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桜の時2
「命そろそろ行こうか…」
「うん!」
梱包など簡単な作業を手伝っていると、パパはパソコンから顔を上げ大きく伸びをする。
パパが椅子から立ち上がると、ぼくに声をかけてくれるのでぼくは大きく頷く。
生活スペースに戻ると二人で和室に向かう。
「さ、洋服脱いで着替えるよ」
「はーい!」
ぼくは元気よく返事をすると、着ていた服を全て脱いで下着姿になる。
「スポーツブラも外していいよ」
最近ぼくの胸によく超音波式のマッサージ機を着けるのでぼくの胸は益々膨らんできて女の子みたいになってきた。
そのせいでパパにはスポーツブラを着けるように言われているが、はじめの頃は抵抗感があったけど今は何も思わなくなるほど馴染んでしまった。
ぼくは言われた通りスポーツブラも脱いで脱いだ服の上に置く。
「本当に改めてみると女の子みたいな身体になってきたよな」
「むぅ。パパがしたんだよ!」
パパがパンツ以外のものを全て脱いだぼくの身体をまじまじと観察するのでぼくはぷぅと頬を膨らませる。
元々ぼくの小さな身体はこの家に来てからどんどんと変化を遂げていた。
胸は膨らんでくるし、お尻もお肉がついた気がする。
「そうだな。俺好みの身体になったよ」
「むぅぅ」
ぼくのお尻をからかうように撫でてくるのでぼくは更に頬を膨らませた。
「乳首も可愛い色から厭らしい色になったし、最近遊びすぎたかな?」
「うー。パパ…たくさんなめなめするからだもん」
ぼくは胸に手を当てながらどんどん声が小さくなっていく。
パパが言う様に最近胸も膨らんできたが、乳首の色も少し濃くなってきたのだ。
「うーん?気を付けてたんだけど、伸びてきちゃったかな?」
「きゃん!!」
パパがぼくの手を少し退けて乳首をきゅっと摘まんで軽く伸ばされる。
そうされると背中に電流が走った様に気持ちよさが頭まで一気にかけあがった。
「うう…」
乳首にじーんとした痺れが残る。
ぼくはそれが名残惜しくてパパをじっと見つめるが、パパの手は腰の辺りに移動してきていた。
「ほらキャミソール着て着替えよ?」
「うん」
こうなるともう触ってもらえないことは分かっているのでぼくは諦めてパパから渡されたキャミソールを大人しく着る。
ぼくの下着は身体の大きさの関係で子供用の物が多い。
今渡されたキャミソールも、パパの大好きなアニメである魔法の妖精シリーズの新作“魔法の妖精⭐ポイズンユーミル”の物だ。
「ユーミルかわいい」
「うん。命もかわいいよ」
「えへへ♪」
ぼくがお腹に大きくプリントされた柄を見ていると、パパの一言でぼくの機嫌は良くなる。
単純だと分かっていてもぼくは嬉しくてパパの顔をにこにこと見ながら手を上げたり、後ろを向いたりと着付けしやすいように動いた。
「きょうは帯はだらりにしておこうな」
「だらり?」
「小さい舞妓さんってことかな?」
「ふーん?」
着付けが終わったのか、パパはぼくの背中をポンと叩く。
パパの言っていることがよく分からなかったが、ぼくは目の前でくるりと回ってみせる。
少し動きにくいが袖がひらりと舞って楽しい。
「動画で見といてよかった…似合ってるぞ」
パパも満足そうにぼくを見ているので、それにも嬉しくなってぼくはパパに駆け寄った。
「パパありがとう!ぼくおはなみ楽しみ!」
「楽しいといいな…」
パパは一瞬複雑そうな顔をしたが、ぼくと視線を合わせにっこりと微笑んでくれたのでぼくはぎゅぅっとパパの首に抱きついた。
「少し時間がかかるから寝ててもいいよ」
「うん」
スーツに着替えたパパと、地下の駐車場にやって来た。
ぼくを車に乗せてから自分も運転席に座る。
エンジンが起動するとパパが声をかけてくれたので起きていようと思いつつ返事をしたのはいいが、やはり寝てしまっていた。
「命…着いたよ?」
パパの声で目が覚めると、立派なお屋敷が目に飛び込んできた。
ぼくはすぐにここはパパの実家だと気がつく。
パパの実家は都内にあるのに立派な日本家屋でここだけが別の世界のようだった。
巽の所も立派なお屋敷だったけど、和洋折衷といった内装だったので全く趣が違う。
「おつかれ。こっちで着替えてもよかったな」
「んーん。大丈夫」
パパが車を停め、エンジンを切ってからこちらを心配そうに伺う。
夕日が眩しいからと、かけているサングラスが格好いい。
ぼくは着物を着ているので帯が潰れてしまうので背もたれによしかかれない。
その為若干前傾姿勢になっているのをパパは辛くはないかと心配してくれているのだ。
「本当にいつも面倒をかけてくる…」
パパはサングラスを外しながら大きな溜め息をついた。
ハンドルに軽く身体を預けげんなりとした顔になっている。
「ぼくつかれてないよ」
「そうだな…遅いとまた何言われるか分からないな」
ぼくがスーツを掴むと、パパは苦笑いを浮かべてぼくの頭を軽く撫でる。
ぼくの髪型がハーフアップになってるのでそれが崩れない様に本当に軽くだったので少し物足りない気持ちになったけど今は我慢だ。
パパは腕時計をちらりと見るとまた大きな溜め息をついた。
「さぁ行くか…」
パパはさっと車を降りて、ぼくの乗っている助手席の扉を開ける。
ぼくがパパに向かって手を広げると当然の様にぼくを抱き上げてくれるのでぼくはパパの首に抱き付いた。
パパは足元に置いてあった袋を取り上げると車の扉を閉めて屋敷の方に歩みを進める。
パパは何も言わずに屋敷に上がると、屋敷の奥に進んでいく。
途中で人が向こうから歩いてくるのが見えた。
「お、これがお前の“若紫”?」
「わわっ!!」
「ちょっ!兄さん!!」
その人はぼくをまじまじと見ると、頭をぐしゃぐしゃとかき回され声が出てしまった。
予想外の事にパパが慌てている。
「それにしても若紫は随分小さいな?お前捕まるなよ?」
「兄さんに言われたくないよ!」
パパが珍しく取り乱しているので、ぼくはそれを興味深くじっと見ていた。
「まぁ若紫はこれからいい女になっていくんだろうから楽しみだよなぁ?」
その人がぼくの顔をのぞきこむ。
顔をよく見るとパパに似ているが、目の前の人の方が表情が豊かでしかしパパと同じ闇の匂いがする人だった。
「また後でな~若紫~!!」
「兄さん!!」
その人はぼくの手を取って数回上下に振るとさっとその場を後にした。
ぼくは一連の出来事に呆然としてしまい、気が付いた時にはその人は居なくなっていた。
「パパ…あのひとだれ?」
「はぁ、次男の博英兄さんだよ…パパがお仕事で呼ばれる人」
パパはぼくの乱れた髪を直しながらげんなりとした顔でまた大きな溜め息をついた。
以前紹介された兄という人はやはりパパに少し似ていたが、凛としているが何処か儚げな雰囲気の人だった。
「わかむらさき?」
「ん~。命は知らなくていいよ…」
咲きほど言われた“若紫”が分からなくてパパの顔を見たが、パパは苦笑いをして話を終わらせしまった。
今度お友達の玲ちゃんの息子である翔ちゃんに聞いてみれば分かるかも知れない。
近々パパのお仕事のお手伝いでうちにバイトに来ると言っていたので覚えていたら聞いてみようと思った。
「失礼します…博光です」
「どうぞ…」
パパはぼくを床に降ろすと、膝をついて襖の前に座った。
ぼくもそれに習ってパパの横に座る。
中からの声に、襖をスラッと開けると男の人が2人部屋の中でお茶を飲んでいた。
「こんにちは…命ちゃん」
「おにいちゃんこんにちは!!」
1人に声をかけられたのでぼくはにっこりと相手に微笑んだ。
「さぁ。中においで」
ぼくは手招きされたので素直に立ち上がってトトトっとその人に近づいた。
「兄さん…孫が来たときの年寄りみたいになってるぞ」
「博光さんお久し振りです」
「あ、出水 先生…どうもお久し振りです」
パパもぼくに続いて部屋に入ってくると、もう一人の男の人に声をかけられている。
パパは珍しく改まった様子で何かを話してた。
「やぁ。命ちゃん…今日も可愛い格好だね?」
「うん!おはなみするんでしょ」
「そうだよ」
相手がふわっと笑う顔を見て、ぼくは1つ違和感を感じた。
「おにいちゃんはあの人と仲良しなの?」
「ん?なんでだい?」
ぼくは小さな声で耳元で問いかけた。
パパのお兄さんなので、目の前の人の事を“おにいちゃん”と呼んでいるがとても嬉しそうにされるのでそうよんでいる。
不思議そうにぼくと目を合わせたおにいちゃんは意味がわからないという顔を一瞬したが、すぐにその表情が消えて感情が読めない顔になる。
「おにいちゃん…あの人と居るときにこにこしてたから…」
「そ、そうかなぁ?」
おにいちゃんは自分の頬を擦り、少し慌てて口許を引き締めていた。
ぼくも伊達に大人達の顔色を伺って生きてきたわけではない。
相手の反応にぼくは小さく笑いがこぼれる。
今日はオールバックに撫で付けた髪に、ブランドもののスーツをカッチリと着こなした男がぼくの一言で動揺する姿は少し面白い。
「大丈夫…ぼくナイショにしておくね?」
「うん。そうしてもらえると助かるかな」
ぼくが唇に人差し指を当てていたずらっぽくウインクしてみせると心底安心した様に胸を撫で下ろしている。
「近くの並木通りに屋台が出ているから少し見てくるといい。その間に準備が終わっているだろうから」
そういうとおにいちゃんはゆっくりと立ち上がって、近くの茶箪笥の上に置いてあった箱をぼくに渡す。
「開けていい?」
「どうぞ…博英がこの格好で来るように言ったお詫びだよ」
「すごい!キレイ!!」
紙でできた箱を開けると、そこにはクリアパーツでできた髪飾りが入っていた。
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