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プレゼントクリスマス1

命と暮らしはじめてやっと二人での生活にも慣れてきた。 ピンポーン♪ 昼近くになり、インターフォンが鳴る。 俺は来客の相手が分かっているので、モニターも見ずに玄関に向かった。 「やぁ…よく来たね」 「パパさん。こんにちは!」 玄関を開けると日の光にキラキラと輝く、綺麗な金色の髪が見えた。 俺がにっこり笑うと、玲ちゃんも満面の笑みを返してくれる。 「どうも若旦那。いつも玲がお世話になってます」 「いやいや、こちらこそいつも助かってるよ」 玲ちゃんの“旦那様”である圭介がその後ろでぺこりと頭を下げるので、こちらも凝縮してしまう。 わざわざ自分達の家から遠く離れた俺の家に来てくれただけでも大変な労力だ。 「れいちゃん!!」 インターホンの音で来客に気が付いたのか、命が寝室からやって来るトタトタという軽い足音が聞こえる。 「みことちゃん!」 「命…て、おい、ちょっと待て…」 玲ちゃんから嬉しそうな声があがる。 俺が振り替えると一糸纏わぬ命がぬいぐるみを抱いたままこちらに小走りでやって来るのが見えた。 「服を着なさい、服を!!」 俺は慌てて命に走り寄って抱き上げる。 「やーん、れいちゃぁん」 「ちょっと上がって待ってて!ほら命!お客様の前ではそれはだめだよ」 「ふふ、みことちゃんてば、うっかりさん」 「うっかりさん……なのか?」 後ろからそんな声が聞こえる。 しかし命は無邪気に玲に手を振っているのを肩越しに感じて小さく溜め息がもれた。 俺は寝室にあるクローゼットに向かいつつ、昨日の夜に色々したまま命を寝かせた俺も悪かったと反省する。 元々命は裸で居ることに対して羞恥心を抱かない節がある。 「ほらもういいよ」 「はーい」 服を着せた命はいい返事をして嬉しそうに走って行ってしまう。 俺もクローゼットを閉め少し遅れて命の後を追うと上がるように勧めたのにリビングに二人の姿がなかった。 玄関に再び向かうと、命と玲ちゃんがぎゅうぎゅうとくっついているのが見える。 「なんだ、上がってくれてて良かったのに」 「いえ…折角のクリスマスイブにご予定のお邪魔になってもなんなので、今日は直ぐにおいとまします。なぁ、玲?」 「今日は、みことちゃんとおやくそくしたクリスマスケーキをとどけにきたの」 圭介が玲ちゃんに同意を求めると玲ちゃんはうんうんと頷く。 圭介の手に握られている紙袋がそうだろう。 「そのためだけに、わざわざ?!年末の忙しい時に悪かったね」 「いえ…いつもお世話になっていますから、気にしないで下さい」 玲ちゃんが名残惜しそうに命から離れる。 俺が仕事をしている間、命は玲ちゃんに見てもらうことがあったので逆に悪いなと思ってしまう。 その後に圭介に持たせていた紙袋を受け取り、その中身を俺に見せてくれる。 「これが、ケーキ。いちごをはさんで、スポンジにクリーム、ぬるとこまでやってあるの。デコレーションきっと楽しいからパパさんとみことちゃんいっしょにやってね。イチゴと、クリーム、あとかざりはこっちにはいってるからね!」 「そうか…ありがとう。上手くできるか不安だけど、やってみるよ」 紙袋のなかにはイチゴのパックと、絞り出すタイプのクリームの紙箱が入っている。 こんな商品があるのかとまじまじとその箱を見る。 「やった!ケーキ、ケーキ!」 「ふふ、みことちゃん、パパさんと、かわいいの、つくってね。このまえ、おもちゃでれんしゅうしたのと、いっしょだよ」 命は玲ちゃんが広げている紙袋を覗きこんで、それがケーキだと分かると飛び跳ねて喜んでいる。 命は“店”に居るときに玲ちゃんの作ったお菓子にハマッてしまったらしく、よく玲ちゃんにお菓子を作ってくれるようにおねだりをするようになったそうだ。 二人を買い物に連れていってやると、俺の買わないような食材がカゴに入れられるのが面白い。 「わかった!がんばる。ねえ、パパ?」 「そうだな…」 キラキラ光る命の目に俺は苦笑いしてしまう。 この前二人の為にオモチャのケーキを作るキットをネットで見付けて買ってやった。 アクセサリーにもできるとパッケージには書いてあったが、玲ちゃんと作った物を大切そうにキーホルダーにした命を俺は微笑ましく見ていたのだが…本物でその成果が試されるとは思ってもみなかった。 「それから、こっちの袋にはターキーと、サラダ、それからオードブル。あと、スープもはいってるの。たくさんつくったから、おすそわけね」 「なんだかこんなに悪いね」 クリスマスケーキを持っていくと玲ちゃんから聞いては居たが、こんなに至れり尽くせりだとは思ってもいなかったので玲ちゃんと圭介を交互に見る。 「いや、こちらこそなんか、押し付けてるみたいですみません。玲がどうしても渡したいと聞かなくて…」 「いやいや。命は食が細くていつも困ってるんだが玲ちゃんが作ってくれたものだけはよく食べる様になったんだ。だから、とても助かるよ…」 命がまた紙袋を覗きこんで俺の服の裾をつかんで喜んでいる。 玲ちゃんは遠いのによく家に来てくれて命の食事の管理をしてくれている。 なかなか食が太くならない命に、はじめは心配していたが俺が簡単に作った料理か玲ちゃんが作った料理なら少し多目に食べてくれる事が最近分かった。 「そう言ってもらえると、気が楽です」 「お礼と言ってはなんだけど、これ持って帰って」 今度は圭介が凝縮したように頭を下げる。 そんな圭介に俺は用意していた袋を差し出す。 中には、貰い物のシャンパン数本と少し大きめの箱が入っている。 「や、こんなに沢山受けとるわけには!!」 「大切な″奥さん″の時間を割いて料理をもらったお礼だから、受け取って」 圭介が遠慮をして受け取ろうとしないので、俺は無理矢理それを持たせる。 そして圭介に一歩近づくと、二人には聞こえないように小さな声で圭介に耳打ちする。 「あ、奥の箱は“旦那様”宛だから。一人で開けること」 俺がそう言うと、圭介は神妙な面持ちで小さく頷いた。 俺が満足して圭介から身体を引くと、反対の手に持っていた包みを命に渡した。 「ほら…これ玲ちゃんに渡すんだろ?」 そう言うと、命は思い出したようにコクコクと頷いた。 ぎゅっと包みを一度抱き締めて、少し照れたように俯きながら玲ちゃんの前へと歩み出る。 「あのね…あのね、れいちゃん!!」 「なあに?」 玲ちゃんも少し屈んで命の前に立った。 すると、命は俺に確認するように俺の方を向くので頷いてやると、意を決したように息を飲んだ。 「これっ…クリスマスプレゼントなの!」 顔を真っ赤にしながら玲ちゃんに包みを差し出す。 その光景は漫画のワンシーンの様で、大人を少し甘酸っぱい気持ちにさせる。 「わあ…!!」 玲ちゃんは一瞬何事が起こったのか分からない様子だったが、途端に嬉しそうに目を細めてそれを受け取った。 大切そうにその包みに頬を寄せると、にっこりと微笑む。 「ありがとうみことちゃん。レイ…とってもとっても嬉しい」 「ほんと?よかった!!」 命の目にはうっすらと涙が浮かんでいるように見えた。 「あけてもいい?」 「もちろん!」 玲ちゃんがそれを丁寧に丁寧に開いていくと、エプロンが姿を表す。 白地にピンク色の小花が散った可愛らしいデザインのものだ。 胸当ての中央には大きな赤いリボン。 後ろで結ぶリボンには揃いの色でレースがあしらってある。 「わあ!とってもかわいい…!うれしい!」 玲ちゃんは、それを自分に当ててみながら大喜びだ。 玄関に設置してある姿見用の鏡の前でエプロンの端を摘まんだりして左右に動いて確認している。 「あれ?もしかして、手作りですか?」 「そうだよ、よくわかったね」 命は俺の仕事を手伝うこともあるが、退屈だろうと子供用のオモチャを昔のように買ってやった。 その中のひとつに子供用のミシンがあった。 女の子用のそれは大したものを作れるわけでは無かったが、命がもっと小さな頃に好きだった絵本に乗っていたミシンに興味を示したので買ったものだった。 はじめは危ないと思い子供用のミシンだったが、滅多に俺におねだりなどしない命が次に欲しがったのがソーイングセットと家庭用のミシンだった。 それから命は俺が教えても居ないのに毎日ミシンを踏むようになった。 はじめは玲ちゃんに教えて貰いながら簡単な雑巾からはじまった。 次に作ったのが簡単なエプロンだった。 小学生の家庭科の授業で作るようなエプロンが、今は少し飾りで誤魔化しつつだが玲ちゃんにぴったりなエプロンまで成長したのだ。 「命が作ったんだよ」 「え!それはすごいね…」 圭介からは驚きの声があがる。 それが聞こえたのか、命は更に恥ずかしそうにするのが少し可愛いと感じる。

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