7 / 22
第7話
ここは、何処だろう…
身体が浮いているような、フワフワ包まれているような…
鼻孔を爽やかな森の香りが擽った。
ここは、森?
ポカポカして、あったかい…
気持ちの良いまま目を閉じた。
『きゃあぁぁぁぁぁああああ!!』
突然、女性の叫び声で空気が一変する。
陽が陰り、攫うような風が吹き、木々が激しく踊り出した。
森の騒めきに心臓が早鐘を鳴らす。
ここはさっきまでと同じ森のはず。
瞳孔を見開き辺りを見渡した。
ふと、下を見下ろすとウサギの耳がついた親子が必死に走っている。
だか、母親と思わしき女性は足に傷を負い思うように走れていなかった。
子供は必死に母親の手を握り泣きながら走り続けている。
足から血を流し続け、酸素が足りないのだろう。
崩れ落ちるように母親が倒れた。
同時に巻き込まれ、子供も転んでしまう。
『お母さん!!』
子供が立ち上がらぬ母親の背中に縋り付き、赤い瞳から溢れるように涙を零した。
母親は必死に子供を立たせ、背中を押す。
『早く、早く逃げなさい!』
『嫌だ!出来ないよ!お母さんを置いてなんて…』
『行きなさい!!母さんはもうもたない。母さんの事は置いて行きなさい。あと少しで街の門に着く。門の中にさえ入れば狂獣は襲ってこない。大丈夫、○○○○なら走れるよ。大丈夫』
母親は子供をそっと抱き寄せ、頭を撫でた。
『いやだ、やだよ…』
泣きながら首を振り続ける子供に優しく言い聞かせた。
『私の愛しい子。貴方は母さんの自慢の子よ。母さんの分まで、幸せに生きなさい。母さんは貴方が生まれてきてくれて、こんなにも大きく育ってくれて、笑いかけてくれて、"お母さん"って呼んでくれて、幸せだったわ。○○○○には母さんよりももっと長い命があって、沢山の幸せが待ってる。だから、お願いだから、走って、逃げて』
母親は涙を零すまいと必死に子供に笑いかける。
『さぁ、、もう行って。門まで振り返らずに全力で走りなさい。一度も振り返ってはいけません。出来ますね?』
母親の手を握りぽろぽろと泣き続ける子供の手をそっと外し、背中を押した。
『行きなさい!!』
母親の声に体を震わせ子供は泣きながら走り出す。
『生きなさい…。幸せになるのよ…“ルドルフ”』
涙を零しながら草の上に倒れる。
グッタリとした身体はもう動きそうにない。
促されるままそっと目を閉じようとした。
ビリッ
張り詰めた空気と肌を刺す殺意に身体を震わせた。
ーー嫌だ、
ーーー嫌だ、
ーーー怖い、怖い怖い
ーーーーーー死にたくない
母親は震える身体を引きづり、前へ前へ進もうとする。
両手の爪が剥がれ、血が流れ出す。
恐怖に震え、涙を零してもなお、必死に身体を動かし続けた。
襲いくる死の恐怖が彼女を動かした。
『…私だって、生きたい………』
黒く大きな陰が彼女の背中を覆っていた。
ともだちにシェアしよう!