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歪む月5※

完全に抵抗する力をなくし、小刻みに震えるだけで、くったりとしてしまった雅紀の身体を、大迫は柔らかく抱き直して鏡を見る。 雅紀の顔からは、嫌悪や恐怖といった強い感情が消えていた。見開かれた目は虚ろに宙を彷徨い、焦点が定まっていない。 「薬の効き目も抜群ですね。もうこれは要らないかな」 瀧田は目を細めて満足そうに雅紀の身体を眺め、手首に繋いでいた足の鎖を外した。解放されても雅紀は脚を開いたまま、媚薬の効果で桜色に染まった身体を切なげにひくつかせている。 「ここはもう開発済みか?」 「いえ。この間は、途中で邪魔が入りましたからね」 「だったら一番細いのから始めよう。1度これで快感を覚えたら病みつきになる。自分からして欲しいとおねだり出来るようになるまで、じっくり教え込んでやろう」 「ふふ……。それは楽しみですね」 「ねえ、貴弘さん。あまりお父様のご不興を買うようなことはしないでちょうだい」 「わかってますよ。お母さん。私はもう子供じゃない」 「だったら今度は何なの?またおかしな連中と連絡を取ったりして」 「ご心配には及びませんよ。プライベートな問題です」 「ね……貴弘さん。例の深山家のお嬢さんとのお見合いのお話ね。お母さん反対だったけど、考え直してみたの。やっぱり貴方にはきちんとした伴侶が必要だわ。一度お会いしてみたら…」 「お母さん。私はもう誰とも結婚はしませんよ。あんなもの、一度しくじればもう十分だ」 「何を言ってるんです。貴方は桐島家の跡取りなのよ。いつまでも独り身でいるわけにはいかないわ。お母さん、そろそろ可愛い孫の顔も見たいし」 「私は種なしだそうですよ。次の後継者は親戚から養子をとるか、いっそ跡継ぎ自体を、従兄弟たちに譲ってもいいと、私は思っています」 「そんな……。バカなこと言わないでっ。不妊が貴方の方だって病院で診断された訳じゃないのでしょう?不安なら一度診てもらいに行けばいいわ」 「お母さん……。私には今、大切な人がいます。前にも言いましたが、その人は子供は産めない。諦めてください。私は貴女に孫の顔を見せることは出来ませんから」 「篠宮雅紀とかいう男のこと?まさか本気で籍を入れるつもりじゃないでしょう?」 「本気ですよ。私は彼といる時が、一番寛げる」 「……それはその子が同性だからよ。親しい友人を持つことは別に悪いことではないわ。お母さんもそんなことにまで口を出すつもりはないの。ただ、結婚は別物でしょう?桐島家の将来の為にも、子供を作り育てるのは、未来の総領たる貴方の務めです。お父様だって私だってその為に……」 「お母さん……。それで貴女は幸せでしたか?好きでもない父と結婚して、家の為に子を産み育て……それで本当に幸せだったと?」 「……貴弘さん……子供じみたことを言わないで。恋愛と結婚は違うのです。もし貴方がどうしても、その子と一緒に居たいのなら、きちんと妻を娶った上で、その子を別の屋敷にでも住まわせたらいいのです」 平然と言ってのける母親に、貴弘は顔を歪めた。 「貴女がそれを言うのですか?父に愛人がいたせいで、散々苦しんだはずの貴女が…」 「あの人の愛人は女でしたもの。貴方の場合とは違うわ」 「違いませんよ。私は雅紀をずっと日蔭の存在にするつもりはない。きちんと私の籍に入れて、対等なパートナーにしたいんです。……私は貴女や父とは違う」 貴弘は吐き捨てるようにそう言うと、母親にくるりと背を向け歩き出した。 「……っ貴弘さんっ。待ちなさい、話はまだ…」 「お説教ならば、また今度にしてください。急いでいるので失礼します」 「貴弘さんっ!」 秋音は逸る気持ちを抑えて、田澤の運転する車の助手席から、海岸沿いの瀟洒な建物を見上げた。 県内にある大迫という男の3軒の別荘のうちのひとつ。桐島大胡からの情報を元に割り出した、最も疑わしい別荘だったのだが……。 「……んーそうか…。灯りはついていないんだな?車庫も空か。………ああ、んじゃ間違いねえ。こっちの線は消えたな。長谷川から連絡は?……まだか。分かった。んじゃ悪いがお前はログハウスの方に行った連中と合流してくれ」 険しい表情で電話を切った田澤は、秋音の方を見て首を横に振った。秋音は落胆して、拳をダッシュボードに叩きつける。 「くそっ」 「○○○市の山ん中のログハウスには、事務所の連中を向かわせている。そっちじゃなけりゃ、海沿いのもう一軒の方か……それとも県外に出ちまったかだな」 「雅紀………」 ……おまえ、どこにいる?一体何処だ?必ず助け出してやるからな。雅紀!

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