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歪む月2※
瀧田はベッドの脇に優雅な仕草で腰をおろした。雅紀は完全に怯えきり、瀧田から身を離そうと、必死にもがき出す。
「ふふ……。相変わらず可愛い人だ。早瀬暁に随分と愛してもらっていたんですね。首筋や胸にこんなにたくさん紅い吸い跡がある。君は色が白いから、まるで桜の花びらが散っているみたいですよ」
ぎしっとベッドが軋む。瀧田はじりじりと逃げようとする雅紀に手を伸ばし、白い首筋に指を滑らせた。
「……っや…っ。触るな……っ」
雅紀はびくっと震えて、恐怖に顔を引き攣らせる。やっと絞り出した声は酷く掠れていた。
「可愛い顔して、君は悪いこですね。貴弘に聞きましたよ。戻りたいって電話したのでしょう?どうして?早瀬だけじゃ足りないの?また貴弘にちょっかい出そうとするなんて」
「……っちが…っ」
雅紀の華奢な首に、瀧田の長い指が絡みついた。そのままぎゅっと首を絞められる。
「……ぅっ…っ」
「恐怖に怯えるその顔、最高ですね。ねえ雅紀。どんなお仕置きがいいでしょうね。君は敏感で反応が素直だから、何をしても楽しめる」
まるで舌舐りでもしそうな瀧田の顔が、すぐ目の前まで近づいてくる。雅紀は苦しさにもがき、目をぎゅっと瞑った。
唇に息が触れた。ねっとりと舌で唇を舐められ、口付けされる。首を絞められながら口も塞がれ、雅紀は救いを求めるように、シーツを掴みしめた。
「よせよ。殺してしまうつもりか?」
大迫の声に、瀧田はふ…っと笑いながら身を起こした。口と首を一気に解放され、げほっげほっと苦しそうに咳をする雅紀の目には、涙が滲んでいた。
瀧田は首を竦めて
「殺すなんてそんなもったいないこと、するわけがないでしょう?ご主人様の言う事を、素直に従順にきくように、ちょっと躾をしただけです」
……躾……ねぇ……。
裏稼業が長い大迫は、付き合う人間のタイプも様々だ。狡賢いヤツもゲス野郎もたくさん見てきたが、この瀧田という男は一番クレイジーだ。いわゆるサイコパスというヤツだろう。この男には罪の意識や良心というものが、ひと欠片もない。
自分の楽しみの為ならば、微笑みながら平気で人を嬲り殺せる人間だ。
「せっかく苦労して連れてきたんだ。もっとじっくりと楽しませてもらいたいな」
不満気に鼻を鳴らす大迫に、瀧田は名残惜しげにベッドから立ち上がると、
「言っておきますけど、雅紀を抱くのはNGですよ。それ以外ならどんな調教をして頂いても結構です。例の薬、早速試してみますか?」
「いや。まずはこいつの生の反応を見たいな。薬はその後だ」
大迫はそう言うと、ネクタイを抜き取りベッドにあがった。
雅紀はびくっと飛び上がり、まだ自由にならない手で必死に起き上がり、逃げようともがく。
「いいこだから、大人しくしてな」
大迫は雅紀の腕を掴んで、強引に引き摺り寄せると、ネクタイで後ろ手に縛ろうとした。
「それは美しくないですね。こちらを使ってください」
瀧田が黒革の拘束具をベッドに投げて寄越す。
……ちっ。いちいちうるせえ…。
大迫は内心舌打ちして、それを取り上げると、もがく雅紀を押さえつけて、手首に装着させた。
「……っやっ……やだ…っ」
掠れた泣き声をもらす雅紀は、瀧田の趣味で、黒いワンピースドレスを着せられている。幾重にも重なった裾のフリルは、雅紀がもがくたびにめくれて、ガーターベルトをつけた、すらりとした脚が剥き出しになった。
……男にこんな格好させるなんて趣味が悪いと思ってたが……。華奢だが女には見えないこいつが着ると、妙に倒錯的でそそられるな……。
黒革の女物の下着とガーターベルト、フリルのついた黒の網タイツ。男が身に付けたら滑稽極まりないはずなのに、肉感的な生々しさがないせいなのか、まさしくdollと呼ぶにふさわしい硬質な美しさと色気がある。
……瀧田の趣味に付き合ってるうちに、俺も毒されてきてるってやつか?
変に興奮している自分に気づいて、大迫は苦笑すると、剥き出しになった雅紀の太ももに指を這わせた。
「や……っだ……や……っ。やめ……っ」
雅紀はおぞましげに顔を歪め、大迫の指の悪戯から逃れようと、脚をばたつかせる。
「おい。大人しくしてろって言ったろう。あんまり暴れると完全に動けないように縛りあげるぞ」
大迫の言葉に、雅紀は急に動くのを止めた。こんな脅し言葉ぐらいで、素直に大人しくなったのが意外で、大迫は身を乗り出して雅紀の顔を覗き込む。
既に涙に濡れた彼の大きな目に、恐怖の色が滲んでいる。どうやら過去に、縛りあげられて暴行でも受けた経験があるらしい。
「いいか。どうせおまえは逃げられやしないし、俺もやめてやる気はない。無駄に痛い思いするのは嫌だろう?」
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