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サプライズバースデー6

食事会から数日経って週に一度の翔のバイトの日がやってきた。 「今日は注文がなくて暇だね。年度末だからかなぁ」 「他にする事あります?」 「お!沢山ありがとう」 翔が玩具のセットが詰め込まれた段ボールを振り返りながらこちらに問いかけてくる。 今が年度末のせいか、玩具の注文があまり来ない。 映像コンテンツは好調で会員数もまた増えたので収入的には困ることは無いが、退屈は退屈だ。 「よし!命も居ないから俺達も出掛けよう!」 「そう言えば命くん出掛けてるなんて珍しいですね」 「あぁ…命は少し前から習い事始めたんだ」 「習い事ですか?凄いな…あいつとは大違いだ」 命は現在、紹介してもらった洋裁学校で友達の玲ちゃんへ誕生日にあげるための洋服を作っているらしい。 懸念していた人間関係も、通っている生徒が妙齢の女性ばかりなので優しくしてもらっているようで安心している。 翔は積極的に外に出ている命と玲ちゃんを比較しているのだろう。 確かに玲ちゃんは買い物以外は基本的に家事に勤しんで家からは出ない様だ。 しかし、それは夫の圭介の方針にも合致しているから仕方のないことではないだろうかと思ったが、俺はそれに対してあえて何も言わなかった。 「だから気分転換に、俺とデートしてくれる?」 「デッ!!」 俺が茶化して言ってみると、予想外の反応に思わずキョトンとしてしまった。 「えっ!?あ、いや…そうですね!!出掛けましょ」 「冗談なのに、翔は可愛いね」 冗談半分、本気半分で言った事なのにここまで過剰反応するとは思わなかった。 俺はクスクスという笑いを堪えきれず、声を漏らしつつ翔の頭をポンポンと撫でてやった。 これが圭介や玲ちゃんになら反抗するのだろうが、俺や命には大人しくされている。 それがまた俺は可愛いと思っている。 「は?か、かわっ!!」 「そんなに動揺しなくてもいいよ…くっ…ぶくくっ」 動揺している翔に俺は遂に笑いが堪えきれず、ついつい笑ってしまう。 「わるいわるい…ほら、行こうか?美味しいものでも食べよう?」 それに翔は凄く恥ずかしそうな顔をしたので、少しやり過ぎたと思って翔を立たせた後ガシッと肩を組んで貴重品を掴んで玄関の方へ進んでいく。 タイミング良く昼食の時間帯だ。 今の自分が親戚のオヤジみたいだなと頭の片隅では思ったが、気にしている暇はない。 車に乗り込むと、すぐにエンジンを起動させる。 「何か食べたいものある?」 「いえ…」 「よし、ナマモノとか平気?」 「はい!好き嫌いはないです…」 遠慮しているのがみえみえな翔に話を振りつつ、俺は少し考えてからハンドルをきる。 幸いな事に、俺の住んでいるマンションはベイエリアにも近い。 新鮮な魚介類を食べさせる店も何件か知っているので、そこに向かうことにした。 「あの…」 「ん?気にしないで食べないと腹ふくれないぞ?」 カウンターで翔が恐縮している。 俺達が来ているのはいわゆる回らない寿司屋だ。 回転寿司しか食べたことが無いと以前言っていたのを思い出して連れてきたのだが全く食が進んでいない。 「ほらほら気にせず頼め!命は海産系の生物苦手だからなかなか寿司とか食べれないんだよなぁ」 「そうなんですか?」 「苦手というか命自体あんまり食べ物に興味ないんだよなぁ」 俺が光り物を食べながら言うと、それを真剣に聞いている翔。 本当に失礼な話だが圭介の息子にしては健気で真面目な子だなぁと思う。 手を拭いて頭を撫でてやると、またしても恥ずかしそうにする翔は面白かった。 ひとしきり寿司を楽しんだ後、車でいつものショッピングモールへやって来る。 「あ、お寿司ご馳走さまでした。何か買うんですか?」 「んー。玲ちゃんの誕生日どうしようかと思って…」 今度はショッピングモールの中に入っている海外の有名玩具店に来ている。 平日というのもあってか、あまり大きな子供は居らずどちらかと言うと未就学児の子供が多いようだ。 「翔はどうするの?」 「え!あぁ…実はまだ考えてなくって」 ゆっくりとした歩幅で色々売り場を物色するが、なかなかピンと来るものがない。 翔の言うように、玲ちゃんに誕生日のプレゼントを渡すとなると凄く悩んでしまう。 普段はスイーツとか洋服をプレゼントすることが多いけれど、流石に誕生日には少しいつもと違うものをあげたいと思うのは当然だろう。 「なら、一緒に考えて共同のプレゼントってのはどう?プレゼント代金はバイト代から引いておくから」 「え!いいんですか?」 「ちゃんと明細には乗せるから、遠慮はいらないよ」 俺が名案とばかりに翔に提案してみると、翔の顔が輝く。 玲ちゃんは基本的に思考が主婦なので、欲しいものを聞いたらもしかしたら圭介の物を言い出すかもしれないのでこれまた難しい。 圭介の物で無いにしてもキッチン用具なんて言われた日には居たたまれなさがある。 「最後はここだな」 「あいつ好きそうな物があればいいですね」 最後に訪れたのは俺達のホームといってもいい、女児用の玩具売り場だ。 ピンクや黄色のカラフルなオモチャが並んでいる。 棚には小さめのモニターが何台かあり、そこから様々な音が流れていた。 「へぇ。新作の冊子が出てるのか…」 「新しいシリーズ始まりますからね」 翔と魔法の妖精シリーズのコーナーを見ながら4月からはじまる新シリーズ関連の情報をリサーチしていた。 相変わらずこのレーベルは商売が上手い。 売り場に置いてあるパッケージの何個かには俺が担当したイラストも使われて少し感慨深かった。 俺の本職はアダルトグッズのネット販売たが、趣味で同人サークルもやっている。 そのサークルも長年やっていくうちに最大手と呼ばれるまでになり、イベントではシャッター前という規模にまで拡大した。 企業からの正式なオファーで数年前から外部のイラストレーターとして、自分の一番好きだった作品に参加させてもらっている。 これは企業との守秘義務等の関係で誰にも話していない。 守秘義務と言ってもそこまで厳しい物ではないので、発売したり発表されている商品については話しても構わないらしい。 公言していないのもあるが、俺のファンでも特定している人間は居ないしサークルに手伝いに来てくれるオタク仲間にも実は言っていなかったりする。 オタクの嫉妬も色々面倒なのもある。 「おっと…玲ちゃんのプレゼントだったな」 「あ、そうでした!」 「マジフェアは今日もうちに泊まって見ていけばいいよ」 「はい!今日もお邪魔します!」 一瞬自分の事を考えていて思考が飛んでしまったが、早々にコーナーから離れて海外のおもちゃのコーナーに移動してきた。 ここは日本の玩具とは色合いがかなりちがって、より一層カラフルに感じる。 「玲ちゃんはカートゥーン系のアニメが好きだったね」 「確かに、よくCS見てますね」 「うーん。きせかえ人形って年でもないかなぁ?」 俺が有名なファッションドールを取り上げ、パッケージをマジマジと眺める。 金髪に青い瞳などは玲ちゃんにそっくりだ。 しかし人形は玲ちゃんと違い、健康的な小麦色に爽やかに白い歯まで見えている。 「でも洋服こんなにあるのか…」 「あ、あの!」 俺がパッケージを棚に戻して、隣に並んでいる着せ替え用の洋服を眺めていると、翔に袖口を引かれる。 「ん?」 「パパさん…これにしませんか?あいつと目の色とか髪の色とか同じだし!」 俺の方が背が高いので翔が見上げるような形になる。 こんな所で萌えキュン仕草をする様では“狼”に狙われるの必然かもしれないと軽く頭痛がしてきた。 「でもなー」 「あいつ、こう言うごちゃごちゃしてて小さいもの以外に好きですよ」 俺が悩んでいると翔が珍しく押してくる。 言われて見れば、玲ちゃんの持ち物は少し派手めだし翔の言い分も一理あるのでいいかもしれないなと思いだす。 「翔が言うならそうしよう!着替えを数着買って…」 俺はどんどんとオモチャを翔が持ってきた大きめのカートの中に放り込む。 カートを押してレジに向かう。 オモチャはピンクの包装紙でラッピングしてもらって大きな袋に入れてもらった。 「これで少しは肩の荷が下りたかな」 「そうですね…あいつ何やっても喜びそうなんですけど、せっかくなら喜んで欲しいですよね」 翔の言葉に俺は笑みが溢れた。 なんやかんやいいつつ玲ちゃんの事を大切に思っていることにほっこりと優しい気持ちになった。 後は、会場と命のプレゼントだけだ。 これもまた悩むが、命のはじめての誕生日だ。 精一杯楽しませてやりたいと思いながら、俺は先程買った荷物をトランクへと押し込んでいた。

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