21 / 120
プレゼントクリスマス6
「プレゼント!!ぼくにもサンタさんからプレゼントがきてる!」
玲ちゃんとの電話を切った後、俺の膝に居た命は思い立った様にベットルームに走っていく。
ベットルームからは嬉しそうな声があがり、命のトタトタという足音がこちらに戻ってくる。
「パパ見て!サンタさんからのプレゼント!」
「良かったな」
「でもぼくがおねがいしたのより…ちいさいよ?」
「ん?」
命が不思議そうにラッピングされた包みを見ているので、俺はそれに背中に冷たいものが流れるのを感じた。
世の子供を育てている大人達がするように、俺も命にきちんと欲しい物のリサーチをした。
しかしながら命の言葉が抽象的過ぎてよく分からないことがある。
特殊な環境に居た命は満足な教育なども受けて居ない。
巽の店で読み書きを叩き込まれ、少しならそういったことはできるようだが、ふとした瞬間に言葉が出てこず、もどかしそうにしていることがあった。
「どどどー!って動くプロ用のヤツなんだろう?」
「うん。おようふく作るのに新しいのほしかったんだけど、サンタさん魔法で小さくしちゃったのかな?」
その言葉を聞いた瞬間、俺の頭の中では“やっちまったー”という声が上がる。
俺が用意したのは、圭介に渡したラブグッツの詰め合わせを命用にしたものだった。
どどどーと動くというのをヒントにしたのだが、完全に間違ってしまったようだ。
「そうだね。サンタさん魔法で小さくしちゃったのかもしれないから、大きくなるまで別の部屋に置いておこうか」
「そうだね!パパ片付けておいて?」
プレゼントの包みを俺に寄越して可愛く首をかしげる命に罪悪感で胸が痛くなる。
命は学校に通ったことも、同年代の子供と過ごしたこともないので常識的な事が欠落している。
巽の店で一緒だった玲ちゃんも俺が見る限り、少し普通とは言えない環境で育ったのがありありと分かる。
引きこもりだった俺も人の事は言えないが、命は同年代の子供や絵本に出てくるような特別な人間は魔法が使えると思っている。
なので魔法が使えないせいで自分は俺に心配をかけてしまっている悪い子だと言っていた。
「ぼくも練習したら、ミコミコみたいになれるかな?」
「俺はそのままの命でいいからゆっくり大きくなろうな」
俺は罪悪感を誤魔化すように命の頭をわしわしと乱暴に撫でる。
「パパのプレゼントも貰ってくれるか?」
「ぼくもパパにプレゼントあるの!」
俺の言葉に嬉しそうな命は、少し悪戯っぽい顔になる。
まさか命からプレゼントがあるとは思わず、驚いた顔をしてしまったのだろう命がクスクスと笑っている。
「翔ちゃんにタブレット?でおてほんみせてもらいながら作ったの」
命はサンタクロースからのプレゼントと一緒に持ってきた包みを俺におずおずと渡してくれる。
翔には今度何かお礼をせねばならない。
「開けてもいい?」
「うん!!」
俺が包みを開けると、黒色のマフラーが出てきた。
きっちり編み込まれたそれは既製品と言われれば信じてしまう程のできだった。
「命凄いよ…ありがとう」
「えへへ」
俺はマフラーを撫でたあと命をぎゅっと抱き締めやる。
「あ、そうそう俺からはこれな」
「ふうとう?」
「なか見てごらん」
「わぁ!!」
俺が渡した封筒をそうっと開けると、カラフルなチケットが出てくる。
そのチケットには海外の有名なネズミのイラストが描かれている。
「行きたいって言っていただろ?」
「うん!パパありがとう!!」
俺のプレゼントは気に入ってくれたようで命が抱き付いてくる。
子供特有の高い体温が心地いい。
+
「命…クリーム絞るの上手だな」
玲ちゃんが途中まで仕上げてくれたケーキを命と一緒に飾りつけをしていく。
フルーツの好きな命の為に常にフルーツが家にあるので、命は自分の好きなフルーツを使ってデコレーションをしていく。
「パパ!おしゃしん撮って」
「はいはい」
命に急かされスマホを構える。
カシャッというアプリのシャッター音の後に撮った画像を命に見せる。
「れいちゃんにおしゃしん送れる?」
「玲ちゃんじゃなくて、“けいちゃん”か“しょうちゃん”に送った方がいいかな…」
命は俺のスマホを覗きこみながら問いかけて来るが、俺もそうだが圭介は結構嫉妬深い。
「そっか!けいちゃんおもち焼いちゃうもんね」
「うん…餅は焼かないけど合ってるよ」
俺もついつい苦笑いになってしまうのだが、命や玲ちゃんの発言はたまに斜め上を行っていて驚かされる事があるのだ。
「なら、圭介に命が上手にデコレーションしましたってメールしておくな」
「はーい!」
命は自分で飾りつけをしたケーキを満足そうに見ていた。
俺はすぐにメールアプリを起動して先程撮った画像を添付して軽く文面を作って送信ボタンを押す。
チーン♪
「とりさん焼けた!」
「温まったかな?」
オーブンから電子音が鳴り、アルミホイルで焦げないようにして温めたターキーを取り出す。
オーブンを開けた途端に香ばしい香りが部屋に充満する。
「玲ちゃんに感謝だな…こんな立派なクリスマスなんて久々だ」
「ぼくクリスマスしたことないし、サンタさんもはじめて来てくれたし、パパと一緒にごはんたべられるだけでうれしい!」
その言葉だけで俺の胸がいっぱいになる。
「これから沢山楽しいことしような」
「うん!れいちゃんやけいちゃんやしょうちゃんともね!」
「そうだな…さぁ、料理運んでパーティーしような」
それから玲ちゃんの作ってくれた料理で最高のクリスマスパーティーになったのは間違いない。
こんな楽しい気持ちでクリスマスを迎えられたのは本当に久しぶりで、命が目の前でターキーに苦戦しているのを見ながら、これから楽しい事を沢山させてやろうと心に決めたのだった。
まぁ、苦戦しただけで命はターキーを食べずにほとんど俺の腹に収まったのはれいちゃんには秘密にしておこう。
ともだちにシェアしよう!