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サプライズバースデー11
圭介は翔のスーツ姿を見るために、翔の周りをぐるぐると回っている。
翔はそれが照れ臭いのか、俺の時とは違ってむっすりと顔をしかめていた。
そんな親子の様子がなんとも微笑ましくて、俺はソファで足を組み替えつつそれを眺めている。
「パパ!おまたせ!」
ベットルームからお花組が出てくると、部屋の雰囲気が一気に華やぐ。
「けいちゃん…れいおひめさまになったよ!!プリンセスみたい?」
「うん。凄いな」
玲ちゃんは薄桃色のショートドレスを着ている。
スカートはふわりとボリュームがあり、表面とウエスト部分には髪飾りと同じくピンクのパールが縫い付けてある。
スカート丈は膝丈よりも5センチほど短い。
そんなドレスを着た玲ちゃんが圭介の目の前でくるりと回り、やうやうしくポーズをとる。
本人が言う通り、まさしくプリンセスだ。
「これは命が作ったんだよ」
「え!既製品じゃないんですか!?」
俺の言葉に圭介は驚いた様で、ドレスの細部を観察し出す。
流石の翔も驚いたのか少し距離はあるが、玲ちゃんのドレスをまじまじと見ているのが分かる。
少し距離を取っているところが反抗期と言った感じで、これまた微笑ましい。
「えへへ。最初はワンピースを作ろうとおもったんだけど、せっかくならぼくの作ったドレスをパーティーできてほしかったんだ」
「みことちゃん…」
命が玲ちゃんの手を取って、見上げる様に告げると玲ちゃんは命の身体をぎゅっと抱き締める。
ちょっとパーティーの前なのにうるっときてしまうではないか。
圭介などは明らかにうるっと来たみたいで、袖口を目元にやっている。
「でもパニエまで作る時間がなかったから、パニエとソックス類だけは既製品なんだけど、あとはがんばったんだ!」
「Thank You so much!!」
命は照れながらはっきりと告げると、玲ちゃんからは感極まったのかネイティブな英語が聞こえてくる。
玲ちゃんのスカートからは、確かにタップリのパニエが見えているがいやらしさを全く感じさせないデザインだ。
そんな命は、部屋で着替えてきたのかハーフパンツの子供用のスーツを着ている。
「そろそろ行こうか?遅くから開催でごめんね?」
「そんなことないよ!れい、すっごくうれしい!!」
俺は命を抱き上げつつ玲ちゃんに謝ると、玲ちゃんは言葉通り嬉しそうにしている。
会合は19時から始まっているが、現在の時間は21時を少しまわった所だ。
わざわざ遅くにパーティーをセッティングしたのも意味があるのだが、今は秘密だ。
サプライズと言うのは知られたら台無しになってしまう。
「よし、お姫様。舞踏会に参りましょう」
俺がにっこり微笑むと、玲ちゃんからはとろりと蕩けた様な幸せそうな笑みが溢れた。
俺は執事役になりきり、命を胸に抱いたままの状態ではあったが圭介夫婦を会場まで連れてきた。
「おいしー!!」
「こら!ちゃんと野菜も食べなさい!!」
会場にやって来ると、セッティングはもう終わっており挨拶もそこそこにパーティーが始まった。
玲ちゃんは大皿のローストビーフを食べ尽くす勢いで食べているのを、圭介はたしなめている。
料理はビュッフェスタイルになっており、会場の後ろには席が用意されている。
年寄り共は座席に座ってアルコールを飲んでいた。
「よぉ若紫!楽しんでるか?」
一方の俺は、兄弟である博英や義博と挨拶を交わしていた。
そこに圭介もやって来て博英に挨拶をしていたが、すぐに博英が気を使って玲ちゃん達の方へ戻るように言っている。
「少し会場が広いからどうなるかと思ったけど、外も見えるからいいなここ」
「予約もすんなり取れたからな!博光はまた俺の仕事の手伝いをしてもらわないとな!」
「博英もいい加減博光離れしないとなぁ」
会場の半分はガラス張りになっていて、大きな温室の様になっている。
しかし、早春の寒さを感じさせない様に温かな雰囲気のライティングや会場作りは流石一流ホテルだと思った。
会合の後と言うこともあり、命に会おうと幹部や他の組の幹部まで居て会場の中はただの誕生日のパーティーとは思えないほどの熱気を帯びていた。
博光の言葉に嫌な予感がしたが、それをにこにこと義博がたしなめてくれている。
そんなやり取りをしている間にも、命には次々といい年をした男達が挨拶をしてくる。
「命くん凄いですね…」
「じじ共のマスコットだからな」
ひとしきり挨拶周りも終わり、花吹家の居るところに戻ってくる。
エレガントな服装に反して、肉に食らいつく玲ちゃんは普段との様子とはかけ離れていていつも感心してしまうのだ。
しかも妙に器用に食べている様で、服に汚れは一切無かった。
「あ、くらくなったヨ」
「ケーキの登場です」
会場が暗くなり、司会役の幹部から声がかかる。
近くに居た玲ちゃんにスポットライトが当たる。
俺は驚いている玲ちゃんの手から皿を取って前に押し出す。
「主役の1人である、花吹玲嬢におしみのない拍手を!!」
「え?れい?」
HAPPY BIRTHDAYの歌が流れはじめる。
小型のホールケーキが届き、ケーキの上に乗っているローソクに火が付いている。
生クリームで可愛くデコレーションされたケーキに玲ちゃんは頬を紅潮させて目にはうっすらと涙が滲んでいる。
先程まで肉料理に食らいついていたのが嘘の様だ。
周りからはパチパチと拍手がおこる。
「ほら…ローソク消して?」
「うん!!」
圭介に言われて玲ちゃんは大きく息を吸ってローソクを吹き消すと、周りからは更に大きな拍手が起こった。
それに加え、綺麗だね等のヤジが飛んでいる。
いい年をした男共のヤジは少し下品だが、玲ちゃんはそれでも嬉しそうだ。
「きれい…これ全部れいの?」
「そうだよ。玲ちゃんが食べたがってたラウンジの…」
「では今からビンゴ大会を開催いたします!景品はいつも通り豪華な物を用意してあります!!」
玲ちゃんが感動しながら手元のケーキを舐めるように見ていると、そんなムードをぶち壊す様に司会が進行をはじめる。
こんな企画をするのは博英だろうと、そちらを恨めしそうに見ると珍しく家族と一緒だからか緩んだ顔をしている。
後で義姉や姪っこにも挨拶をしなければならない。
「甘くておいしい!!」
しかし、玲ちゃんもそんな事を気にしないで様でケーキを勢いよく食べはじめる。
2人分であろうケーキがどんどん小さくなっていく。
時間はもう深夜と呼べる時間なのに、食欲は衰えないようだ。
一方の命は義博の所で談笑しつつ眠そうに目を擦っている。
「では、ビンゴ大会の途中ですが、そろそろ日付も変わる時間となりました…もうひとつのメインイベントです!」
また会場が暗くなり、会場の前にあるスクリーンにはカウントダウンが始まる。
「3、2、1!!HAPPY BIRTHDAY!!」
会場にはまたあの歌が流れはじめ、命にスポットライトが当たった。
しかし、命は何が起こったのか分からずキョロキョロとしてしまっている。
玲ちゃんのケーキとは違う大きなケーキが運ばれてきた。
「命?」
俺が近付くと、命はケーキを目の前に固まっている。
その異変に、俺は変わりにローソクを消してやると周りからは大きな拍手が起こり祝福の声が聞こえる。
「では、ビンゴ大会を再開しましょう!」
司会者はまた何事も無かったように進行をはじめ、他の客たちはステージの方に釘付けになる。
主役そっちのけなのは今はとてもありがたいが、本来ならどうかと思う進行だ。
「みことちゃん!BIRTHDAYだったの!?」
「え?命ちゃんお誕生日今日なの?」
「命くんごめんね!しらなくって…」
一方、花吹家の面々は急いで命に駆け寄ってくる。
命から皆には伝えて居ると思って俺からは特に何も言わなかったのだが、こんな事になるとは思って居なかった。
しかし、命は未だにぼんやりとしている。
「命どうした?」
「え?」
俺の言葉にやっと気が付いた命は、一人一人の顔をじっと見た。
そして、急にボロボロと泣きはじめてしまう。
「み、命ちゃん??」
そんな命に流石の義博も驚いたのか、床に下ろすと命が出口の方へ走り出した。
「え!命!!」
「みことちゃん!!」
誰も予想していなかった動きに、流石の俺も対応が遅れてしまった。
普段は遅いはずの命の足は、今日は早く動いた様で気が付いたときには命は会場の外に出ていってしまっていた。
俺達は急いで命を追いかけに会場を後にするが、命の姿を完全に見失ってしまった。
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