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6.鬼課長、結局暴露される①

 ラブホテルでの長い長い情事が終わって、部下で腹黒男前の来栖に良いように抱かれて仮眠をとった後。朝になってすっかり支度を整えた来栖が、ベッドにくたっていた俺を揺さぶって起こしてきた。 「課長、おはようございます。朝ですよ」 「……ん、ふぁ」  小さくあくびをして、腰の痛みに手をやってから半身を起き上げる。その俺の仕草にも、来栖は甘い視線を送ってきてはクスリと笑う。 「腰、痛いんですか」 「当たり前だ。お前、俺にどれだけ無茶をしたか分かってるのか」 「はは、もちろん分かっていますよ。だから、自宅まで送らせてください」 「む、」  それはこいつに俺の自宅まで知られるということに繋がるのでは。そう思ったが俺はこいつの『オナペット』で、言いなりなのだ。それから返事もせず、黙って身支度を整えるまで、来栖は珍しいことに煙草を吸って待っていた。来栖の奴、煙草なんかを吸うのか。思って横目で来栖を眺めていると目が合って、にまっと笑われて気まずくなった。  俺たちは始発に乗って、休日だからそんなに混んでいないそこでベンチシートに座って俺の自宅、最寄り駅までたどり着く。来栖の奴は憎らしいくらいピンピンしていて、電車内でもうとうとしている俺に、同僚たちの話題や会社での出来事をペラペラ喋りかけてきた。電車を降りると俺の自宅はまあまあ街中のマンションだ。来栖に昨日と同じスーツで手をつながれて、『やめろ』とも言えず人目にさらされながら俺たちは、俺のそこそこ家賃のするマンションへと、二人で入っていった。それを見ていた人物がいたのに、俺はまだ気が付かない。 「あれっ、来栖と課長……」  それはまさしく昨日俺にセクハラを仕掛けようとした、来栖の同僚のチャラ男の岩井である。彼は昨日酒を飲んだこともあって、休日の日課のウォーキングで、たまたま少し遠いところまで足をのばしていたのだ。俺たちが手なんか繋いで皆に注目されていることを見て、しかもマンションに入っていくのを見て、岩井はムウっと難しい顔をしてから、 「へー、そういうこと」  昨晩の来栖の、飲みの席でのいろいろを思い出しては納得しては、悪だくみを開始した。 ***  俺の部屋はとてもシンプルな造りで、家具家電はそろっているものの、趣味のない俺は物を置くことが少ない。きれいに整頓されたそこに勝手にずかずか踏み込んできた来栖は部屋を見渡して、感想を言う。 「さすが課長。整理整頓がなってますね」 「俺だって普通の大人だ、当たり前だろう」 「女の気配は……無し、と」 「おい」 「あはっ、だって課長。課長はもう俺のものですもん、彼女なんかいたら振ってもらわないと」 「だれがお前のものだ! お前に脅されて、俺は仕方なくっ、」 「あれっ」  図々しく来栖は布製のソファーに座って、一息ついては俺も隣に座らせる(俺の部屋だ)。今日はタバコの匂いを少しさせた来栖が、俺の肩を抱いて、俺を引き寄せて耳元で囁く。 「まだわからないんですか。っていうか聞いてなかったんですか?」 「なっ、何を……」 「『蓮さん』。俺、蓮さんのことが好きなんですよ。だからあなたを手に入れたかった」  情事の時の混濁した頭ではない、正常時に『告白』されて、俺は白く固まってしまう。ブリキ人形のようにギギギと音を立てるようにそっぽを向いて、しかにかちゃりと眼鏡を上げなおす。 「俺は、お前のただの『オナペット』だろう」 「そんなのは口実ですよう。だって課長、普通に告白しても絶対に落ちないって思ってたから」 「だからって! というかお前、好きな相手を脅して貶めるような真似を!?」 「身体から落とそうって、いつかそうしようって決めてたんです。計画通り蓮さん、いいや計画以上に蓮さんは快楽に弱かったし」 「なっ」 「お堅い人はそういうとき、逆にエロくなるって都市伝説じゃなかったんですねー」  すりすりと俺の頭に鼻先を押し付けて、俺の髪の香りをかいで来栖は笑う。『さて』と仕切り直して顔を離して、来栖は俺に問う。 「課長はどうですか。俺の身体、俺とのセックス、大好きでしょう?」 「だっ、誰が……」 「嘘はだめですよ。分かってますから、俺」 「わわわ、分かってない! お前は全然わかっていない、」 「俺のもので何度も何度もメスイキして射精して、甘えるようにしがみついて感じまくってたのは誰でしたかね?」 「っっ、」 「蓮さん、素直になりましょう?」 「そ、んなこと……だってお前は部下で、俺は上司で課長で、だから」 「会社ではそれでいいです。でも今は休日で、プライベートです。蓮さん、俺を受け入れて、」  真摯な瞳に見つめられて、俺はその美人顔を少し染める。来栖。嫌な奴だ。こいつは嫌な奴。でも、確かにセックスは抜群にうまい。性欲処理の相手としてはもってこい、といえばそうだ。セックスフレンド……いや、友達からなら。そう思い始めている俺がいる。目をそらして、らしくなく恥じらってまだ昨日と同じスーツ姿のままの俺の髪を、来栖が撫ぜて囁いてくる。 「言葉で言えとは言いません。蓮さん、でも……俺を、そういう風に受け入れる気があるなら、キスしてください」  そっと来栖が瞼を閉じる。しっかりつむっているのを横目で確認して、俺は顔を来栖の方に向ける。男前で、新人だけど仕事ができて、皆の中心の人気者の来栖。一方性にも積極的で、テクニシャンで俺を気持ちよくさせるのがうまい来栖。俺を痴漢から救ってくれた来栖。俺は……俺はこいつに脅されて、いや。 「来栖」  名前を呼んでも返事はない。来栖はじっと俺からの『返事』を待っている。俺だって彼女などが、いたこともあり自分からキスするのは初めてではない。でも今回は受け手として、男相手にだから少し緊張する。そう、俺は来栖に返事をしようとしているのだ。フルフルと震えて、そんな自身の身体を息を深く吐いて制して、そして俺は、 「……ん」  来栖の唇に、軽い口付けを、送ってしまった。 「っ蓮さん!」  とたん、来栖がばっと俺にしがみつく様に抱き着いてくる。『わ』と俺の慌てる声にも動じずに、来栖は俺を抱きしめながら続ける。 「信じてました、あなたは俺に落ちてくれるって」 「まっ、まて……これはあくまで、その、セックスフレンドとしてというか」 「セフレですかぁ? 蓮さん意外と不純ー。まあ良いです。それでもこれからは、理由なんかなくても二人で気持ちよくなりましょうね」 「とりあえず、お前は俺を脅すことをやめろ」 「勿論です。だって蓮さんはもう俺のものなんですから」 「その『蓮さん』ってのもやめろ!」 「二人きりの時だけですよー、良いでしょう?」 「……くっ」  そうしてめでたく両想い? というかセフレになった俺たちは、疲れもあって俺の身体も気遣って、早々にそこ(俺の部屋)から解散をした。私服に着替えた俺が来栖を見送る際、来栖は笑顔でマンションの出口で俺に手を振って、 「蓮さん、愛してます!」  そう声を上げたから近所のおばさまがぎょっとしてこっちを見て、俺は慌てて『ふざけるのは止せ!』と珍しい大声で、誤魔化したのだった。

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