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はじめての大冒険5

玲ちゃんとおうちに帰ってきた頃には二人ともすっかりくたくたで、ぼくは大きなあくびが出る。 玲ちゃんは一息つくと、朝にパパから渡された紙袋を冷蔵庫から取り出して中身を確認していた。 「パパさん何持ってきてくれたんだろう?」 「ぼくごはん食べたから、もういらない~」 「ごはんたべたの?」 「たべたよぉ?れいちゃんのと、圭ちゃんがれいちゃんに出したやつ」 「けいちゃんがレイに…??」 ぼくは食事を辞退しようと玲ちゃんに申し出をしたのだが、玲ちゃんの顔が急にぼんっと赤くなった。 「れ、れいちゃん!!どうしたの?おびょうき?どこかいたいの??」 「み、みことちゃん…なんでもないよ…」 ぼくが心配して玲ちゃんに近付くと、慌ててぶんぶんと手を上下にさせている。 変な玲ちゃんと思いながらぼくはその行動に首を傾げてしまう。 「でも…あ、あれはごはんじゃないから、パパさんが持ってきてくれたサンドイッチいっしょにたべよ?」 まだ顔は赤いものの玲ちゃんは紙袋からベーグルサンドを取り出してぼくの目の前に差し出した。 ぼくが大好きなナッツのベーグルにクリームチーズとフレッシュのブルベリーがサンドされているものだ。 「ほら、レイのはチキンだよ?」 玲ちゃんは自分の分のベーグルを見せてくれる。 玲ちゃんの分はゴマのベーグルにローストしたチキンにレタスとチーズがサンドされている。 「ここのベーグルすきぃ」 「でしょ?だからレイといっしょにたべよ?」 玲ちゃんはにっこり笑って冷蔵庫からアイスティーの入ったサーバーを出している。 玲ちゃんの家の紅茶は玲ちゃんと一緒で甘い香りがして、味もほんのりと甘い。 毎日気分で味を変えているらしく、今日はマスカットみたいな香りがしている。 「さぁ…エプロンつけようね」 玲ちゃんはぼくの横に座ると、いそいそと子供用の食事用のエプロンを首にかけてくれる。 パパや玲ちゃんと居るとお腹がいっぱいでもご飯が食べれてしまうから不思議だ。 最近少しお腹にお肉が付いてきて昔のパパ見たいになっちゃわないかと少し心配している。 ぼくが最初の“パパ”の所から今のパパの所に引き取られてから沢山話を聞いた。 太った身体をバカにされて外に出れなくなったこと、大好きなアニメや漫画のこと。 だからぼくが太ったら嫌われちゃうんじゃないかと密かに心配しているのだ。 「ぼく…ダイエットしようかな?」 「え!みことちゃんそれ以上やせたらメッ!!おびょうきになっちゃうし、大きくなれないヨ」 ぼくがサンドイッチを目の前にぼそりと呟くと、玲ちゃんが驚いた様にぼくの手を握りしめる。 「あのね…パパ昔太ってたの…ぼくが太っちゃったらパパぼくの事嫌いになっちゃうかもしれないの」 「みことちゃんはこれ以上食べないと、お病気になっちゃうから、今はたべよ?それに、パパさんが持ってきてくれたサンドイッチ食べないとパパさんがかなしむよ?」 「うん」 ぼくは玲ちゃんに勧められるままベーグルをぱくんと一口かじった。 ナッツのカリカリした食感に、クリームチーズのクリーミーな味とブルーベリーの甘酸っぱい味が口一杯に広がる。 横を見ると、玲ちゃんがレタスをベーグルから引っ張り出しているところだった。 ぼくは玲ちゃんのワンピースの袖を引っ張り口を開ける。 「ん?どうしたの?」 「あ!」 「ふふふ…レタスね…ありがとう」 ベーグルから引っ張り出されたレタスを口に入れて貰うとぼくは再び口を動かした。 口を動かす度にシャクシャクと言う音がしている。 「ん!」 「くれるの?」 ぼくは少しベーグルを一口大にちぎると、お礼の意味を込めて玲ちゃんの前に差し出した。 玲ちゃんは嬉しそうにそれをぱくんと食べてくれる。 玲ちゃんはお野菜が好きでは無いらしく、よく避けて食べているし、ぼくは肉類が嫌いなので、よくパパや圭ちゃんに内緒で交換している。 「おいしいね。みことちゃん!」 「うん」 玲ちゃんがぼくの口の端に付いていたクリームチーズを舐めとりながら微笑む。 ぼくは玲ちゃんの言葉に頷きながら口をもぐもぐと動かす。 ぼくは今まで食生活が普通とは言えなかった。 肉類が嫌いなのも吐いた時の臭いがキツいという理由なのだが、その事を誰にも話して居ない。 そして、まともな食事も、店に居る時は食べさせてもらっていたが仕事に出ると食べれたり、食べれなかったり、そもそも食べ物では無かったりと色々だった。 だから玲ちゃんに言った事は本当だ。 精液が食事と言うのはざらだったし、精液の味は慣れ親しんだ味だ。 「ごちそうさま」 「はい。よく頑張りました!」 ベーグルを半分ほど食べた所で、本当に満腹になってしまったのでお皿にかじったベーグルを置いて手を合わせる。 玲ちゃんはそれにラップをして冷蔵庫にお茶のサーバーと一緒に片付けていく。 「さぁ…みことちゃん。おひるねしようか」 「ん~」 ぼくが目を擦っていると、玲ちゃんが食事用のエプロンを外してくれた。 そのままリビングのソファーに二人で寝転がると、ぎゅっと抱き締めてくれる。 玲ちゃんの温もりにぼくは満腹感と疲労から来る睡魔に勝つことができなかった。 + 少し周りが寒くなってきてふるりと身震いする。 目を開けると日は暮れていて外は茜色に染まっていた。 エアコンの音が微かにしているだけで、家の中はしんと静まりかえっていた。 まだ翔ちゃんも帰ってきていないのか玲ちゃんとぼく以外の気配はない。 ブウォン 「けいちゃん!!」 外から大きなエンジン音が聞こえた瞬間、寝ていた玲ちゃんの瞳がパチリと開く。 ぼくを置いて玄関に飛んでいった玲ちゃんを追いかけてぼくも玄関へ向かう。 早春独特の冷気がドアの隙間から流れてくる。 しかし、玲ちゃんは寒さなど気にならないのかドアの前で圭ちゃんが帰って来るのを今か今かと待っている様子は凄く可愛いかった。 ガチャッ 「ただいま~!!」 「けいちゃんおかえりなさい!!」 玄関の扉が開くと同時に、圭ちゃんが玲ちゃんに抱きついた。 圭ちゃんは片手で鍵束を下駄箱の上に置いたあと、仕事に使っている伊達眼鏡を外して同じように指定の場所でもあるのかそれらを置いていく。 それから玲ちゃんと熱い抱擁を交わしながら唇がどんどん近付いていってそのままキスをする。 「けいちゃん今日は早かったね!」 「入試も終わって、もうすぐ卒業式だから短縮授業が多くなるからしばらく早く帰ってこれるぞ」 「ほんと!うれしい」 玲ちゃん達夫婦をぼんやり見ていると再び熱い抱擁をしはじめる。 そのまま玄関ではじまりそうだったので、ぼくは大きく息を吸い込んだ。 「けいちゃんおかえり!ぼくもいるよ」 「あ。命ちゃん…ただいま」 ぼくの声に、圭ちゃんはやっと気が付いた様子でぼくと目が合う。 すると少し気不味そうにすぐに目を反らされてしまった。 ぼくの頭の片隅では、“学校”とはセックスをする場所なのに何で圭ちゃんはそんなに後ろめたそうにしてるんだろうという思いがあった。 「けいちゃん…どうしたの?“学校”でのセックス気持ちよかったよ?」 「なっ!!命ちゃん何言って…」 「うん。レイもみことちゃんと一緒で気持ちよかった」 「こらっ。玲も何言って…」 「だって“学校”ってセックスする場所でしょ?」 ぼくの言葉に圭ちゃんが固まる。 それを不思議に思っていると、玲ちゃんも悲しそうな顔で圭ちゃんの腕の中から抜け出してぼくの側にやって来た。 手を握られたかと思うとふわっと玲ちゃんの腕に抱かれた。 もしかしたらぼくは言ってはいけないことを言ってしまったのかもしれない。 「おちゃでも入れるね…」 「そ、そうだな…俺は着替えて来るよ」 玲ちゃんに手を引かれリビングに連れてこられる。 圭ちゃんはギクシャクとロボットの様な動きで着替えにいってしまった。 二人の異変にぼくは戸惑って居ることしかできなかった。

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