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ショッピングしょう!

命はご機嫌らしく翔の腕のなかでうふふと笑っている。 テーブルの上を見ると食べかけのホットケーキが乗っているのが見てる。 食べかけと言っても本当にネズミが齧ったのかと言うくらいしか食べられていないけれども、食の細い命にしては食べている方だろう。 「さ、朝ごはん食べたら出掛けよう!命はそれの続き食べてなさい」 「は~い」 命は上機嫌で翔の膝から降りて玲ちゃんが小さめに焼いてくれているプチパンケーキを小さく切って口に運んでいる。 その一口はもう少し大きくならないのだろうかと思いつつ翔に向き直った。 「翔はパンでいい?」 「は、はい!お気になさらずに!!」 俺が何気なく声を掛けると翔からは少し上擦った声がかえってくる。 昨日の事を気にしてるのかと思ったがそうでは無いようなので首を傾げる。 とりあえず朝食を作ろうと冷蔵庫をのぞいた。 「何かお手伝いできることありますか?昨日は途中ですみませんでした!!撮影の途中から覚えてなくって…」 「ん?あぁ…こちらこそ何だか悪かったね。それにしても…翔、普段眼鏡なの?」 「はい。普段は使い捨てのコンタクトなんですけど、家に居るときは眼鏡なんです」 「へぇ…」 俺は翔の眼鏡が珍しくてまじまじと見ていると、戸惑った顔になるのが面白い。 「あ、あのぉ?」 「わるいわるい!なら凄く申し訳無いんだけど、ここの近くに自然食品を取り扱ってるお店があるんだ。そこで卵買ってきてくれない?はい。これでお願い!」 俺がまじまじと顔を見ていると居心地が悪いのか視線をさ迷わせている。 俺は財布から千円札を取り出すと翔に渡した。 翔は俺のジャージを着ているが、出掛けるには問題ないだろう。 「寝癖も酷くないからそのままで大丈夫だと思うよ?」 「お、俺すぐに行ってきます!!」 「マンションの裏手にある緑の看板のお店ね?コケるなよ~」 俺が翔の頭を撫でると翔は顔を赤くして急いで出ていってしまった。 ちょっとからかい過ぎたかもしれない。 「パパ…あれはちょっとやり過ぎだと思う」 「そうか?でも、昨日の事覚えてなさそうなのは…ちょっと残念だな」 命がぼそりと呟いた言葉は的を得ていたが、俺は少し記憶が残っていないことに名残惜しさも感じていた。 気を取り直して、俺は冷蔵庫から野菜を取り出して簡単にサラダを作る。 「パパけいたい鳴ったよ」 「ん?」 トマトを串切りにしているところで命がおぼつかない足取りで携帯を持ってくる。 だいぶ暖かくなってきたが、昨日は雨が降ってきたこともあり今朝は少し冷え込んでいた。 部屋も命にしたら少し肌寒いのかもしれない。 寒くなると足が動かし辛くなるらしく、それが少し心配になって命を抱き上げた。 「誰からだ?」 俺は片手でスマホを操作すると、俺の個人的なメールアドレスにメールが届いているマークが表示される。 そのメールの差出人は意外な事にクラブからだった。 「あの野郎…こんな時間に何だ」 メールを開いて、読み進めていくと俺は大きな溜め息か出てしまった。 その溜め息に命は心配そうに俺の頬に小さな手を伸ばしてきたので、俺は携帯をシンクに置いて、その手を取って手の甲に口付けてやる。 「クラブから昨日のドリンクについてのメールだったよ…」 「なんて書いてあったの?」 俺はメールの内容を思い出すだけでまた溜め息が出そうになった。 「あの薬は、本当は取扱いランクがAの強い薬で依存性はないが、少量摂取しただけで幻覚と記憶障害を起こすらしい」 俺が絞り出すように放った言葉に命は目を見開いた。 命は物心つく前から様々な投薬を受けているので薬の取扱いには人一倍敏感だった。 「凄く薄くなってるから大丈夫だろうとは書いてあったし、さっき見たときも平気そうだった」 「きおくしょうがいって…」 「飲んだ後の事を忘れるくらいだって」 命はホッと安心したように息を吐いた。 「ただ一般には流通させられないな…記憶が無くなるような物は悪用される可能性もある。翔の“先輩”みたいな奴とかね…」 「センパイ??」 「命には話して無かったか…」 そう言えば命には何も言わぬまま急に仕事だと言って起こし、状況が分からぬまま翔の相手をさせたのだった。 俺が事の経緯を説明すると、命は頬をぷくっと膨らませて怒り出す。 「何その“センパイ”ってやつ!スゴくムカツク!」 「ふふっ」 「パパなんでわらうの?!」 「だって、命の怒り方玲ちゃんそっくりだから」 俺は我慢できなくてくすくすと笑ってしまう。 命は玲ちゃんに似ていると言われたことが嬉しかったのか不機嫌な顔からにこにこした笑顔に変わった。 そう言うことじゃ無いんだけどなと思いつつ俺は命の頬にちゅっとキスをして床に降ろした。 そこへタイミングよく玄関の開く音が聞こえてパタパタと軽い足音が近付いてくる。 「ただいま戻りました~!!」 元気よく部屋に入ってきた翔の頬は寒さからか少し赤くなっていて。 走って来たのか少し息が上がっている。 「店の場所は分かった?」 「はい!あ、これ頼まれてた卵とこっちがお釣りとレシートです」 翔はキッチンカウンターに卵の入ったビニール袋と、お釣りを置いて息を整えている。 俺はキッチンから出て翔の横に並ぶと少し屈んで翔の頬を両手で挟んでやるとひんやりとしている。 それを温める様にスリスリと撫でてやると、翔の顔はみるみる寒さではない赤みがさしてくる。 「ありがとう」 俺が営業スマイルで笑いかけると、ボンッと音がするのでは無いかと思うほど翔の顔全体が真っ赤に染まった。 俺はそれがおかしくてくすくす笑ってしまう。 「少しエアコンの温度あげて命見ててくれる?少し動きが悪いんだ」 「え?あ、はい!」 手を頬から離し、近くに居た命を翔の前に出すと我に返った翔がそそくさと命をつれてリビングのソファーに逃げていった。 少しからかいすぎたかなと思いつつ俺は朝食作りを再開させた。 + 「準備はできた?」 「はーい!!」 命の元気な声で俺達は自然と笑顔になる。 朝食を済ませ、準備が整うと命は嬉しいのかそわそわとしはじめた。 「デートってどこ行くの??」 「どこに行くんだろうねぇ」 命は翔の足にまとわりついて楽しそうにしている。 それを見ている翔も“お兄ちゃん”といった風で見た目だけで言えば同学年だということが不思議になるくらいだったが、俺は命が特殊なんだと思い直した。 「命かばん忘れてるぞ」 「あ!ありがとう!!」 俺が命に子供用のショルダーバッグを渡すと、バックについているキーホルダーがチャラチャラと音を立てた。 「翔ちゃんどうしたの??」 命は鞄に釘付けになっている翔を不思議そうに見上げている。 「このキーホルダーどうしたんですか?」 「ん?」 しゃがみこんで命のかばんのキーホルダーを手に取った翔はいつもと違う雰囲気で、俺も命も聞かれたことが一瞬分からなかった 「このストラップとアクキー今アキバですげープレミアついてるんですよ?!さらっと命くんの鞄につけてるなんて、流石パパさんですね!これ欲しいんですけど、大手サークルさんの限定グッツでなかなか手に入らないし、イベントではそのサークルさんシャッター前で手を出し辛いし、アキバで買おうと思ったら凄い高いし迷うところなんですよねぇ。でも、公式グッツぽくてクオリティも高いしで…」 凄い早口で話す翔に、俺も命もポカーンとしてしまって今だ語り続ける翔をぼんやりと見ていた。 「あ、スミマセン!!」 我に返ったのか、俺達の様子を見た翔が今度は慌て出す。 色々忙しい子だなと思いつつ俺は同じく命の横にしゃがみこんだ。 「そう?これ余ってるから欲しいならあげようか?」 「え?」 「なんならスケブも描こうか?」 「えぇ??」 ストラップを持ち上げて見せた俺の言葉に、翔は状況が分からないと言った様子で目を白黒させている。 「これ作ったの俺なんだ」 「えぇぇぇぇ!!」 俺の告白に翔は盛大に驚いた声を上げて驚いた。 「何なら今日も泊まってく?」 「是非に!!!」 “赤ずきんちゃん”は今日もお泊まりすることが決まった瞬間だった。 “ママ”には今日もお赤飯は我慢してもらわなければならないなぁとこっそり思った。

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