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お試し

 俺の迷いや躊躇いを察したのか、男はふわりと微笑む。  包容力のある柔らかな笑みは安心感すら覚えて、同時にどこか妖艶でもあった。 「……誰でも、初めてのことに挑戦する時は、怖いものです」  だから、と、彼は続ける。 「俺と、少しだけ試してみますか?」 「どうやって……、」 「キスさせて下さい。それで、金太郎さんが気持ち悪いって思ったら、止めましょう?」 「……」  その台詞に、ごくり、と喉が鳴る。 ──あぁ、やっぱり俺は、酔っている。  そう実感したのは、ほぼ無意識に、ぎこちなく首を縦に振っていたからで。 「では、失礼しますね」 「う、や……っ、ここで、するのか?」  さすがにこんな道のド真ん中じゃまずいと思った俺は、ぐっと距離が近付いた彼の胸を押し返し、辺りを盗み見る。  しかし、疲れてるのかアルコールのせいなのか、遠くのほうは目が霞んでよく見えない。 「大丈夫、ここは今の時間だとほとんど人通りもありませんし、ちょっとだけです。誰か来る前に、済ませちゃいましょう」 「でもっ、……ッ、!」  手首を掴まれ、身体の距離が近付く。  顎を引いて目を瞑った俺に、彼は下から覗き込むように口付けてきた。 「んっ、ぅ……、」  迷う隙もなく、触れた唇。  身体を包む外気はひんやりと冷たいのに、触れあったそこだけが熱く感じた。

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