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花散らしの雨3

俺は玲ちゃんの手紙の事について考えていたら、いつの間にかあんなに沢山入っていたはずのおかずが消えていた。 命は翔に口許を拭われつつ何か談笑している。 昼食も終わり、後片付けをして翔と仕事部屋へと移動してきた。 「うぅ…ぼくもお手伝いするぅぅ…ふぁ~」 「あれ?命くんお腹いっぱいになったら眠くなっちゃったのかな?」 命は未だ翔に抱き上げられたままだったが、昼食後の満腹感に大きくあくびをしている。 元々命は睡眠時間が長い。 それは自己防衛本能のせいなのかもしれないが、食後俺達でも眠たいのに命は更に眠たいのだろう。 命がうとうと船を漕ぎ出したので翔がにこにこ命の頭を撫でてやっている。 「翔くん…悪いけど、ベットがあの部屋にあるから命を寝かせてやってきてくれないか?」 「はい」 翔がパタパタと俺が指差した部屋に消えていく。 俺はその間に仕事部屋のリビングに置かれている段ボールを数個開けた。 段ボールの中には新品のバイブが未開封の状態で大量に入っていている。 「あ、スミマセン!俺も手伝います」 「いや商品チェックしてただけだから気にしないでいいよ。先に契約書の処理しよっか」 段ボールの中身を覗いていた俺は上蓋を軽く閉めると作業用に置いてある机の椅子に腰かけた。 向かい側にもう1つ椅子があるので、俺は態度で椅子に座るように指示する。 「仕事内容はピッキング、ウェブサイトの管理。ここは玲ちゃんと違うところかな。後はその他雑用ね?」 「はい」 「時給は900円からで、仕事の内容によって変わるから頑張ればお給金弾むからね!」 「はい。頑張ります!けど…」 向かい合わせに座って俺は翔に書類の説明をしはじめる。 しかし署名と捺印が終わり、説明も終盤に近付くと翔の顔が雲っていく。 「ん?」 「今更なんですけど…美世さんって、何のお仕事されてるんですか?」 「・・・」 神妙な顔で俺に問い掛けてくる翔に俺は思わずぽかんと口を開けたまま一瞬固まってしまった。 よく考えると、玲ちゃんやその旦那である圭介には話してあったがその息子である翔には今まで俺の仕事について話したことが1回も無かったと思い直す。 「そっか、翔くんには話した事が無かったな」 俺は立ち上がって先程の段ボールから商品を1つ掴むと、他の開いている段ボールから数点別の物を取り出す。 「これが、うちの取り扱い商品ね?」 俺は作業用の机の上にそれらをバラバラっと並べた。 それを見た翔は、一瞬ぽかんとした顔をしていたが瞬時にぎょっとした顔に変わる。 「俺はアダルトグッツサイトの経営してるんだ。検索したら結構上位にあるぞ?広告も色々出させてもらってるし…」 「そ、そうなんですか…」 「あれ?こんなの見るのはじめて?」 「いや…あの…えっと…」 翔は俺の言葉通り、大人の玩具を見るのははじめてなのか目を泳がせつつしどろもどろになっていた。 「嫌だったらやめていいんだよ?」 俺はにっこりと翔に微笑みながら提案してやるが、内心ではこう言えば真面目な翔は嫌とは言えないだろうと確信していた。 何事も駆け引きが肝心だ。 「どうする?」 「いえ…やります!」 俺が畳み掛けると、翔は意を決した様に頷いたので俺は営業用の笑みを深くした。 「じゃあ、まずピッキングの仕事ね?この見本みたいに、商品を詰めていってくれる?」 「はい」 俺は翔の目の前で先程翔に見せた商品を専用のBOXに詰めてみせる。 年末に出した玩具の詰め合わせのセットが思いの外好評で再販することになったのだ。 今、翔に梱包を頼んだのは季節感を出した商品の詰め合わせで、シーズン毎に売り出す予定なのだ。 「俺は向こうの部屋で仕事があるから、ここはお願いするね?できた商品は空いた箱に入れて、段ボールに印をつけてね。注文が来たら、その梱包お願いするからそれまでこれをお願いしてもいい?」 「あ、はい…」 俺が矢継ぎ早に仕事の内容を話したのに、翔は戸惑いもなくコクンと頷いたので俺は仕事を任せて命の寝ている部屋に向かうことにした。 玲ちゃんの不安事を確かめる為に、俺は“狼さん”になる準備をしなくてはならない。 「ゲイの素人物…博英兄さんの会社で売れるかなぁ。ゲイものだし無理かなぁ」 俺は足早に移動して、ひとりごちる。 博英の商売柄、借金返済の為に身体を売らせることは良く有ることだった。 水商売やソープに流す前にAVを強制的に撮って反抗出来ないようにするのだ。 そのAVを売るためのレーベル会社を持ってるので、そこで今回翔の映像をジュニアアイドルのイメージ動画よろしく出そうかと考えたが無理かもしれないと思い始めた。 博英のレーベルから出して自分のサイトで売ると言う何ともお手軽な商売だ。 「でも、最近女もAV見るって言うし…。ううーん。とりあえず撮ってから考えるか!」 俺はカメラのセッティングや、撮影の準備をしつつ考えるが考えはまとまらないのでとりあえず動画を撮ることから始めることにした。 そう思ったら後は行動に移すだけだが、ここは窮鼠猫を噛む。 ネズミに噛む隙をあたえることなく、追い詰めて食べてしまえばいいのだ。 そう思うと、楽しくなってきて俺は唇をペロリと舐めた。 + 「あ、だいぶできたね。ちょっと休憩しない?」 翔に梱包を任せて2時間ほどたったので、俺は作戦を行動に移す事にした。 まず翔に休憩を持ちかける。 「そうですね。とりあえず2箱分できたんですけど…」 「凄い!今はそれくらいでいいよ。それより翔くん。今日モニターとかしてみない?」 「モニターですか?」 「知り合いとか、色々な人には頼んでるんだけど沢山データが欲しくってさ」 翔は思いの外仕事の覚えが早い様で、商品の詰め合わせが段ボール2箱分になっていた。 我ながら白々しと思いつつ俺は話をすり替えて人好きしそうな笑顔を顔に張り付けて翔に語りかける。 「これを飲んで、感想を聞かせて欲しいんだ」 「栄養ドリンクですか?」 俺がポケットから取り出したのは栄養ドリンクの瓶に似た茶色の小瓶。 中には液体が入っているがラベル等は貼られていない。 「メーカーの知り合いからモニター頼まれたんだ」 このドリンクの出所はクラブからだった。 麻薬までとはいかないが、飲むと気分が高揚して興奮状態になる強力な催淫剤。 その薬を何十倍にも薄めたドリンクを一般でも売れないかと持ち込んできた。 これでも一応新商品の候補だからモニターという事に偽りはなかった。 「それで、効き目の観察したいからちょっと映像を撮ってもいい?」 「それは構いませんけど…」 「そんな怪しい薬とかじゃないよ!身体がぽかぽかしてきて、元気になるんだって聞いてるよ?」 「なら…」 少し不安げな翔に俺はまた白々しい程の笑顔を向ける。 俺の笑顔に安心したのか、俺の渡した瓶を開けて中身を一気に煽る。 「味はどう?」 「栄養ドリンクって感じです」 味は至って普通なのか、翔は不思議そうな顔をしている。 「なら、あっちにセッティングしてあるから移動しよっか」 「はい。よろしくお願いします」 翔が俺についてくるのを見て、俺は童話の赤ずきんちゃんを思い出した。 今から行くのは狼の腹の中なのを知らない翔はさながら“赤ずきん”の様で、“狼”の俺は心の中で獲物を食べる為に大きな口を開けていた。 「そこのソファーに座ってくれる?」 俺が撮影用の黒い革張りのソファーに座るように指示すると、翔はそこに俺の指示通り大人しく座る。 先日、命と商品レビューを撮影した時は命の淫汁でベタベタになっていたソファーも現在はそんな 事は無かったかの様に革独特の艶が映し出されていた。 「じゃあ、今から効果の観察するよ?効果が出るまで時間がかかると思うから俺の質問に答えてね?」 「はい」 俺は、三脚にセットしたカメラのファインダーを覗き被写体のとバランスを考えながら微調整しつつ翔に話しかけた。 やはりカメラの前だと緊張するのか、翔の顔が少し強ばっているように見える。 「効果が出始めてからカメラ回すから、緊張しなくて大丈夫だよ」 「あ、そうなんですか?」 俺の言葉に明らかに安堵の表情を浮かべる翔だが、俺は分からない様にこっそりと録画ボタンを押した。 「じゃあ質問するね?お名前は?」 「え?そんな事から聞くんですか?」 「ほら。いいからいいから!」 俺の質問に翔は少し照れたような笑顔を浮かべて小さく笑う。 「花吹 翔(はなぶき しょう)です」 「じゃあ、学校と年齢は?」 「Y大理工学部の1年で、18です」 「へぇ。頭いいんだね!」 俺が驚いた声を出すと、翔は恥ずかしそうに頬を掻いた。 「じゃあ今度命に勉強教えてくれない?なんか俺に内緒で最近勉強してるみたいなんだよねぇ」 「え?命くんが?」 俺は怪しまれない様に別の話題も振ってみた。 ここは後で編集してしまえばいいから自然な感じで話を進めていく。 「何かしたいのかもしれない。今度こっそり聞いてみてよ」 「あはは。はい」 俺がふざけてウィンクすると翔が頷くタイミングをカメラのモニターでこっそり確認しつつ、不自然ではない様に間を取る。 「翔くんは高校の時って部活とかしてた?」 「剣道してました。今もサークルに入ってますよ」 「スポーツマンなんだね。あ、翔って呼んでいい?」 「あ、いいです。スポーツマンってほどじゃないですけど、身体動かすのは好きです!」 少し緊張がほぐれてきたのか、先程の緊張した顔から少しリラックスした顔に変わってきた。 「モニターのバイトは初めて?」 「はい。一応色々バイトしてるんですけど、こんなのは初めてです!」 「掛け持ちって何してるの?」 「えっと…居酒屋と、家庭教師と、有名バーガーショップで働いてます」 翔は指折りバイト先を上げていく。 俺の思っている以上に翔は頑張り屋の様だ。 これは特別手当てを出してあげようとこっそり思う。

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