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正月はお肉6

「れいちゃんもう大丈夫?」 「みことちゃんゴメンね?けいちゃんがいたからだいじょうぶよ」 朝、生活スペースのリビングにやってくると朝食を作っていた玲ちゃんに命がとことこと近付いていく。 俺は寝巻きに使っているスウェットのままあくびをしながらソファーに座るとテレビをつけた。 翔は気持ち良さそうに寝ていたので仕事部屋に置いてきている。 「若旦那…おはようございます」 「昨日は大変だったな」 「いえ…」 圭介は俺の用意した寝巻き姿で、頭を押さえながらリビングにやって来た。 昨日はそんなに呑んだ様には見えなかったのだが、玲ちゃんの昨夜の様子を考えると激しい運動により脱水症状が進行して二日酔いが助長されたのかもしれない。 「昨日は楽しめたか?」 「おかげさまで」 俺が自分の頭を手櫛で整えながらニヤニヤして小声で質問すると米神を押さえつつではあったが、コクンと頷いた。 昨日、命に持たせた紙袋にはセクシーな下着が入っていた。 着物の下には下着を着けないという話もあるが、あれはただの迷信だ。 「あれのおかげで気が紛れたのか助かりました」 「俺も何かあるとは思ってたけど、あそこまでとはね」 玲ちゃんが命の為にパンケーキを焼いているのが目に入った。 命はそれを横で興味深げな様子で見ている。 二人のほのぼのとした様子を見ていると、辛い過去があったようには全く見えない。 「みことちゃんのはフルーツいっぱいにしようね」 玲ちゃんは手際よくフルーツを切って盛り付けている。 その横では鍋が湯気を立て、グリルでは何かを焼いている香りがしている。 「しょうちゃんはまだねてるの?」 「うん!昨日れいちゃんにおやすみしてからしょうちゃんねちゃって、パパと3人でおもちゃで遊んだの!」 命がにこにこパンケーキがデコレーションされていくのを見ながら元気に答えているのが聞こえてくる。 「あー。ごちそうさまでした」 「え?」 命の声が聞こえてきたところで、俺はまずいと思って反射的に圭介に頭をさげる。 しかし、圭介は聞こえていなかったのか頭を押さえて前のめりになっている。 「今日も泊まっていった方が良さそうだな…」 「いやそれは流石に…迷惑ですから…」 「それじゃ運転も辛いだろ」 吐き気と戦っているのか今度は大きく息を吐きながらソファーに背中を預けている。 流石にこれはまずいと思って、キッチンにミネラルウォーターを取りに行くことにした。 「パパさん!」 「え?はい?」 俺が冷蔵庫に近付くとコンロの近くに居た筈の玲ちゃんが俺の側にやっていていた。 「ふつつかなむすこですけど、よろしくおねがいします!」 「ん?」 「ぼくも!」 そう言いながら俺の腰に抱きついてくる。 それを見ていた命も訳が分からないなりに一緒に抱きついてくるものだから俺は一層意味が分からない。 「おはようございます。昨日は酔っぱらっちゃったみたいでスミマセン」 俺が戸惑っていると玄関から翔がやって来る足音が聞こえてきた。 リビングに現れた翔は俺と命で着替えさせたスウェットを着ていて、随分慌ててこちらに来たのか髪型もボサボサなままだった。 玲ちゃんもピンク色のパジャマ姿だし、命もパジャマ代わりの俺の痛Tシャツのままだしで、皆がラフな格好で1つの家族の様で不思議な気分だ。 「お前何してんの?」 「あ…お魚焦げちゃう!」 俺にくっついてきている玲ちゃんに翔は不審そうな顔をしたが玲ちゃんは気にも留めずコンロの方に戻って行った。 「しょうちゃんおはよう」 「命くんおはよう」 命は俺から離れると翔の腰に抱きついた。 翔は命に視線を合わせるために屈んでやっている。 「かみのけボサボサだよ」 「え?起きたら誰も居なくて、急いでこっちに来たから…あれ?俺いつの間に着替えたっけ?」 命が屈んだ翔の髪を整えるように手を伸ばし、サイドの髪を撫で付けてやっている。 そんな翔はふと自分を見下ろして自分が着ているものに不信感を抱いている。 「しょうちゃんぼくがセットしてあげるからせんめんじょいこうよ」 「うん…口の中変な味がするな」 命は嬉しそうに翔の手を引いて洗面所に行ってしまった。 「パパさんこんやはおせきはんよ!後でおかいものにいかなきゃ」 「残念ながらまだいただいてませんよ」 圭介の様子に今夜も泊まることが確定していると確信をした玲ちゃんはグリルから出した魚を皿に乗せながら満面の笑みで俺に宣言してきた。 しかし、残念な事に昨日の夜は玩具で遊んでやっただけだ。 しかもエネマグラは医療器具の一種といってもいいので、正確には遊んだと言うより唾をつけたと言った方が正しいかもしれない。 「は?」 「ちょっと苦しそうだったから、命が抜いてあげただけだよ。俺はそれを見て、命とちょっと遊んだだけ」 「チッ…」 俺の言葉にいつもの玲ちゃんからは想像がつかないような舌打ちの音が聞こえた。 これが命の言う“わるいこ”の片鱗なのかもしれない。 でも、冷蔵庫に背中を預け近くに居る俺にしか聞こえない程度の大きさだった。 圭介には聞こえないように配慮しているあたりは実は計算高い子なのかも知れない。 「でも、気に入っているのは確かだよ。だからそのうちいただいちゃうかもね」 手に持っていたペットボトルのキャップを開けて口に含む。 それを飲み込むと、玲ちゃんににっこり微笑む。 俺の顔を見た玲ちゃんはさっきとうってかわり嬉しそうな顔になって味噌汁の鍋をひとまぜした。 「でも、後で買い物には行こうか」 「そうね。みことちゃんにたくさんたべてもらわなきゃ」 自分が口をつけたボトルを冷蔵庫に戻して新しいものを取り出す。 俺はソファーの圭介の元に水を持って歩み寄っていった。 「しょうちゃんかっこいいよ!さすがぼく!」 「ありがとう命くん」 「ふたりもどってきたし、モーニングにしましょ」 洗面所から戻ってきた翔は着替えまで済ませて綺麗に髪がセットされていた。 全体にワックスが使われているのか全体の毛先が無造作のように仕上げてある。 俺も組の仕事の時は命がセットしたがるので任せると、なかなか上手くセットされて以外な才能があるものだと思ったものだ。 「ふふふ。みことちゃんクリームついてるよ」 「むー。まだナイフむずかしい」 命は朝から玲ちゃんの作ったクリームたっぷりのパンケーキを食べているのだがナイフの使い方が難しいらしく少し苦戦していた。 まぁ朝といっても既に昼に近い時間になってしまっている。 玲ちゃんはそれを甲斐甲斐しく世話をして口の端に付いているクリームを舐めてやっている。 「その髪型いいね」 「ありがとうございます」 俺が綺麗に整った翔の髪型を褒めると、少し恥ずかしそうに茶碗を持ち上げている。 玲ちゃんは俺達には純和食という料理を用意してくれていた。 焼き魚に、ご飯に味噌汁。 シンプルながら味噌汁はきちんと出汁が効いていてとてもおいしかった。 二日酔いの圭介は味噌汁を飲んでからそのままソファーに沈んでしまった。 「しょうちゃんタブレットかして?」 「いいけど、ゲームのアプリには触るなよ」 「はーい!おちゃわんはおみずにつけておいてね」 いつの間にか食事を終わらせた玲ちゃんは食器をさっと片付けて翔に話しかけている。 そんな翔は、玲ちゃんの言葉に片手をあげるだけで返事をしていた。 「しょうちゃん!!」 「どうした?」 急に近付いていてきた命に翔は箸を置いた。 「この写真に映っている子…」 「あぁ。こいつは部活の後輩だ。とっても俺の事慕ってくれてたんだけど途中で学校に来なくなって凄く心配してたんだけど、家も分からないしこの写真だけでも思い出にって残してあるんだ。なんで?」 「ん?んーん」 命は画面をしばらく凝視して、すぅと目が細くなっていく。 「みことちゃん大丈夫!?」 「う、うん何でもないよ。ごめんね」 しばらく動かなくなった命に心配した玲ちゃんが強制的に命の顔をあげさせる。 それに命は、はっとした顔をするが直ぐに表情を作ってちゅっちゅと玲ちゃんの頬にキスをしていく。 「しょうちゃんなんかアプリきえたよー」 「はー?なんだって!」 玲ちゃんの声に、翔は慌てて二人に寄っていく。 命は終始黙ったまま時々翔や、玲ちゃんに振られる話に頷いていた。

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