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163.家具屋の人

 奨学金おりたとか、申請してた遠征費用が戻ったとか。  カネ入ったら、丹生田は誘ってくる。  てか時間取れそうなときにピンポイントで声かけてくんだよな。会長の仕事入ってたり、定例会とかサークルで忙しくしてたりだと言ってこない。こっちの生活把握されてる感ぱねえんだけど、まあヤな感じはゼンゼンねえ。見てくれてンだなって感じで、なにげに嬉しい。  初めのうちは『メシ食いに』とか『ちょっと付き合え』とかって誘ってきて、一緒に出かけて、そんでホテルに行くって流れで、そういうときは全部おごるって言い張って、何度『ここは出すよ』つっても払わせてくんない。  そうじゃねえときはフツーに割り勘だったりするんで、こういうときは全部カネ出すって決めてるっぽい。  なんだけど、結局はホテル行くわけで。なんか、こういう手順踏むんだって丹生田は決めてるっぽいんだけど、いくら奨学金降りるったって結局借金なわけだし、カネ使わせんの悪いし。  で、先々月。 「映画を見に行かないか」  つって誘ってきたから、あ~、とか思ってさ。だって丹生田からこういう風に誘うのってー……とか。  なんで言ってやった。 「つうか結局行くんだろ」  したら顎膨らませてこっくり頷いて、いきなり抱きしめ、つうか羽交い締めぽく背中から固めてきて、唸るような、んでもやっと聞こえるくらいのちっさい低音で言った。 「ホテルに行こう」  それから、まんまな言い方するようになった。  声は決まって囁くみたいな低い声で。 ちょいビビってるときの、ガラスハート必死で抑えてる声だ。そんで、そういう声聞くと俺は、身悶えしそうに血が滾る。めっちゃ可愛いじゃん! つってさ。  んだけど、そんときの顔は見たこと無かったりする。  てかいつも抱きしめたり、背中向けさせられたりした瞬間に言うんで、顔見れねンだ。  まあムード的なモン丹生田に期待してねえ、てか逆に変にムード出されたらぜってーキョドるし、だからイんだけど。  そんで一緒に寮出るときもあるけど、今日みてえに昼からってときは午前中それぞれ用事があったりする。そんで待ち合わせするんだけど。  つまりあの家具屋の近くのコンビニで。  早く着いちまったときとか、家具屋で時間つぶしたりするんで、なにげに顔覚えられてるっぽい。てかウロウロしてると、決まってあの、初めて丹生田と行ったとき展示を案内してくれたおねーさんが声かけてきて、そんときの『期間限定の展示』案内してくれて付きっきりで解説とかしてくれる。  つうか俺にココの家具買うようなカネねえの分かりそうなもんだし、仕事イイのかって感じなんだけど、せいぜい十五分か二十分程度のことだし、ダメなら来ねえンだろうし。  なんで時間つぶせてラッキー、てな感じになりがちで家具屋に行っちまってるてか。  ほぼほぼ時間通りに来た今日は、まっすぐコンビニ入った。どこ行くにしてもノド渇いたら困るし飲み物でも。ホテルで買ったらたけーし、そもそもあそこペプシねーし。  て!  え、なんだよ!? 「……あの、済みません」  すぐ近くで声したけど、それどこじゃねえ!  ペプシねえんじゃん! 前来たときあったよな? なんでねえの? てかどーする!?  つうか最近ペプシ置いてるトコ少なくね? 食堂担当に陳情続けて、今年やっと寮にペプシの自販機入ったつのに、なんでコンビニに無ぇんだよ。いやいやいやそうじゃねえ、今はそこじゃねえ、選ばねえと。  う~、ジュースにすっか? 果汁百パーとか……いやちげーな。お茶も違うし……コーラはペプシ派としてぜってー選べねえ。くっそペプシありゃ一瞬で決まるのに、ねえから悩む。 「あの」  またすぐ近くで声。そんで肘あたりに感触。え、と見たら、ニッコリ笑った家具屋の店員さんがいた。 「……あ~、ども」  ヘラッと返す。いつも展示コーナーに案内してくれるおねーさんだ。そっか、すぐ近くなんだしちょうど昼時だしフツーにコンビニくらい来るよな。 「お昼、買いに来たんすか」  ニカッと笑いながら言うと、おねーさんも「ええ」ニッコリした。 「今日はお店にいらして下さるんですか?」 「いや、待ち合わせなんす」 「待ち合わせ?」  おねーさんがニッコリ首傾げたとき 「……藤枝」  低い声が聞こえ、顔向ける。入ってきたデカいやつ。こっち見てる目が少し細まって、くちもと緩んでる。つまり超嬉しそうな顔だ。 「丹生田!」  ぱあっと笑顔になっちまってる自覚なんて無い。 「すまん、遅れたか」 「いや、だいじょぶ」  てか時間通りだっつの。つって一歩踏み出したら、肘のあたり引っ張られる感じがして反射的に腕を振った。けど離れないんで振り返ると、おねーさんが肘の少し上を掴んでた。 「え?」 「あ、済みません」  スッと手を下ろしたけど、おねーさんはニコニコしてる。 「えっと、なにか」  聞いたけど「いえ」とかニッコリしたまま。 「どうした」  すぐ近くに来た丹生田が声かけてきたんだけど、なぜか眉根に縦皺できてて、ちょい心配そうだ。 「またお店にいらして下さいね。お待ちしております」  とかニッコリ言って、ちょいっとアタマ下げたおねーさんはさっさと出て行った。丹生田は眉寄せたまま見送ってこっちを見た。なんも言わねえけど、アレはなんだ、て顔に書いてある。 「いやホラ、近くの家具の店、ホラ前に行ったトコ。ソコの人。昼メシ買いに来たとか」 「…………良く行くのか」  なぜかギロッと睨む目になってる。 「良くっつか、待ち合わせンとき早く来ちまったらあそこで時間潰したり……」 「そうか」  低く呟きながら、二の腕ガシッとつかんだ丹生田は「行くぞ」とかグイッと引っ張っるから「ちょ、おい」言いつつ一緒に外へ出る。そのままズンズン進んでくのについて行ったけど、意味分かんねーし、てかちょい心配だ。  だからバッと腕を払って丹生田の手を外し、こっちから腕掴んでこっち向かせようとした。けど背中向けたまま動かない。パワーじゃ勝てねえ。けどやっぱ気になる。 「どしたよ?」  つって腕引っ張って、でも丹生田はやっぱ石みたいに突っ立ったままだ。 「……済まなかった」 「なにが?」 「遅くなって済まなかった」 「え、なに言ってんだよ。時間通りだし」 「しかし待たせた」 「いや、俺が早く来すぎてるだけで」  ようやく、丹生田が振り向いた。 「え」  なぜか目つきがめっちゃ鋭い。知らない奴なら睨まれてると思うだろなってくらい。 「どした?」  けど俺には分かる。どうしたら良いか分かんなくなってんじゃね?  なんでヘラッと笑ったら、丹生田は、ふうう、と息を吐いた。 「行くぞ」 「あ、うん。てか、」  デカい手が肘のあたりを掴んで、そのまんま歩き出す。 「おい、引っ張んなくても」  丹生田はそのまま裏通りに向かって……つまり。  まっすぐホテルに入った。  部屋に上がって、がっしり両二の腕つかまれて、噛みつくみたいにキスされた。  そのまま抱きしめられる。キツくキツく、痛いくらいにキツく。息出来ねえし痛えし、なんとか顔振って唇外し「おいっ」言ったら、やっと腕の力が少し緩む。  すーはー深呼吸しながら顔見て、ついニヤニヤしちまいながら聞いた。 「どした?」  だって、すっげ追い詰められたみてーな顔してんだもん。力は緩んだけど、離そうとしねーんだもん。  そんな一所懸命なんなくても逃げねーし、ちゃんとここにいるよ? 「ヤんだろ? シャワー浴びるか?」  そんで、丹生田のこと好きだよ? デートも良いけど俺もエッチしてーよ? ビビんなよ。  ──────腕が緩んだ。そんで指が俺のシャツのボタン外し始める。  俺も丹生田のTシャツたくし上げて脱がす。きれいな上半身に見とれながら、胸筋とか腹筋とかさわさわしながらニヤニヤ見上げるてると、丹生田もじっと見下ろしながら、手は忙しなく動いてる。ジーンズの前開いて、パンツの中に手ツッコんできて…… 「あ……」 「……藤枝……」  顎が膨らんで歯を食いしばってる。めっちゃ目力(めヂカラ)入ってる。  カッコいいなあ。 「月が、……藤枝」  食いしばった歯の間から、きしむみたいな声が漏れた。 「月が……きれいだ」  また。  なに言ってンだ、このくそバカ。

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