんな頭の構造してんだ?秋音のやつ」 「や、同じ頭だし…」 「ま。その方が話が早くていいけどな。んじゃ、これからは遠慮なしに、おまえにちゅっちゅ出来るんだな」 また顔中にキスを降らせようとする暁を慌てて押しとどめて 「待って。その前に秋音さんから伝言です」 「ん?……俺に?」 「うん。えーとね。俺は出来るだけ、おまえの存在を意識するようにする。だからおまえはもう孤独じゃない」 「………」 「先に雅紀を好きになって恋人にしたのはおまえだ。俺はおまえの想いを尊重する。だから、寂しがってあまり雅紀を困らせるな。……だそうです」 暁は嬉しいような悔しいような、ちょっと複雑な表情を浮かべて、しばらくの間黙り込んだ。 「……暁さん…?」

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