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サプライズバースデー10

俺を襲撃した男は“狼”から送り込まれて来たらしく、俺を脅して軽く怪我でもさせてくれば報酬を支払うと言われてきたらしい。 しかも“狼”とはクラブバーで最近知り合っただけという、あまりにもありがちなパターンだった。 まぁ、単純な奴には単純なりの使い道があるので今は博英の事務所でこき使っているらしい。 チンピラ崩を更正させてやっただけでも、俺は良いことをしたと思うので“狼”は俺に感謝するべきだと思う。 「はぁ…」 「ん?何してんだ!はじまるぞ…」 俺は博英に急かされつつ用意されている部屋に入っていく。 男に襲撃された後、俺はフロントガラスに置かれた手紙をコピーしたうえで添削をして丁寧に返送してやった。 赤色のペンで“抽象的すぎるから0点!写真などを付けると効果的だよ!”と書いている時はとても愉快な気分だった。 それから何も音沙汰がないままサプライズパーティーの日になってしまったのだ。 「1日早い会合となりましたが、皆様今年度も組の益々の発展を祈りまして!」 俺らが席について暫くして会を取り仕切っている組員が盃を目の前にかざして乾杯の音頭となった。 会合と言っても、なんやかんや言ってただの酒盛りの会場だ。 博英の計らいにより、サプライズパーティーの前に会合をしようという考えらしい。 俺は途中で抜けて、花吹家とそこに預けて来た命を迎えにいく手筈となっている。 「それで、若紫はいつ来るんだ?」 「あと1時間したら迎えに行って、連れてくるよ…兄さんの家族は?」 「あいつら買い物して、そのままこっちに来るってさ」 俺は腕時計を確認しつつ博英に告げると、珍しくアルコールを飲んでいない博英もスマホを確認している。 ○○プリンスホテルのこの別館には、ガラス張りのチャペルや、催事を行える大規模な和室や洋室などが用意されている。 パーティーは立食式で別の会場を用意していた。 俺達は現在、落ち着いた和室に居て、中庭が雪見障子から見えている。 + 俺はホテルからワゴン車に乗って、花吹家のあるマンション群にやって来た。 いつもの駐車スペースに車を止めると足早に部屋に向かう。 ピンポーン♪ チャイムを押すと、部屋の中からパタパタと聞き慣れた足音が聞こえてくる。 「は~い」 「バタバタしててごめんね?」 満面の笑みの玲ちゃんに出迎えられ、俺はスルリと家の中に入る。 「あ、その髪型似合ってるね」 「えへへ。お姫様みたいでしょ?命ちゃんがセットしてくれたの」 玲ちゃんのいつも肩まである金色の髪は、今は綺麗にアップにされてピンクパールのピンが所々散りばめられている。 「あれ?命は?」 「けいちゃんやしょうちゃんのかみがたセットしてるヨ!パパさんもカッコイイネ」 慣れた仕草でスリッパを出され、それに足を入れて奥に進む。 「けいちゃん動いちゃダメだよ!」 「こんなにキメなくてもいいよぉ…」 命のこだわりに圭介は苦笑いを溢している。 しかし、家に着いて気がついたのだが皆服装が随分ラフだ。 「あれ?今から着替えるのか?」 「あ、若旦那!随分きまってますね…」 こちらに気が付いた圭介は、俺の服装を見て驚いた顔をしている。 現在俺はタイト目のストライプのブラックスーツに、ブルーのカッターを胸元まで開けて一応ポケットチーフをしている。 正式ではないが、一応正装だ。 「ん?一応パーティーだからな?」 「パーティーって…そんな大々的なんですか?」 「あれ?言ってなかったか?○○プリンスホテルだぞ?」 「○○プリンスホテル!?」 圭介はショックを受けたようにソファーに沈み混んだ。 翔には伝えてあったのに、何故圭介はこんなに驚いているのだろうか。 「れい、翔ちゃんに聞いてちゃんと圭ちゃんにいったよ?」 「マジか!」 俺の横に近付いてきた玲ちゃんが告げると、圭介はがっくりと肩を落とした。 俺は何となく状況を察して苦笑いを浮かべる。 きっと、ピロートークとか圭介が玲ちゃんに夢中になっている時に話してしまったのだろうと言うことは容易に想像できる。 「命くん。髪洗って来たよ?」 「じかん無いからここに座って!」 バスルームからやって来た翔は珍しくテキパキとしている命によって髪を整えられて行く。 「まぁ圭介は仕事に行くスーツ着ればいいし、翔も玲ちゃんもホテルに行ってから着替えればいいから髪のセットが終わったらすぐに行くよ」 「はーい!」 玲ちゃんが元気に返事をして、圭介の着替えを手伝うために二人で寝室の方へ消えて行った。 俺は命と翔の側に寄ると、命の頭を撫でる。 「翔の分は俺が用意しておいたから、夜の着替えだけ用意してこいよ?」 「いつも何から何までスミマセン…もう準備してあるので、俺はそのまま出れます」 俺は翔の言葉に頭を撫でてやりたい衝動にかられるが、命が懸命に髪をセットしているのでぐっと堪えた。 「はい。おしまい!」 「ありがとう命くん」 翔の髪のセットが終わると、いつもの雰囲気と一変していて命はそれに鼻息が荒く満足そうにしている。 「スミマセン!お待たせしました」 「パパさんいかなきゃ!!」 寝室から出てきた圭介はきっちりとしたスーツを着て、ネクタイまで締めている。 時間もないのも確かなので、バタバタと急いで家を出た。 「すっごーい!!」 車を従業員に預けて、ホテルのエントランスを見た玲ちゃんは目をキラキラさせながら感嘆の声を漏らしている。 本館のエントランスには大きなシャンデリアがあり、内装は中世のヨーロッパをイメージしたきらびやかな装飾だ。 流石セレブリティを売りにしているのだけの事はあるなと感心してしまう。 「はい。玲ちゃん…お誕生日おめでとう。これは俺からのプレゼント」 「わぁ!!ん?これなぁに??」 「開けてみて?」 俺は内ポケットから封筒を取り出す。 それを玲ちゃんに渡してやると、嬉しそうに受け取った後不思議そうにそれを眺めている。 「カード?」 封筒の中からは1枚のカードが出てくる。 それが何か分からずに玲ちゃんは色々な角度から見ている。 「これは、魔法のカード。ここのお城の鍵なんだよ」 「えー!!すごーい!!」 俺は玲ちゃんの前に跪く。 カードを持っている手を取ってウィンクしてやると、玲ちゃんの顔がみるみる明るくなっていった。 周りのギャラリーの視線が痛いがここは気にしてはいけない。 こういうのは思いきりが大事なのだ。 「さぁ、行こうか」 俺は立ち上がると圭介に目配せをして、歩き出した。 後ろをちらりと見ると圭介と玲ちゃんが手を繋いで後を付いてくる。 それを命を抱いた翔が付いてくるという構図に俺はほくそえんだ。 「ここ?」 エレベーターで目的の階まで来ると、廊下には扉が数個しかない。 俺はそのひとつに進み、扉の横に控えた。 玲ちゃんは戸惑いつつカードキーを扉にかざした。 ピッという電子音がして扉が解錠される。 扉を開けて中に入るように促す。 「すごーい!!」 「うわっ…なんだこの部屋」 先に部屋に入った玲ちゃんからは、また感嘆の声が上がる。 一緒に入っていった圭介からも驚きの声が上がった。 部屋に入ってまず目に飛び込んできたのは大きなリビングスペースだ。 革張りのソファーのにシックにまとまった内装に玲ちゃんは興奮している。 「うちよりリビング広いよ!!」 「玲…悲しくなるからその話は…」 「パパさんのおうちみたーい!!」 思わぬところから精神的ダメージを受けた圭介はがっくりと肩を落としている。 しかし、玲ちゃんの興奮は冷めやらぬ様子だ。 「ベットも大きいし、ひろーい!!しかも何か箱が沢山のってる!!」 玲ちゃんは興奮しつつ部屋を探索しはじめた。 「玲!恥ずかしいから止めなさい!!」 「いいじゃないか…」 大興奮の玲ちゃんを止めに入る圭介を俺はいさめる。 翔も言葉には出さないが、なかなか興味深そうに部屋の内装を見ている。 「命…」 「うん。翔ちゃんおろして」 俺は翔の側により、命に声をかける。 命は頷くと翔に床に下ろされよたよたとはしゃぐ玲ちゃんに近付いていった。 「れいちゃんお着替えしよ?」 「うん!」 お子様二人はベットルームに入っていくと、リビングスペースの扉を閉める。 俺はもう一人のお子様の存在を思い出してクローゼットへ目的の物を取りに行った。 「翔も着替えて」 「あ、はい!」 俺がスーツを渡すと、部屋の角にある衝立の後ろへ向かった。 「ここにはお花組も居ないから普通に着替えればいいのに」 「若旦那…」 俺がそう呟くと、圭介が申し訳なさそうに俺に寄ってくる。 「ん?」 「何から何までスミマセン」 翔と全く同じことを口にした圭介に、俺は思わずくつくつと笑いが込み上げてくる。 やっぱり親子なんだなぁと思わざるをえない。 「気にするな…楽しいことは皆でやった方がいい」 俺がにっこりと笑いかけてやると、圭介は珍しく顔を伏せてしまった。 感動で泣いているのかと思い顔を覗きこんでやれば、顔が赤くなっていた。 これは翔同様に素質があるかもしれないな…などと思っていると、きっちりスーツを着た翔が戻ってくる。 「うん。似合ってる」 「そ、そうですか?」 俺が翔をの姿を確認すると、開口一番スーツの感想を述べてやった。 すると、翔は照れた様に頬を掻いている。 翔のスーツはブラックのクラシックタイプでテーラーの部分を少し流行より太めにし、ジャケットの丈もクラシカルに長めにしている。 これも命が選んだものだ。 自分の意見をあまりしない命が唯一服装だけは積極的に発言してくるので、俺もそれに最大限答えてやることにしている。

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