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花散らしの雨2

ピピピピピ♪ 丁度その時、命の子供携帯が鳴る。 俺は映像を止めて立ち上がっり、命が普段居るスペースにある背の低い本棚の上にあった携帯を取り上げ画面を見た。 そこには“ママ”という表示が出ている。 俺はそれに一瞬小さく息を吐いてから、躊躇なく通話ボタンを押して電話に出る。 「はい。こんにちは玲ちゃん」 『え?あれ?みことちゃん??』 命の携帯に俺が出るとは思わなかったのだろう凄く不思議そうな声が返ってきて、俺は思わず笑ってしまった。 『あ、パパさん?こんにちは』 「ごめんね?命は今…お昼寝してるんだ」 俺はソファーに居る命への視線をやり、少し考えてから返答する。 流石に俺と命の関係を知っている玲ちゃんにも命を抱き潰した事を言うのは何だか気まずくて適当な事を言って誤魔化した。 「どうしたの?命が起きてから電話させようか?」 『ううん。パパさんにお話があったの!』 「俺に?」 俺は玲ちゃんの意外な言葉に電話越しにもかかわらず首をかしげてしまった。 『あのね?翔ちゃんったら今日朝帰りして、帰ってきたら髪の毛の色が変わってたの!しかも、変なセンパイ?っていう男が翔ちゃんを送ってきたのよ!翔ちゃんが不良になっちゃうーっ!!』 「へ、へぇ…」 矢継ぎ早に話していく玲ちゃんに俺は生返事しかできなかった。 玲ちゃんは家族を凄く大切にしている。 身内だと認めれば過保護とも言えるほど世話を焼いてくるし、命に対する対応がそれを物語っていた。 本当の身内である翔なら尚更のことだろう。 『そのセンパイってやつ凄くあやしいの!ぜったい翔ちゃんに何かしてる!それを言っても翔ちゃんはぜんぜん信じてくれないし、逆に怒るの…』 玲ちゃんの語気が益々強くなってきたと思うと、今度はどんどんと声が小さくなっていく。 自分より年上の息子に相手に、明らかにされていないのは堪えるだろう。 『翔ちゃんったら最近そのセンパイの家に良く遊びに行くのよ!ぜったいなにかあるのよ!』 「わ、分かった…明日翔と約束してるからその時にやんわり聞くから…ね?」 再びヒートアップし始めた玲ちゃんに、俺は明日翔が来ることを思い出して慌てて話を収束させるために提案をしてみた。 俺が止めないと永遠に話をされそうな気がする。 『ほんと?!翔ちゃんそんなことれいにぜんぜん教えてくれないのヨ!!ししゅんきかしら?パパさん!息子をよろしくおねがいします』 「わかったよ」 『また相談にのってね!』 最後に甘えるような声で電話が切れた。 俺は一気に入ってきた情報が処理出来ずに切れた電話を持ったまま固まってしまう。 今電話がかかってきたのは夢では無いだろうかと言うほどあっという間の出来事だった。 部屋には先程とはうってかわって外の雨音が微かに聞こえて来る静かな空間が広がっていて俺の大きな溜め息だけが部屋に木霊した。 + 玲ちゃんからの電話の翌日、まだ雨は止まずに降り続けている。 珍しく俺の起床と一緒に起きた命は不満そうに俺を見ていた。 「どうした命?」 「おっぱい痛い…」 今だ眠そうな命の恨めしそうな声に俺は昨日命に取り付けたニップルサックの事を思い出したが、にっこり笑ってみせる。 「昨日散々弄ったんもなぁ?」 「やぅ…」 Tシャツの上からニップルサックのせいでピンと立ち上がった乳首を弾くと命が竦み上がる。 その反応が面白くて命を膝の上に乗せて、後ろから乳首を指で根元からしごいてやる。 「んっ…」 「おっぱい気持ちいいの?ねぇ…みこと?」 俺は耳に息を吹きかけながら問うと、命は大きく首を縦に降った。 「いっ!!」 「だめだよこれから“翔ちゃん”が来るんだから」 どんどん気持ち良さそうに俺に身体を委ねてくる命の乳首を思いっきり押し潰した。 命は小さな声をあげて背を反らせたので、俺はそこで命の口を塞いだ。 「んっ…ちゅっ、あむぅ」 「はい。翔が来る前に着替えような?」 命の狭い咥内を堪能したあと惚けている命を強制的に着替えさせて、朝食兼昼食のメニューを冷蔵庫の中身を見ながら考えていた。 ピンポーン♪ その時、タイミング良くチャイムが鳴った。 「ほら命!翔がきたぞ?迎えに行ってやれ」 「う…ん」 なし崩しの様に着替えさせたので、まだ少し不機嫌そうだが命は渋々といった様子でゆっくりと玄関の方へ消えていった。 この家に来た当初の命はまだ俺との生活が信じられないといった様子で一生懸命普通に振る舞おうとしていた。 あの時から考えると、今では随分自然に喜怒哀楽を見せてくれる様になった。 不機嫌そうな顔も俺にとっては可愛いものだ。 「う~ん。ろくなものが入ってないなぁ」 冷蔵庫の中には飲み物と玲ちゃんが作り置きしてくれたおかずが少し残っている程度だった。 明日辺り買い出しに行かなきゃいけないなぁと思った。 パタパタ 「こんにちは。お邪魔します」 命の軽い足音ではないゆったりとした足音がリビングにやってくる。 控え目なその声に俺は冷蔵庫の扉を閉じて振り返る。 「いらっしゃい。雨は大丈夫だった…」 俺が声の主の方に顔を向けるとムスッとした顔をした命が翔に抱かれていた。 その予想だにしていなかった光景に俺は言葉を失う。 「あの…命くんどうしたんですか?」 翔は命を抱き上げた状態で、珍しく不機嫌な命に困った様子で背中を擦ってやっていた。 それから、どうしたら良いものかと俺と命を交互に見ている。 「ごめんね。命珍しく俺と一緒に寝坊しちゃってお腹空いてるみたいなんだ。そう言えばお昼食べた?」 「あ~。あいつからの差し入れです」 俺は命の不機嫌な理由が分かっていたが、あえてその事を無視して翔に話をふった。 俺に声をかけられ、思い出した様に腕にかかっていた少し大きめのトートバックを俺に向かって掲げてみせる。 俺は翔に近付いてそのトートバックを受けとると中を覗きこむ。 そこには3段になったタッパー型のお弁当箱が入っていた。 「あれ?もしかして今日の授業これ持って行ったの!?」 「いえ…午前中授業だったんですけど、1コマ休講になったんで家に帰ったら色々言われて、皆で食べろって持たされました」 翔はその時の事を思い出しているのだろう。 げんなりした顔で前に掲げたトートバックを見つめていた。 「でも、わざわざ持ってきて貰って悪かったね。今度玲ちゃんにはお礼しとくよ。ほら命、玲ちゃんのご飯だぞ?」 「うー。食べる…」 そんな命に俺と翔は顔を合わせて笑ってしまった。 ダイニングのテーブルセットに腰をおろすと早速トートバックを開いて弁当を取り出す。 命はどうしても翔の膝から降りなかったのでそのまま食事をすることになった。 まぁ、肝心の翔が嬉しそうにしているので問題はないだろう。 弁当箱は一個ずつ独立したタッパーで、容器を専用のバンドで止める様になっていた。 そのまとめているバンドを外してタッパーをテーブルの上に広げる。 「おぉ…」 蓋を開けると一番上の段にはおにぎりとサンドイッチ、二段目には唐揚げや玉子焼き等の定番のおかずが入っていて、一番下の段にはサラダとデザートが入っていた。 きちんと俺達の好みが把握されたメニューが入っていることに俺は舌を巻く。 改めて玲ちゃんはスーパー“主婦”なんだなぁと実感しざるを得ない。 「タマゴサンドだ!」 「食べる?」 「うん!」 翔の肩に顎を乗せていた命が俺の声にゆっくりと弁当を見た。 そこに入っていたタマゴサンドに命は目を輝かせる。 そんな命に翔はにっこり微笑んで小さい子にするようにトートバックに入っていたウェットティッシュで命の手を拭いてやりながら語りかけている。 「玲ちゃんのタマゴサンドおいしいの!」 「まぁあいつ家事だけは完璧だからな」 翔は納得したように弁当を眺めていたので、俺は席を立って取り皿を棚から取り出す。 そして、翔用の緑のマグカップにコーヒーマシンでカフェオレを入れてやる。 「逆に気を使わせてしまってごめんね?」 「あ!ありがとうございます」 二人分の取り皿とマグカップを目の前に置いて俺は自分の席に腰をおろす。 翔にサンドイッチを取ってもらった命はさっきまでの態度が嘘の様にご機嫌だ。 玲ちゃんのタマゴサンドは、荒く刻んだタマゴの中に小さく刻んだピクルスが入っていて自家製の酸味が少ないマヨネーズと胡椒であえてある手の込んだ1品だ。 他のおかずもどれも手が込んでいて凄く美味しい。 「食べながらでいいんだけど、これバイトの労働契約書。判子持ってきた?」 「はい!」 「後で書いておいて?最近細かい書類とか書けって煩くって…」 「大変なんですねぇ」 俺も弁当のおかずに箸をつけながら、お子様二人を眺めて小さくため息をつく。 トートバックの下にはまるで折り紙の様に折られた手紙が入っていて、そこには俺宛と分かる様に“パパさんへ”とカラフルなペンでかかれていた。 ハート型に折られた手紙をそぉっと机の下で開くと、“ :Please take care of my son, Mr. wolf.”と可愛らしい文字で書かれていてその内容に俺は苦笑いしか出てこなかった。 正しく玲ちゃんは息子を俺に差し出してきた形になるわけだ。 さながら“息子をよろしく!お・お・か・み・さ・ん”と言った所だろうか。 これは据え膳ってやつなのかな。

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