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幻月6
ほか弁屋の手前でコンビニに寄って、2人分の飲み物と、プリンと杏仁豆腐を買った。
ほか弁屋で注文した弁当は『季節ご飯と幕の内スペシャル弁当』と『豪華のり弁満腹セット』。雅紀は前の時とまったく同じにしようと張り切っていたが、メニューを見て、季節ご飯の内容が違う……と不満顔だ。
「何もそこまで同じじゃなくてもいいだろう」
弁当を抱えて車に戻り、笑いながらそう言うと、雅紀はうーっと唸って
「どうせなら完璧に同じにしたかったなぁ。服装も持ち物も全部、同じにしてきたのに…」
「おまえも変なところに拘るね。肝心な花は咲いていないんだろう?」
「あ……。そっか…」
「だいたい似たシチュエーションになればいい。あまりしゃかりきになるな。せっかくのピクニックなんだ。もっと気楽に楽しもう」
「うん。そうですね」
ピクニックかぁ……と呟いて、雅紀はまた幸せそうな表情に戻った。
まったく……ころころと表情が変わるヤツだ。今朝目が覚めた時は、声もなく静かに泣いていて、ちょっとどきっとするくらい、大人びた綺麗な顔をしていた。今は遠足に行く前の少年のような、あどけない笑顔を見せている。
公園の駐車場に車を停め、カメラバッグも弁当も2人分の荷物を全部1人で持つと言ってきかない雅紀から、自分の荷物を取り上げて、並んでゆっくりと公園内を散策した。
桜は終わり、新緑の季節へと衣替えした公園の木々は、目に優しい柔らかい緑色の翼を広げている。初夏の陽射しが降り注ぐ公園は、寒くも暑くもなく、ちょうどいいピクニック日和だった。青々とした芝生の上に敷物を広げて、持参の弁当を食べながら楽しんでいる家族連れも多い。長閑で平和な光景だ。
雅紀は石造りのテーブルのひとつに、秋音を引っ張っていって椅子に座らせた。
買ってきた弁当をテーブルにどさっと置くと、コンビニの袋から飲み物とデザートも取り出して並べる。
「どうしてプリンと杏仁豆腐なんだ?それも前と同じか?」
「うん。暁さんがどっちも食べたいって、半分ずつして食べたんです」
雅紀はにこにこしながら、弁当も2つ並べると、秋音の隣に座り
「冷めないうちに食べましょう。秋音さん、どっちがいい?」
「おまえが選べ。半分ずつするんだろう?俺はどっちでもいいぞ」
雅紀は弁当と秋音の顔を見比べて、うーん…と首を傾げ
「そういうとこは、暁さんより秋音さんの方が大人だ……。不思議だな。暁さんと秋音さん。どうして性格、違ってるんだろ」
「……暁の方が素直なんだな、きっと。俺より感情の表し方がストレートだ。周りの人間の影響もあるんだろう」
「そうですね。喋り方なんかは、暁さん、田澤さんにそっくりだし」
「そうか。ほら、冷めてしまうぞ。おまえが選ばないなら、俺はこっちにするからな」
秋音がのり弁の方を選ぶと、雅紀はちょっと満足そうに笑った。どうやらこっちで正解だったらしい。
手を合わせていただきますをすると、食べ始めた。
「朝、どうして泣いていた?暁に何か言われたのか?」
「ううん。……ぃや、うん…」
「どっちだ」
「秋音さんからの言葉、伝えたら、暁さん、嬉しいけど悔しいって。男として秋音さんに負けてるって」
「うん。それで?」
「俺、暁さんに言ったんです。貴弘さんに会いたいって電話しちゃったこと」
「怒っていただろう」
「うん……。ばかなことすんなって。自己犠牲なんかやめろ、一緒に頑張って幸せになろうって」
「そうか。暁も俺と同じことを言ったんだな」
「はい。それで……秋音さんに伝言です」
「暁から?何て言っていた?」
雅紀はちょっともじもじして、目を伏せると
「俺の大切な……恋人を、守ってくれ…って」
「……そうか……。そう言っていたのか」
「……うん…」
しばらく黙々と2人は弁当をつついていた。やがて秋音はため息をつくと
「……辛いな。暁は。誰よりも大切な人を、自分の意思で守れない。俺に託さなければいけないのか。それは……かなりもどかしくて……キツいよな」
「……うん…」
「なるほどな。だから俺に暁の記憶を取り戻させたくて、おまえは一生懸命なんだな」
「だって……暁さんは秋音さんでしょ?心の中にそんな哀しい感情が眠ってるなんて……。もし、秋音さんが暁さんの記憶を取り戻したら、2人は1人になれますよね?秋音さんの中の暁さんも、そんな辛い思いしなくてよくなるでしょ」
雅紀の言葉に、秋音は難しい顔になって首をひねり
「……それは……どうなんだろうな。1度分かれた人格が、1つに戻れるものなのか。そうなった時の自分ってのが……まったく想像つかないが…」
「俺もそれは想像出来ないけど…」
雅紀はしょんぼりと肩を落とした。
「雅紀、弁当チェンジだ。そっちも食わせろ」
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