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呂律もまわらない

 言われてみれば、彼は確かにカツアゲなんてチンピラ的なことをしそうに見えない。  まず本人の纏う空気と、服装が物語っている。  人から金を奪うような輩が、こんなにお洒落で落ち着いた雰囲気をしているはずがないと思った。  見た目こそ優男で優雅。だが、その反面、人は見かけによらないのを、豊富ではないが今までの人生経験で、俺は知っている。  しかし酒がいい具合に回っている俺には、実はそんなことどうでもよくて、今はとにかく、どろどろに眠ってしまいたくて。 「金太郎さんは、ここで何してたんですか?」 「おれ、家、わからない。でも、眠いから、寝ようとおもって、座って、ぼうっとね、ちょーちん見てたら、眠くて」 「それって、迷子ってこと?」  夜中に差し掛かろうという時間帯に、知らない男に声をかけられて、なんとなく、ナンパされる女の子の気持ちが分かる。  だけど俺は男だから、別に嬉しくはないし、とは言っても、うっとうしくも感じない。  不信感はあるが、危機感が全くないのだ。  スーパーとかで、店員のおばさんに話しかけられた時の心境に近いかも。  好意的に接されて邪険にも出来ず、相手のペースに流されてる、みたいな。  まあ、それに疑心がプラスされているが。  その上、今の俺は所詮へろへろの酔っぱらいだ。  首を傾げて優しく問われると、警戒心もなくへらりと笑う。 「まいご? えへへ、そうかも、しれなくもない」 「どっちですか、それ」  ふは、と眉を八の字にして、男は微笑んだ。  初対面の人と、こんなふうに話せるのが楽しい。

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