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ゆらゆら揺れる

 ずっと、優しい印象を受けていた、彼の落ち着いた声が、状況が変わると何だか冷たく怒っているように聞こえる。  嘘をつけるほど頭が回っておらず、本心まじりの精一杯の謝罪をして、俺はぐずぐずと鼻をすすった。 「……金太郎さん、俺は、怒ってないですよ。ただ、話を聞いてほしいだけで」 「……?」  うつ向いていた俺の頬に、男が手を添える。  反射で顔を上げると、真摯な眼差しと目が合う。  今までの穏やかな笑顔はどこにもなくて、なんだか緊張してしまう。  急に張りつめた空気になった気がして、茫然とする俺に、さらに彼の顔が近付いてきた。 ──きす、される……っ、  びくりと肩を竦め、とっさに目を瞑る。 「いつもと違う、少しのスリルを、味わってみませんか?」  ところが、近付いた顔は触れることなく、通りすぎて。  代わりに、耳許で低音を囁かれた。  その声は、台詞は、俺にとって魅力的なものだった。 「スリル……、」 「そう、こんなこと、普通なら男女がすることです。でも、それを男同士でするのって、すごく禁忌的で、魅惑的でもありません?」  まるで、ドラマとかで口付けをしたあとのような甘い雰囲気を醸し出しながら、彼は緩慢に俺から顔を離し、見つめる。 ───スリル。  それは、機械的で平坦な日常を送っていた俺には全く疎遠なものであり、ひそかに一番、渇望していたもので。

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