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111.夕陽の中で

 車止めて道の駅に入り、そばとかラーメンとか食いつつ、話は盛り上がった。  てか、おもにはるひが喋ってたんだけど。  彼氏のこととか色々くっちゃべりたい気分だったみてえで、話し始めたらとまんなかったぽい。  のろけ混じりに何枚も見せられた彼氏の写真は、真剣な顔でゴルフしてるのとか、めちゃ笑顔のはるひと腕くんで目を細めてたりとか、遊園地でコーヒーカップを回してる顔が真剣だったりとか色々。どの写真でも彼氏もはるひも幸せそうだ。  そんでどの写真見ても分かる。はるひがどんくらい彼氏を好きなのか、彼氏がどんだけはるひを大切に思ってるか。 「イイ彼氏なんだな」  つったら 「あたりまえじゃない」  最高にカワイイ笑顔になった。 「彼に会えたんだもん、学校変えて良かったよ~ホントに」 「え、変えたって? どゆこと?」  つまり、小学校だか幼稚園だかから、はるひはお嬢な女子校に行ってたんだけど、野上家の女子が代々通ってるつうソコの空気に嫌気がさして、高校からインターナショナルスクールに通うことにした。 「中学から本格的にゴルフやってて、海外の大会にも行ってたの。だから英語力つけたいっていうのもあって、そっち行きたいって言ったんだ。おばあちゃんやおばさんたちは色々言ってたけど、お父さんとお母さんは応援してくれたんだよね」  そこで丹生田がぼそっと言った 「妹がアメリカの大学にいる」 「へえ、大学ってドコ?」 「MITだ」 「マジで? 超メジャーじゃない」  はるひが激反応して、詳しく聞きたがった。 「とても優秀なんだ」  丹生田はめっちゃ自慢げに、けどぼそぼそ話す。  高校からアメリカに留学してスキップを繰り返し十七歳でMITに入ったとか、学んでいる内容が非常に高度だとか、昔からとても賢かったとか。  すっげ優しい表情になってて、はるひも「すごいね、妹カッコイイね」なんてはしゃいだ声出してて。  んで俺もはるひと同じ年の妹がいて、超ナマイキなとこが似てるつったら、 「あんたみたいなお兄ちゃんいたらウザそう」  とか言い返されて、 「はあ? ウザいって言った奴がウザいんだよっ!」 「ほら、そういうとこがウザいって言うの」 「なんだとっ!」  ぎゃいぎゃい言い合いしてたら、丹生田に頭ワシャワシャされた。 「ちょ、おま、やめろよっ」 「やだっ、髪ヘンになる」  とか一気に攻撃受け、眉寄せて黙った顔が面白いとかって、はるひが超ウケて写メ撮ったりして。丹生田も苦笑してて、めちゃ楽しい気分になる。  そんな顔見てたら、ついさっきまでゼンゼン違ってたのになぁ、なんて笑っちまった。  ばあちゃんにキレて、ふて腐れてたんかなあ。まあ元々の性格もあんだろーけど。  キャンプ場に向かう車中も同じノリが続き、めちゃ楽しくて、良いドライブになった。  荷物と一緒に車から降りたあと、 「サンキュ。楽しかった」  礼言ったのに、はるひはニヤッと生意気そうに笑いやがった。 「まあね、こっちもけっこう楽しかったよ」 「偉そーだなおまえ!」  思わず怒鳴り返したけど、丹生田がニヤッとか笑ってっから、鼻の横ポリポリかきながら言った。 「まあ、なんつーかアレだ、分かんねーけど頑張れよな。なんもできねーだろうけど、応援するぜ」 「うん、なにもできるわけないけど、気持ちはもらっておくね」  なんて相変わらず可愛くないコト言って、そんでも吹っ切れたみてーにイイ笑顔で、思わず頭小突いたりして。  傾き始めた陽光を浴びつつ走り去った赤い車を見送りながら、拓海の脳裏には、山の頂上から見た、ちっちゃく見えた家とかホテルとか、遠くに見える街とか、そんなのが浮かんでいた。  あんなちっちぇー中に、めっちゃたくさんの人間がいて、それぞれいろんなコト考えてる。  はるひも、その彼氏も、野上さんもフロントのおじさんも、みんな自分なりに考えて、自分で正しいと思うことを頑張ってる。  だからナンダって言われると困るんだけど、なんかしみじみ、そんなこと考えてた。  夕陽を浴びるキャンプ場には、昨日ほどじゃねえけどテントの数が増えてた。  まっすぐ自分たちのテントに向かった丹生田は、早速コンロに炭を熾し、リュックから色んなモン取り出したんだけど、全部キャンプ用の道具だった。  どれも折りたたんでちっちゃくなってたけど、鍋とかカップとか、まな板とか包丁とかフォークやスプーンまで、色々あって 「コレはこういう風に使う」  なんて、いちいち解説する横顔が超真剣。 「おおすっげー」  とか俺もいちいち驚いてたんだけど、ちょい自慢げな丹生田がなんか嬉しくて、笑っちまってた。したら半透明のモン渡されて、「広げてみろ」なんて言われた通りしたら、水入れるポリタンクだった。 「おわ、デカい! なんリットル入るのコレ」  思わずニッコニコで声上げる。 「四リットルだ。水を入れて来てくれ」 「おっけ! 満杯入れてくる!」  水場行ったら、ちっちゃい子が届かない感じで頑張ってたんで手伝ったりして、お母さんに「済みません」なんて言われて「いやイイっす」なんつって戻ると、炭が真っ赤になってた。  丹生田は鍋に水入れてお湯沸かし、プラスチックの折り畳みのカップをふたつ出してティーバッグ放り込んだ。 「おお~、紅茶!」  ふたりで折り畳みのちっちゃい椅子に座って、炭の熾ったコンロなめで湖見つつ紅茶飲んでくつろぐ。  イイじゃんイイじゃんこの感じ! これこそアウトドアだぜって感じ!  ニヤニヤしてたら、ふー、とか紅茶冷ましながら、丹生田がぼそっと言った。 「レトルトのご飯と携帯食料がある。昼はそれを食う予定だった。夜はそれと野菜でメシにする予定で……野上が来なくても、藤枝を飢えさせない用意はしていた」  ボソボソ言いながら、ずずっと飲む横顔をニヤニヤ見ちまう。  てことは? とか思っちまったから。  はるひが来たとき、なんも言わねーなイラッとしてんな、とか思ってたけど、あれって『せっかく用意してたのに』的な感じでヤだったんだな~、なんて。  くっそ言えよ丹生田! やっぱ可愛いぜ!  なんてテンション上がって、ニカッと言ってやった。 「はるひのアレは、また別じゃん? 旅先でいろんな人と会うのって、それはそれで楽しいじゃん」 「そうか」  なんて言いつつ眉根に皺をつくってる。 「そうだよ。おまえが任せろつったんだから、ゼンッゼン任せてるっつの」 「………………」 「んで明日は釣りとかすんだろ?」 「ああ、農家の店でも、買い物しよう」 「そだな! うーあ、楽しみだ!」  なんてテンション上がったまま言うと、丹生田の眉間の皺は消えた。

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