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はじめまして
「はじめまして。俺はサクって言います。あなたは?」
明るい無造作な茶髪に、にっこりと細められた二重の目に、整った笑み。
服装もストールだかマフラーだか俺には分からないが、お洒落な物を首に巻いていて、細身なのに背が高く、優男っぽい。
けれどさすがに、本能的に、怪しく見えた。
アルコールのおかげで恐怖心はないにしろ、かろうじて疑念は残っているらしい。
「サク……。ふぅん、それ、本名なんれすか?」
「ふはっ、ただの酔っぱらいだと思ってたけど、意外と警戒心はあるんですね」
「……サクくん、は、わるいひと、れすか? おれ、おかね、今ほとんろないお」
実際、財布のなかはほぼ空っぽで、正直に言えば話しかけてくることもないだろうと思い言ったのだが、サクと名乗ったお洒落な青年は、その場から立ち去ることはなく、なぜか困ったように笑っていて。
幼い子どもに言い聞かせるみたいに、落ち着いた優しい声で話す。
「うーん……、お金よりも、あなたに興味があって、お声をかけさせていただきました」
「おれ? おれは、ふつーのサラリーマン、きんたろう」
「金太郎さんって言うんですか?」
「んふふ、ぎめーだお、ぎめー。きみといっしょ」
顎を突き出して、むふふ、と気持ち悪く含み笑いする俺に、彼はきょとんとしている。
一体、何歳くらいなんだろうか。
初めは20代半ばくらいに見えたが、本当はもう少し若いかも知れない。
うまく思考の回らない頭で、そんなことを考える。
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