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171.勘違いすんな

「……藤枝」  ちょい遠慮がちな低い声に起こされ、ぼんやり「いま何時」と聞いたら「八時十八分だ」と返された。 「え、朝練行かなかったの」  ぼやーっとしたまんま、珍しいこともあるもんだ、なんて思いながら言ったら、顔覗き込んでくる丹生田が、ちょい苦笑した。 「ボケてるな」 「え」  髪を撫でるように手が動き、残る腕が抱き寄せてくる。引き寄せられるまま身を任せる。  全身が少し高い体温に包まれ……包まれ……? うん、肌に直で体温が……  ハッとした。  てか、え? まっぱ? もしかして? 肌が直で当たる感触が全身に……えっ、てことは!  丹生田もまっぱ!? そんでおんなじベッド!?  てか天井の景色が違う。イヤ天井どころかココ寮じゃ無くね?  なんて思って目を上げると、バッチリ目が合う。  て……おい、ちょいちょい、ちょい丹生田おまえ「……勃ってる?」よな? だって当たってるっての硬いのが! 「……済まん。だが今はこれだけでいい」  そう低く言った丹生田は、覆い被さるみたいに抱きしめる腕に力を込める。  つっても痛くない程度、優しく抱きしめてる。なんも言わずに。  あ、そか。ゆうべホテル来たんだった。  俺から誘ったのって初めてだったよな。そんで、なんつうか丹生田がずいぶん……しつっこかったつうか、ねちっこかった、つうか。そゆことも思い出して、カァッと身体が熱くなる。  泊まりだってコトもあったかも。  久しぶりってせいもあるかも。  丹生田はしつっこいくらい身体なで回して、あちこちキスしてあちこち舐められて、コッチもなんか触りまくってた。言葉も無く、黙々と身体求め合うみてーな、とにかく触ってたくて、大好きで大好きで、丹生田が。  したら突っ込まれる前にイっちまって、いくら早いってもねえだろ! とか落ち込む暇も無く、なんだか必死な目に見つめられながらまた触りまくられて、カアッとアタマん中熱くなって。 「藤枝。……藤枝。ふじえだ。……ふじ、えだ」  何回も何回も熱っぽく呼ばれて、とろっとろになってから入ってきた丹生田に、おかしいくらい感じまくって…………そんで、いつのまにか落ちてたらしい。 「一応、身体は拭いたが。シャワーは浴びるか」 「えっ? ああうん、浴びとくかな」  つって身を起こす。 「大丈夫か」  したら丹生田もむっくり起きあがって、腕伸ばしてきた。ちょい目を細めて、優しい顔してて、ドキッとかしつつ 「は? なにが」  ベッドから降りながら聞いたら、腰支えるみてーに手を添えてくる。 「一人で行けるか」 「行けるわバカ!」  なんつって慌てて手を払った。だって触られたら……いやいやいや、今そんなん思い出すな!  シャワー室に飛び込んで、色々思い浮かぶのブンブン頭振ってたらちょい冷静になった。  てかまだ寮祭中なんだから帰んねーと、なんて思いつつ身体洗って出てくと、丹生田はすっかり身支度整えてた。 「飯を食いに行こう」  とかいつも通りの落ち着いた低い声で、優しい顔で。 「あ、うん」 「急がねば。九時を過ぎてはマズイだろう」 「そ、そだな」  なんつって一緒にホテル出て、牛丼屋でかっこんで、なんか、あんま会話ない感じで寮に向かった。  つうか丹生田はデフォルトで無口だから、俺がしゃべんなきゃ静かなのはいつも通り、なんだけど。まえ一時期あった気詰まりって感じはもう無い。しゃべんなくてもだいじょぶ、てか隣に丹生田がいて、そんで時々目が合ったら黙って目を細めてるってだけで、ゼンゼンOKてか、ラッキー幸せてか、そんな感じで。  寮に着いて四階まで上がる間も廊下歩く間も「おっ、朝帰りかよ~」「どこ行ってたんだ?」とか声かかり「うっす!」「ほっとけ!」とか返しつつ、部屋まで向かった。 「俺は警備の準備がある。おまえは」 「あー、俺も巡回とか、しねーと」 「そうか、頑張れ。無理をするなよ」 「うん。そっちも」  なんつってあっさり部屋に入ってく丹生田の背中が消えちまって、なんか寂しい感じになりながら会長室に入る。 「なんだよコレ。ちょいちょい、勘違いすんなよ」  なんて自分に言い聞かせ、パンと両手でほっぺ叩いて気合い入れる。  勘違いすんな。セフレがしばらくぶりにエッチしたってコトだろ。 「う~、おいおいおい、しっかりしろ俺」  恋人じゃねーんだ、コッチが思ってるようなこと、丹生田も考えてるなんて、勘違いしたらダメだ。  すうう、はああ、とか深呼吸して「っし!」もっかい気合い入れ、執行部室へ向かった。  既に待機してた田口に「はよ~」とか軽く挨拶。 「おはようございます、藤枝さん」  昨日の報告とかに目を通してたら、十時過ぎてから橋田もやってきて、「おはよう」なんて声かけてくる。 「おはようって時間じゃねえぞ」 「うん。そうだね」  なんつっただけでモニターに集中だ。こうなるとあんま構ってくんねえって分かってる。 「俺、気になるトコ見てくる。そんでそのまんま巡回してくるな~」 「はい、いってらっしゃい」  と、帰って来るのは田口の声だけだけど、今さら気になんねえ。 「あっ、藤枝さーん」 「ほんとだ藤枝さんだ~」 「おう、疲れてねーか?」 「うす!」 「めっちゃ楽しいっす」  寮内や駐車場や、小道にも行ってみんなの様子見たり、なんか無いか聞いたりしてると、あちこちから声がかかる。 「楽しいの良いけど、ちゃんと交代してっか? 休憩も取れよ」 「聞いて下さいよ~、あいつ遅刻ばっかで」 「藤枝さんだー、藤枝さん、ちょっとこっち」 「こっち来て! 見て! これこれ!」 「おっ、イイな! 超ハデハデじゃん」 「でしょ? 急遽作ってみたんス」 「ココのコレ! 分かる?」 「なに? 分かんねーよ」 「ダメだな~、コレ分かんねーとかダメだわ~」 「え、つってもさ」 「しょーがねーよ藤枝さんだし」 「だなー、藤枝さんだもんな~」 「おまえらなんだよっ! なにが言いてーんだよっ」  憎ったらしいコト言うからちょい暴れたけど、みんな笑ってるし、楽しそうにやってる。  だって俺がみんなに言ったんだ。  決まったマニュアルなんて要らねえ、みんな笑顔になれればイイじゃん? どうせならみんなで祭り楽しもう。来てくれた人たちが楽しめるように、それぞれ思いついたことをやろうよ。そんでお客が笑ってくれたら、やってるコッチも嬉しくなるんじゃねーかな。  そんなんが浸透してんのかどうか分かんねえけど、とにかくみんな笑顔で楽しそうだし、それでイイんじゃね? なんつって、見てるだけでコッチまで楽しくなってくるわけで。 「どうだ、会長」  聞こえた声に、ニヤニヤしたまんま振り返る。 「今年も賑わっているが、問題は起きてねえか」  ニヤッと笑う峰を始め、スーツにグラサン姿の保守メンバーが並んでた。 「おお! 細けえことはあるけど大丈夫。そっちは?」 「大きな問題は起こっていない」 「そっか」  なんだかんだ、姉崎が去年やったことで今年も継続してることは少なくない。そん中で俺が声を大にして継続を訴えたのはコレだ。  会場のあちこちに立ってたSPばりの保守メンバーは、なんだかんだ、去年の寮祭でもウケてた。SNSでも拡散されたし、今年もソレやった方が絶対イイじゃん! つって。  つうか保守メンバーは強面多いし、接客やったらビビられるかもだし、だったらコレやってもらった方がイイじゃん? 「藤枝」  そんで当然、丹生田もいたりするわけで。スーツにグラサン、ビシッと姿勢良くて、くちもとだけちょびっと緩んでて、めっちゃかっけー……。なんて思いつつ、今朝の、あの抱きしめられた腕の感じとか、あと昨日の~あの~色々とかがフラッシュバックしそうになり、慌ててブンブン頭を振る。 「どうした。疲れているのか」  やべやべやべーって勘違いすんなっての! 「いや! 平気平気! つかちゃんと休憩とか取ってるか? そっちこそ無理すんなよ」 「休憩のために来たんだよ」  峰がグラサン外しながらニヤリと笑った。てか峰って目ヂカラぱねえから、グラサン外した方が迫力あんな。 「メシ食うついでに、せっかくだから激辛うどんも食っておこうかってな」 「ああ~、そっか」  去年好評だった激辛うどんトライアルは、本チャン二日目の今日からやる。そんで試食つって、一杯三百円で売ってんだ。ステージは昼過ぎからだけど、すでに食ってるやつもいる。 「午後の警備に影響でねえ程度にな~」 「分かっている」 「去年よりグレードアップしているということだしな。楽しみだ」  とかってグラサンしたまんまの保守連中がニヤニヤしてると「やっぱちょい不気味だな」なんて思わず思ってることがくちから漏れた。 「その方が警備効果あるだろう」 「おまえの場合はグラサン取った方が不気味だけどな」 「なに!」  とかなんとか、デッカいのが小競り合い始めるし、ソコだけ空気が暑苦しい感じもして「じゃ俺、他も見回ってくるな!」と手を振った。 「ではな、藤枝」  丹生田も片手上げて見送ってくれて、ブンブン手を振り返す。  う~~~、やっぱかっけー。そんであのでっかい手が今朝……いや! いやいやいや、考えんな、気にすんな、気にしたら負けだ!  それから各屋台巡ったり、集会室や娯楽室も回って、「調子どうだー」とか声かけて回った。どこも調子よさそうだし、ひともたくさん来てくれてる。  まず小道入り口でのアピール度合いがすげえし、ステージのイベントに参加する寮外の連中も勝手に宣伝してくれてるし、去年と違って寮内への導入もスムーズ。なぜって座ってゆっくり飲み食いはこちらって、最初から誘導するし、食うモンそっちまで俺らで運ぶから。ソレがうまく回ってる感じで。  つっても池町と田口が仕切って決まったやり方で、会長はだいたいの方針言っただけ。祭り始まってからも全体を見るってことになってて、今年はステージとかやんねーんだ。そんでも見てるだけじゃ物足りねえ、いっそあそこに混じって騒いだら、とかウズウズしてんだけど、出しゃばると仙波と橋田と瀬戸に怒られるから、抑えて巡回しながらニヤニヤ顔キープで執行部室に戻る。  そんで、ドア開く前に深呼吸。 (平常心で行くぞ。平常心平常心平常心。……よし)  いつだってまっすぐ前向いて!  会長、藤枝拓海はそんなやつ! それでよし!

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