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おぼろ月3
ホテルから出ると、貴弘が憮然とした表情で田澤に歩み寄り
「田澤さん。どういうことなのか説明してもらいたいんだが?」
「篠宮くんが何者かに連れ去られたかもしれない」
田澤の言葉に貴弘は眉を寄せ
「雅紀はどこにいたんです。あなたやこの男と一緒に?」
「俺の事務所にいたんだが、あなたからのメッセージでこちらに向かおうとしていたらしい。車に乗り込もうとしたところで、誰かに無理矢理薬を嗅がされて、そのまま連れてかれた可能性がある」
「薬を……?」
「とぼけるな!おまえが指示したんだろう!」
また掴みかかろうとする秋音を、田澤が必死に押さえつける。貴弘は首を竦めて1歩さがると
「雅紀は私の大切なパートナーだ。そんな乱暴な真似をする必要などない。ただ…」
「ただ?何か心当たりがあるんですか?」
「おそらく総の……瀧田総一の仕業だ。私がその男から雅紀を取り戻したいと言ったから、協力してくれたんだろう」
「……んじゃ、今回のことは…」
「総のヤツ……。中止だと言ったのに、私にサプライズのつもりで、そのまま計画を実行に移したのかもしれない。薬を使って拉致というのは、あいつの常套手段だからな」
秋音と田澤は愕然として、顔を見合わせた。
「瀧田……総一……」
瀧田の屋敷で雅紀がどんな目に遭わされたかは、田澤から話を聞いている。もし拉致したのが瀧田ならば……。
「すぐにでも雅紀を取り戻さないと!田澤さんっ瀧田の屋敷は何処です!」
青ざめた秋音に、貴弘は首を横にふり
「いや。前に使ったセカンドハウスは父が使用を禁じているから、多分探しても無駄だ。あいつが雅紀を連れて行ったのなら、おそらく大迫という男の別荘だろう」
「その別荘は何処にあるっ?」
声を荒らげた秋音を、貴弘は冷ややかな目で見つめて
「口のきき方に気をつけろよ、都倉秋音。俺はおまえを弟だなんて認めていない。さっきから黙っていればいい気になって、誰にものを言っている?雅紀のことなら心配はいらない。俺が総に連絡して、すぐにでも連れ戻す。そういうことだから、田澤さん、今日の会合はこれでお開きだ。次に会う時まで、秋音に目上の者に対する礼儀を教えておいてくれたまえ」
「何だと?貴様っ、誰のせいで雅紀がそんな目に遭っていると…」
田澤は怒りに震える秋音を制して2人の間に割り込むと
「貴弘さん、失礼だが、瀧田が貴方の言うことを素直に聞いて、篠宮くんを返すとは思えねえんだが。大迫とやらの別荘の場所、私に教えてくれませんか。お父上に協力を仰ぎますよ。彼の言うことならば、瀧田も従う可能性がある」
貴弘は片眉をあげて田澤を睨み
「ふん。貴様も所詮同じ穴の狢だな。父の腰巾着が。これ以上話していても時間の無駄だ」
皮肉な笑みを浮かべて踵を返し、立ち去ろうとする貴弘の肩を、秋音は掴んだ。
「待てっ。瀧田総一はおまえの指示を無視したんだろう?」
「離せっ。汚らわしい手で私に触れるな!」
貴弘は憎悪を顕にして、秋音の手を振り払った。田澤は再び2人の間に割って入って
「貴弘さんっ。だったら今ここで、瀧田に連絡してみてくれませんか。本当に貴方の言うことに耳を貸すかどうか」
貴弘は秋音に乱されたスーツの襟を直して、嘲笑うような表情を浮かべた。
「さっきから何を言っている。私が言えば、総は雅紀を返すに決まっている。元はと言えば、私の願いを叶える為だったんだからな」
貴弘はそう言って、ポケットからスマホを取り出すと、瀧田に電話をかけた。
『……はい』
「総か?私だ。雅紀は何処にいる」
『ふふ……雅紀なら無事に僕の腕の中です。これから歓迎の宴なんですよ』
「勝手なことはするなと言っただろう。今から迎えに行く」
『ふーん……迎えって……誰が?雅紀は僕のdollですよ。貴方には関係ない』
「……総。つまらない冗談はよせ」
『うふふ……相変わらずこのこ、すごく綺麗だ……。前より少しふっくらして、僕の理想のdollになりましたよ。今日はどの衣装を着せてあげましょうね』
「総。バカなことを言ってないで、雅紀を返せ。そのこはおまえのdollじゃない」
『バカなのは貴方の方だ。ねえ?そろそろ切りますよ。僕は宴の準備をしなければいけないから』
「……っ総っ待て!総っ」
唐突に切れてしまったスマホを、貴弘は呆然と見つめた。
「あいつ……狂ってる…」
「貴弘さん。瀧田は何と?」
貴弘はぼんやりと田澤の方を見て
「雅紀を……助け出さなければ……。総のヤツ、完全に頭がイカレている」
息を飲み、貴弘に食ってかかろうとする秋音を押さえながら、田澤は静かに問いかけた。
「大迫という男の別荘は何処です」
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