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133.好きなこと。得意なこと。

 一時間ほどで彫金体験は終了した。  また迷い無くずんずん歩く丹生田について行きながら、もらった袋に目を落とす。  自分で作った小皿を持ち帰ってきたわけ、なんだけど。 「あら個性的。世界に二つとない物ですもの、良い思い出になりますよ、きっと」  という微妙なお言葉まで頂いちゃってたりする。ちなみにめちゃきれいだと絶賛した丹生田の作品は、初心者として標準的な出来なんだそうだ。  高居センセが袋とか取りに行って引っ込んで、二人になったとき 「……藤枝にも不得意があるとは……」  低く呟いた丹生田は、なぜかめちゃ不思議そうだった。 「なに言ってんだよ、めちゃめちゃあるっつの!」  つうか出来ねえことだらけだっつの! たとえば……なんて考えると、あああ落ち込みそう……だから考えない!  アタマん中切り替えてニカッと見返したのに、丹生田は目を伏せたままだ。 「おまえは、なんでも出来ると……」 「はあ?」 「有能だからな。橋田や、峰、姉崎も」  なんつってこっち見た目がちょい細まってて、なにげにドキバクしつつビックリだ。俺らのこと、ンな風に思ってたって? いやいやねえよ、ねえだろ。つかなんだよ、その目は。 「バッカおまえ」  完全信頼しきってるまっすぐな……ンなガタイで厳ついくせに、目だけガキみてーとか反則だろっ! めっちゃカワイイじゃねーか!  けど「……俺は……」とか言いかけたとき、その目になんか悲しい色が乗った気がした。ハッとして、ちょい慌てる。  ダメだこの感じ、愚鈍、とか言うときのアレだ! ソレ聞きたくねえかんな俺! 「つかさ!」  咄嗟に声を上げた。 「誰だって出来ることと出来ないことくらいあんだろ! 俺だって、おまえだってさ! みんなそうなんだよマジで! だっておまえ、橋田がニコニコ朗らかに歌って踊るとか、想像出来るか?」 「…………」  少し驚いたように、丹生田の目が見開かれた。 「出来ねえだろ? 橋田ぜってーやんねーだろ? つかやろうたって出来ねーだろそんなん! それに峰! あの強面にホストとかできるか? 女の人に微笑んでキザな台詞とか、ぜってー無理だろ! 爽やかにスポーツする標とか、ねえだろ? ハキハキしゃべる鈴木とかもあり得ねえだろ? 姉崎だって……」  あの人でなしにも当然できねえこと……あれ?    姉崎ってなにげに勉強出来るんだよな。スポーツもそつなくやるし、ケンカ強えし、演説とか得意で、仕事は真面目にキッチリやるし、なんだかんだ面倒見も悪くねえから、なにげに下級生に人気あるし、上とか教授とかにもけっこう可愛がられて世渡りうまいつか。そんで女にモテる。あんだけ女寄って来ててヘラヘラしてて、なのに揉めてるの見たコトねえ。  えーと…………マズイ、できねえこと思いつかねえ! なんでだよっ! あんだろなんかっ! 「あれは」  眉寄せながら丹生田が呟いた。 「平和な家庭を築けないだろうな」 「あ~、確かに!」  だよだよ、そうだよ! フツーに当たり前のこと出来ねーんだよあいつ! 「ぜってー波風立てるよな!」  なんかホッとしてニカッと笑ったら、丹生田も「ああ」と呟いて、くちもとにちょい笑みを上せてる。 「つうかさ、誰でも向き不向きあるってコトだよ! なんでも出来る奴なんていねーし、いたら逆に怖いわ」  なんてやってたら、高居さんが作品をちゃんと梱包して袋に入れて持ってくてくれたわけ。  そんなこんなで出てきた教室からちょい歩いて、さっきのシャレオツ通りに戻ると、丹生田はふっと目を向けニヤッと笑った。おお、なんだよその自慢げな感じ! 「ここだ」  ドア押して入ってったのは、オシャレな感じのカフェだ。  つかココ、さっきまだ閉まってたよな。もしかして丹生田、最初はココ来るつもりだったとか? なんて思いつつ、ついて入る。 「うわ、イイなココ」  北欧風の素朴な手作り家具や、内装も手作り感満載だけどシンプルで、すっげーイイ感じ。いつかこんなインテリア揃えて、なんて夢見てた、ちょいそんな感じもして。 「うわー、これ良いなあ。おー、こっちもかあ」  なんてあちこち触ったり撫でたり。ああ、ココとか、わざとちょい粗い仕上げにしてんだろな、雰囲気イイなあ、なんてテンションあげあげで店内ウロウロする。 「藤枝」  呼ばれてハッとした。 「頼むものを決めろ」  目を細めた丹生田が、早速座ってこっち見てたる。  やべやべ、一瞬状況忘れてたわ。 「お、わり! そだな!」  慌てて向かいに座り、丹生田とメニュー見る。手描きのイラストとか写真とかコラージュしてあって、凝ってる! なんて思いつつ、オススメになってた『ローストビーフ丼』のセットにして、女の人に丹生田が頼んだ。  そんで、「ここは気に入ったか」なんて聞かれて「うん!」めちゃ頷いたら 「好きに見たら良い」  優しい顔で言ったから、また店ン中ウロウロする。北欧の雑貨とか雑誌なんかも置いてあったりして、「へえ~」とか手に取ってたら「それは販売してるんですよ」なんて、さっきの女のひとがニコニコ声かけてきた。 「あ、そーなんすか。すんません」  あんま触っちゃマズイじゃん、なんて手を引いたら「いえ、あの、どうぞ」慌てて言われた。 「イイんすか」 「はい、手に取って見ていただいて。これは見本ですから」 「マジスか」  ぐわっとテンション上がり、「これ良いっすね!」なんて声あげちまう。 「こうやって雰囲気作るって、アイディアだな~。あ、こっちはまた違うんすね~」 「そうでしょう? このカメラマンは……」  お姉さんも嬉しそうに喋りながらページめくってく。  めくる、その度に違う発想が見える。もちろん家具や小物自体もカッコイイのばっかだけど、それだけじゃない。配置、アングル、光の当て方。一番カッコ良く撮るアイディアが、どのページにも凝らされてる。当たり前だ。載ってる家具が違うんだから。同じ撮り方じゃあ、それぞれの良さを出せない。  いいなあ~、自分の部屋ならどう作ろうって、色々考えちまうなぁ~。 「そういうのがいいのか」  低い声。  いつのまにか、丹生田がすぐ後ろに立ってた。  お店の人はビクッとかしたけど、丹生田がちょい笑顔で優しい顔してたから、すぐニコッと笑う。 「どうぞ、ごゆっくりご覧下さい」  ちょんとお辞儀した店の人に「どもっす」ニカッと笑ったら丹生田も軽く礼して、お店の人が奥へ入ってくの見送り、優しい顔のままこっち見る。 「買うのか」 「う~ん。……いや」  なんて言いながら、指はまた次のページを繰る。ああ、コレも良いなあ。 「いいのか」 「ンや、けっこう高いし、やめとく。今じゃなくてもイイし」 「そうなのか。気に入ったのだろう」  いじましくページを繰る指は止まんなかったりするんだけど、でも今日は丹生田とお出かけで、こんなん買ったらしばらく見ちまうだろうし。そんなんもったいねえし。 「つうか、好きなんだよ、こういうナチュラルな感じの……ほらコレとか」 「ああ」 「ンでも寮じゃなぁ、飾るってもイマイチだし。てかそもそも、こんな家具まだ買えねえよ。まあそのうち、自分で部屋借りたらな、インテリアは好きなので揃えてーけど」  つうかせっかく丹生田と二人、こんなんに夢中なってんじゃねえと雑誌置いて、小物を手に取り弄びつつニカッと丹生田見る。 「ま、全部は無理でもソファとテーブルはイイの欲しいかな。ンな高くなくてもイイ奴あるし」 「……なるほど」  なんてしゃべってたら「お待たせしました」つって食事がテーブルに運ばれた。二人して礼とか謝ったりしつつ席に戻る。メシ食うとき、いつも丹生田は黙々わしわしだ。とっとと食い終えてトイレに立った。丹生田が戻ってくるのと入れ替わりにトイレ行って、戻ったら会計が終わってた。 「わり、俺の分いくらだっけ」 「いい」  こっち見ないで、そんだけ言って出口に向かう。 「ありがとうございましたー」  かかった声に黙礼だけ返した丹生田がとっとと出てくんで、「めちゃうまかったッス! また来ます!」つって追っかける。  のしのし歩ってく背中に追いつき「おいって!」声かけつつ腕を引いた。 「バーガーも払ってねーし、さっきの彫金だって。今度は俺が払うって」 「いいんだ」 「なんだよ、なにがいいんだよ」 「今日は奢る」 「は?」 「金が入ったからな」  ニヤリとなんだか余裕見せてくるから「つってもおまえ」言い返した。 「使い切ったらマズイだろうよ」 「今日はいいんだ」 「はあ? つかどしたんだよ? らしくねえだろ」  そんでも丹生田は「いい」としか言わねえし、まあいっか、次は奢る! とか決心して、また電車に乗り、どーでもイイことだべりながらなん駅か乗って、自信満々な顔に戻ってる丹生田について降りた。

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