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サプライズバースデー

俺は現在、疲労感とそれに伴う眠気に襲われて大きなあくびが出る。 今日は早朝から博英に電話で起こされたうえに、仕事に駆り出されてしまって疲労困憊だ。 『年度末だから大口の取り立てに行くぞ!』 「は?」 朝一番にかかってきた電話口での博英の第一声に俺は眠っていた頭が一気に覚醒する。 『少し時間やるからすぐ来いよ!』 「マジか…」 『マジだ!ちゃんと来いよ!』 一方的に切られた電話に俺は大きなため息が出る。 横では命が俺にくっついて丸くなって寝ていた。 俺は命の頭を軽く撫でて渋々ベットから起き上がる。 「まぁ3時間寝れただけでよしとするか…」 壁掛け時計で時間を確認すると、就寝してからそこまで時間は経っていなかったが少しでも寝れたのだからまだ良い方かもしれない。 リビングのエアコンを起動させ、珈琲のマシンも起動させる。 いつもは命が起きる時間に合わせてエアコンのタイマーをつけておくのだが今日は手動で起動させる。 「面倒だな…」 取り合えず手早く身支度を整えると、命を寝室まで迎えにいく。 ベットの上で丸くなっている命を着替えさせる為に着ているものを剥ぎ取った。 最近膨らんできた胸を揉んでみると、丁度手に収まるくらいまで膨らんできた事にえもいわれぬ満足感がある。 以前は乳首も伸びるからと危惧していたが、少し尖った乳首も弄りがいがあっていいかもしれないと最近では思い始めてきた。 肩口や脇腹の傷跡の様子も見てみると、かなり薄くなってきているのも嬉しい。 「もうちょっと肉がつけば理想的だなぁ…」 命は今までの生活環境のせいで多くの食品を食べられるものと認識していない事がある。 そのせいで身体は幼児体型のくせにそこらじゅう骨が浮き出しているし、明らかな栄養不良児だ。 肋骨も浮いてしまっているし、もう少し食べさせなくてはと思うが、中々食べないと言うのも悩みの種だ。 「おっと…なるべく早くしないと兄さん煩いからな」 命へ素早く外出着を着せ、抱上げる。 リビングに落ちていた命の犬のぬいぐるみを拾い上げ、荷物などを軽くまとめて地下駐車場へと急ぐ。 後部座席にあるチャイルドシートへ命を座らせエンジンをかける。 早朝の街中は人も車も疎らだ。 「ありがとうございまーす!!」 近所の早朝からしているパン屋で自分の朝食と、命と玲ちゃん達の昼食分を買った。 パン屋の店員の元気な声に押し出され、俺は再び車に乗り込む。 命はまだ夢の中の様でチャイルドシートに大人しく座って微動だにしていない。 プッ…プルルルル 俺はbluetoothで携帯をハンズフリーで繋ぐと、とある所に電話をかける。 『はぁーい!けいちゃんはまだネテマース』 「あはは。玲ちゃんおはよう」 圭介の所に電話をしたのだが、玲ちゃんが電話口に出る。 ここまでは想定内だ。 『パパさんmorn!』 「急で悪いんだけど、今日命を預かってくれないかな?」 『みことちゃんを?もちろんOKヨ!!』 基本的に専業主婦の玲ちゃんにはいつも命の面倒を見てもらっている。 今日みたいに急に頼んでも嫌な顔ひとつしないで預かってくれるのは本当に有難い。 年齢的には命も独りで平気なのだろうが、まだまだ情緒不安定な命を独りにしておくのはどうしても心配で、事情を知っている玲ちゃんについつい頼んでしまうのだ。 「今から行くからお願いね?」 『はーい!みことちゃんは?』 「まだ寝てるんだ…」 『パパさんあんぜんうんてんでね?』 「ありがと」 電話を切ると、俺はアクセルを踏み込んで目的地まで急ぐ。 先程買ったパンを咥えつつの運転は、少女漫画の食パンを咥えて曲がり角を曲がると出会いがあるというセオリーを思い出していけない。 とりあえず曲がり角には気を付けようと思いつつハンドルを切った。 コンコン 流石に早朝と言うこともあり、チャイムを鳴らすのは気が引けて扉を控え目にノックしてみる。 「はーい!パパさんmorn!!」 「玲ちゃんおはよう!今日もかわいいね」 「もうパパさんてば、おじょうずね!」 ゆっくり開いた扉からは朝からしっかりと髪がセットされた玲ちゃんが顔を出す。 家の中からは温かい空気が漏れ出てきている。 命は俺達の声に目を覚ましたのか、うっすら目を開けて俺と玲ちゃんを交互に見ている。 「朝早くからごめんね。今日の夕飯は美味しいものご馳走するから」 「気にしないでパパさん」 床に降ろした命は、玲ちゃんにぎゅっと抱き締められている。 「じゃあ命。玲ちゃんや皆の言うこと聞いていい子にしてるんだぞ?」 「大丈夫よ。みことちゃんいつもいい子だから!ね?」 「じゃあ、お願いね。あ、あとこれはお昼に食べてね!」 まだぼんやりしている命の頭を撫で、途中のパン屋で買った紙袋を玲ちゃんに渡して俺は家を後にする。 扉を潜る瞬間に靴箱の上の雑貨たちが目に入った。 圭介の伊達眼鏡が置いてあったので、俺はそれをさっとポケットから出した自分の物と分からないように取り替えて車に向かう。 「はぁ…気が重い…」 俺は行きたくないのを我慢して車を進める。 毎回呼び出される度に仕事を押し付けられるので博英の所に行くのは気が重い。 しかも電話口の様子では確実に仕事をさせられるのは目に見えている。 しかし、兄達には色々と恩があるので嫌とは言えないのだ。 「遅いぞ!」 「仕方ないだろ…今は命が居るんだから…」 次男の事務所に着くと、奥の机にふんぞり返って座っている博英が居た。 事務の女の子も出社してくる前に俺を呼び出して一体何をしたいのかまったく分からない。 「今は年度末だから、会社には金があるよな?」 「まぁ…そういうところが多いだろうな」 「なら、確実に取ってこい!」 「は?」 博英の話はいつも唐突だ。 取ってこいと言うなら回収してこなければ俺の仕事は増えるし、帰れない可能性がある。 これは何としてでも集金してこなければならないというフラグだろう。 「リスト送ってやるから行ってこい!」 博英の言葉に有無を言える立場ではないので、俺は仕方なく事務所を後にする。 博英の所に金を借りるような人間は大抵資金繰りに困って闇金に手を出すやつが多い。 当然返済が滞ってくれば集金をしなければならないし、春先は何かと物入りなので返済が滞る奴も多い。 その為従業員だけでは手が回らないので、俺が駆り出されたのだろう。 命が弟に連れ去られてから兄達には随分世話になって頭が上がらない俺は、兄の依頼を断れないので毎回文句をいいつつ仕事に駆り出されにやって来ている。 「くっそ…やっぱり捕まらねぇか…」 俺に割り振られたところは多くないのだが、やはりどいつもこいつも雲隠れして捕まらない。 しかも同業者が待っているパターンもあるので、先に債権者を捕まえて金を返してもらわなければ仕事が終わらないというプレッシャーも加わり、俺は益々イライラとしてくる。 「現金が無いなら、金目の物をもらっていくから…」 「やめてください!それは親から貰った大切な物なんです」 「うん…俺はテンプレな台詞を聞きたいわけじゃないんだよ。金さえ返してくれればいいの。まず取られたくないなら、何でも売ってお金作ろうね?」 やっと見つけた債権者の金になりそうな物を取り上げると、必ず抵抗をみせる。 すがりついてくる債権者を払いのけ、俺は毎度行われるこの攻防にいい加減飽き飽きとしていた。 なんとかノルマを終えた頃には夕方になっており、精神的にも肉体的にも疲労困憊で早く命の顔を見たい気持ちでいっぱいになっていた。 「んー。まあまあだな」 「そりゃよかった」 取り合えず事務所に金品を持ち込んで博英に見せると、それらを1つずつ見始める。 なんとかお眼鏡に叶うものを持ってこれた様でひと安心だ。 「来月の1日に会合だから出てこいよ?」 「は!?その日は駄目だ…」 「何だよ…会合より大事なことか?」 「それは…」 兄達の言うことは絶対なのだが、その日はどうしても外せない用事があるのだ。 その内容を言うと、事態が大事になるのが分かっているので言い淀む。 「は?言えないなら、出てもらうからな!」 「いや…」 「あ?昔のお前に逆戻りかよ…ハッキリしろ!」 俺の煮えきらない態度にイライラしはじめる博英の語気はどんどん荒くなってくる。 これは言わないと、強制的に会合に駆り出されてしまうので俺は意を決して息を大きく吸い込んだ。 「4/1は…命の誕生日なんだ…」 「あ?」 「だから…命の誕生日なんだよ!!」 俺が放った言葉に流石の博英もポカーンとした顔になる。 俺は踵を返して今のうちに事務所から退散にしようと扉まで早足に歩き出す。

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