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121.急転直下※
それよりこの部屋、もっと見とかねえと! なわけで!
抹茶アイスを完食し、冷蔵庫から取ってきたペプシ片手に部屋のあちこちをじっくり見る。さっきはサラッとしか見なかった家具の装飾部分とか、チェストや戸棚の引き出しや扉を開けて、中まで見たりする。
でっかいテレビがカーテンで隠されてたり、加湿器や空気清浄機がルーパー扉の中にあったりして感心した。こういう家電とかが部屋の雰囲気壊さないように考えてあんだ。
「マジですげーな」
ここまで徹底したインテリアの部屋を見るのは初めてなんで、ワクワクしちまう。
うん、とりあえずラッキー! てコトじゃん!
なんて感じでペプシを天に突き上げたらちょい零れた。
「うわ、やべやべ」
慌てて拭こうとしたが、布巾とか雑巾的なものがどこにあるか分かんねえ。とりあえずティッシュ! と思いつき、寝室にあったなと走る。ティッシュを数枚抜いて戻り、絨毯を抑えた。染みこむ前だったのか、それとも汚れにくい加工でもしてあんのか、だいたい取れたように見えるけど、ちゃんと濡らしてもう一回、拭いた方がいいよなと、もう一回寝室へ走る。
(あ、つかティッシュケースごと持ってけば良いんじゃん)
花柄の布とレースで飾られたティッシュを持ち上げると、ぱた、となんか落ちた。
「やべやべ」
ティッシュケース壊れたか? 慌てて拾って……
「え」
手元をマジマジ見る。
「コンドーム。……だよな。ラブリーだけど」
こんなトコまで部屋に合わせてあるのか、薔薇模様の袋。しかも3つあった。
え、ココに備え付けとか? いやいやいや、ねえだろ、ラブホじゃねんだから。つか、だとしてもティッシュの下に隠しとくか? ねえよな。うん。
じゃ、なんで?
「藤枝」
ビクゥ、として瞬速で振り返る。
寝室の入り口に立ち尽くす丹生田がいた。少し見開いた視線は、俺の手元に注がれてるっぽくて。
……はっ、つかやべ!!
手にあるのは薔薇模様のコンドーム。
なんであるのか知らねえ、けどベッドの上で片手にティッシュ、片手にコンドームの図ってどうよ!? どうなのよ!?
「あ、あの違くてコレ」
ベッドの上で立て膝のまま固まりつつ、焦って二つを放り出した。
「つか、ここに置いてあっ……」
無言で突進してきた丹生田が、ものすごい勢いでベッドに上がってきて、声が途切れる。次の瞬間、ロココな花柄布団の上に散らばってた薔薇模様のコンドームはデカい手の中に収まった。
「あの、違くて」
咄嗟に言い訳、しようとしたけど、顔上げた丹生田の睨むような眼差しに射貫かれて、半ば開いたままの唇は声を失い、震えるだけになる。
なぜか必死な感じの顔見れば適当言っちゃマズイ感ぱねえし、なにが起こってるか分かんねえし、そもそもアタマん中まっ白で、なんも浮かばねえ。
「これは……っ」
絞るような低いうなり声が丹生田の唇から漏れる。意味不明な勢いに押されて、ベッドの上にストンと腰が落ちた。
「置いて、あったんだっ洗面所にっ」
「……せ、洗面所?」
返したけど、ほとんど空気が漏れただけみてーな囁きになった。
「ンじゃなんで……」
ココにある? と言い切ることはできなかった。でかい両手に両肩をつかまれ、目の前に怖いくらい真剣な顔が迫って、喉が機能停止したつうか。だって丹生田、縋るみたいな焦ったみたいな顔してるんだ。
「この間はっ」
囁くような音量の、けど必死な、低い声が続いた。
「余裕が無く……っ、だから今日は」
「え」
もっと近づいた丹生田が、体重をかけてくる。のしかかるデカくてゴツイ身体の勢いでベッドに倒れる。
(なに? なに?)
いつのまにかキスされてた。
開いたくちに舌がぬるっと侵入する。パニクってたら、なぜか腹を撫でてる。手が直接。なにが起こってんの? ゼンッゼン分かんねえよっ!
(ちょい、ちょい落ち着け! 落ち着けよコラ!)
自分に言ってんだか丹生田に言ってんだか分かんねえけど、必死に丹生田の肩を押す。一瞬、岩みてーに動かなかった体から力が抜け、唇が浮いた。けど丹生田はのしかかったまま、体で押さえつけられたまま。
服ごしに丹生田の体温と重み。硬い筋肉の感触。カアァッと血が上りアタマん中真っ赤で、
「き、つかおま、な……」
声は裏返り気味でパニクったまま、けど丹生田もパニクってるぽい。超マジな、縋るみたいな目で。
「ちゃんと─────月がきれいだっ」
荒い息の合間に、絞るような低い声。
(なん、え? 月?)
「月がっ、きれいだっ、藤枝っ」
つか、つか、なんでンな必死つか、一所懸命だ?
なんて声にするヒマは無く、またすぐ唇は塞がれ、舌がくちの中に入ってきた。唇は体重かけてる感じで押し付けてんのに、くちン中で暴れる舌は、こっちの舌を誘うみたい。風呂の時みたいに、ちょい遠慮がちな、優しい、けど深いキス。
(ああもう)
わけ分かんねえ! 分かんねーけど!
ギュッと目を閉じて舌を絡め返す。
だって丹生田のキスじゃん。味わっとかねーともったいねーじゃん。
けど目を閉じたら五感が増幅された感じで、腹にあった手が脇腹をそろそろ昇ってくとか、くちの中の舌の動きとか、そんで丹生田の硬いのが足に当たってるとか、こっちも股間がヤバイとか、色々感じてどっと汗が出る。
キスには必死で応えてんだけど、なんか手にチカラ入んねえつか、押し返すとか無理で、Tシャツの肩あたりつかんだ。
したら恐る恐る触ってたぽい手に遠慮が無くなった。脇から腹、胸と触ってくる探るみてーな動きでピクビクッとかしちまって、したら舌がくちの中から引いて、きつく吸われたあと唇が浮いた。
「……藤枝。月が、……きれいだ……」
少し上擦り気味の声。濡れた唇に、ハァハァと荒い呼吸がかかる。
こっちも息整えるのに必死。んで反応しちまってるとか意味分かんねえとか、パニクり気味でコッチの声もかすれた。
「な……に、言って」
「だから藤枝。今日は、ちゃんと」
「ちゃん……とっ、て」
なんとか声返したら、丹生田の体が浮いた。腹とか触ってる手はそのまんまで、ときどきビクッとしちまいつつ目を開くと、怒ったみてーな照れてる顔がすぐ近くにあった。
「きちんと、藤枝を気持ちよくする」
「え」
肌に触れてた手が引き、パーカーのファスナーを一気に下ろす。そのままジーンズのボタン外しジッパーに手が─────やば、ちょい勃ってんだよ俺っ!
「タンマっ!」
焦り気味に言うと、ジーンズの前を半ば開いた状態で手は止まった。
「……ダメか」
めっちゃ必死な、真剣な、丹生田の目が、まっすぐこっちの目を見てる。
「ダメか、藤枝」
「つか、えっと……じゃあ、あの」
眼前の丹生田が固まってる。息も止まってるみたいで、必死な眼差しのままで、じっと待ってる。
「あ……またやん……の?」
丹生田はフウと息を吐きつつこっくりと頷いて、また言った。
「月が、きれいだ」
なんだ、月がどうした、わけ分かんねえよ! けど、でも丹生田がまたやりたいって言うんなら
「ばっか」
少し笑って言うと、丹生田は眉尻を下げた。あんま可愛くて、手が丹生田の首後ろに伸びてた。
つか、むしろラッキーじゃんね? あれ一回こっきりだって思ってたんじゃん。それがもう一回あるってコトじゃん。なら……
「マジでダメなら、ぶん殴ってるつの」
ニッと笑いかけると、丹生田はくちを真一文字に結んだ。
「ンなやりてえんなら、遠慮なんてすんなよ。俺だって、まあその」
さすがに言い淀んだ。
が! 藤枝拓海二十歳、やるときはやるのだ。丹生田の目を見て、腹に力を込めて言ってやった。
「やりてえし」
目を見開いた丹生田がめっちゃ可愛くて、無自覚に笑ってしまいつつ首を引き寄せ、こっちからキスしてやった。丹生田の舌がくちの中に忍び込んできて、目を閉じる。それは奥歯を舐り、頬の裏側を擦り、そして舌を撫でるみたいに絡みついてくる。こっちからも舌を添わせると、きつく吸われたけど、なんつうか、丁寧つか、舌はやっぱ優しい。つかいや丹生田って、意外とキスうまい、……のかな?
ちょいボーッとして来つつ思ってたら、唇が浮いた。
「ありがとう、藤枝」
低い、低い囁き。
そっと目を開くと、めっちゃ近い丹生田の顔は、安心したみたいにちょい笑ってて、「ばっか」こっちもちょい笑っちまう。ほっぺのあたりとか赤いんじゃね? なんだよやっぱ可愛いな! なんてテンション上がる。
「俺言ったろ? おまえのこと好きだって」
瞬間、丹生田の顎が膨らんだ。おおかっけー。くちをグッと噛みしめたんだな、とか思って見てたらガバッと身を起こした丹生田は、ほぼ一動作でTシャツ脱いだ。
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