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サプライズプレゼント2

ぼくは廊下に出ると、先程まで居た部屋の扉をきちんと閉めた。 遠くからはぼくを探している声が聞こえるので、ぼくは部屋に居る人物の様子が気になりつつも声の方向に走り出す。 「れいちゃん!!」 「みことちゃん!!」 ぼくが金色の髪の後ろ姿を見付けて走り出すと、ぼくの声に気が付いた玲ちゃんがぼくの姿を捉えて破顔する。 ぼくが作った薄桃色のショートドレスを着た玲ちゃんが走り寄ってくる姿は、本当にプリンセスそのものだった。 「みことちゃん…めっ!」 「う゛…」 ぼくを抱き締めた玲ちゃんはすぐに身体を外すと、ぼくを怖い顔で叱りつけた。 しかし、その目にはうっすらと涙がにじんでいて心配してくれたことが分かる。 「れいも、パパさんもみんな心配したんだヨ!!」 「ごめんなさい…」 「でも、よかった」 再びぎゅっと力強く抱き締められるとぼくも目頭が熱くなってきた。 少し腕の力が強くて苦しいのは玲ちゃんがそれだけ心配してくれたからだと嬉しくなる。 「あ、二人とも居た」 「パパ!」 「けいちゃん!しょうちゃんも!」 ぼくと玲ちゃんがしんみりした空気に浸っていると、パパの声が聞こえてぼくはパッと顔をあげる。 「うん。早く見つかってよかった」 「パパも、けいちゃんも、しょうちゃんもごめんなさい…」 パパは腕時計を確認しながら安堵した様に髪をかきあげている。 圭ちゃんも、翔ちゃんも安心した様な顔をしていた。 「まぁ、分からないでもないからもう一回皆に謝っておきなさい」 「うん。みんなしんぱいさせてごめんなさい。おたんじょうびなんてはじめてだったからびっくりしちゃったの」 その言葉に圭ちゃんは一瞬難しい顔をしたが、直ぐに何でもないような顔になる。 翔ちゃんもなんとも言えない表情を浮かべていた。 「それにしても何処に居たんだ?心配したんだぞ…」 「んー?わかんない」 そんな花吹親子には気が付かなかったのか、パパがぼくに問いかけてくる。 さっき見たことはきっと言わない方がいいだろうと思い、首を横に振る。 パパは、ぼくを連れ去った弟を心底憎んでいた。 きっと弟が死のうが、苦しもうがどんな目に合おうとも何とも思わないであろう。 もしかしたら逆に喜ぶかもしれない。 そう思うと、先程見た光景はパパの理想通りと言える。 あんなに心も身体も追い込まれた状態の人間を見てしまっては、いくら酷い目に合わされた本人だからといって状況を悪化させるのは避けたかった。 「まぁいい…会場に戻らないと兄さんに何言われるか分からない」 パパはぼくが見付かったからよかっのか、特に深く追求されることも無かった。 後ろでは花吹家の面々が詳しい事を聞きたそうな顔をしていたが、パパがぼくを抱き上げて走り出したのでそれに続いた。 + パーティーも終わってぼくは大きく息を吐く。 「パーティー楽しかったね」 「うん!あんな楽しいbirthdayはじめてヨ!!」 パパが玲ちゃんの為に借りたスイートルームに荷物を取りに来て、ぼく達はパパが荷物をまとめているのを見ていた。 「この荷物はある程度まとめたら家に届けてもらうように手配してる。連泊扱いにしてあるからスタッフに預ければいい」 「はい」 パパが圭ちゃんに何やら話しているのを見ると、お仕事をしているみたいで格好よくて見惚れてしまう。 翔ちゃんはパパにすすめられたシャンパンを飲んでしまってソファーで小さな寝息を立てていた。 「みことちゃんも、今日birthdayなら言ってくれればよかったのに」 「ば?」 「birthday!おたんじょうびのことね?」 玲ちゃんは小さな声でぼくに耳打ちしてくるが単語が聞き取れなくて首をかしげる。 それでも玲ちゃんは嫌な顔などせずに優しく教えてくれたので、ぼくは玲ちゃんの顔をみて大きく息を吸い込んだ。 「あのね…ぼくって少し前まで“人間”じゃなかったんだ」 「え…?」 ぼくの言葉に、玲ちゃんは目を白黒させてぼくが言ったことを理解しようとしてくれているのだろうが、思考が追い付かないのか何とも言えない顔になってしまっている。 「ふふふ。きがついた時には最初のパパの家に居て、それから今のパパや、色々な人、それからお店でもぼくのお誕生日をお祝いしてくれたことってなかったの」 「・・・・」 「だってぼくも自分の誕生日を知らなかったんだもん。当然だよね。ぼくは“肉人形”で、ただの“肉でできた穴ぼこ”だったからそんなの要らなかったかもしれない。だけど、ぼくははやく“戸籍”を取って“人間”になりたかった」 ぼくの言葉に玲ちゃんの綺麗に整えられた眉毛がぐぅっと歪んだ。 「だから、今日はぼくの“人間”になってのはじめてのお誕生日なんだ。だから玲ちゃん?一緒にお祝いしてくれてありがとう」 「みことちゃん…」 ぼくは再びぎゅっと抱き締められると、玲ちゃんの身体がいつもより熱い事に気が付いた。 もしかして風邪でもひいてしまったのではないだろうかと心配になり身体を離そうと試みるが、更にぎゅっと抱き締められてしまう。 「ずっとずっとこれからは、れいとけいちゃん。しょうちゃんと、パパさんでお祝いしてあげるからね!!」 肩口からはズズズッと鼻を啜る音がしはじめ、ぼくの髪を玲ちゃんが撫でてくれる。 ぼくはそれが気持ちよくて思わずふふふと笑ってしまった。 「玲ちゃんどうしたの?」 「パパさん…め!!」 パパはお話が終わったのかぼくに近付いてくるのに、玲ちゃんは真っ赤になって少しお化粧が崩れた顔でいきなりパパを叱っている。 「ん??なに?」 「なんで、れいたちにみことちゃんのbirthday教えてくれなかったの!!みことちゃんのはじめてのbirthdayなられいなんでもしたのに!!」 「ん?はじめて??」 「そうよ!!」 玲ちゃんは怒っていると言うよりは、ぼくのお誕生日を教えてもらえなかった事に拗ねているのだ。 「あぁ…戸籍か…。うわーそれは盲点だったなぁ」 「ちょっとパパさん聞いてるの!!」 パパは玲ちゃんがキャンキャン怒っているのも気にしていないのか、納得したような顔をしている。 「こら玲!やめなさい」 「だってけいちゃん!!」 ベットルームから玲ちゃんの声を聞き付けて圭ちゃんがやって来た。 しかし、玲ちゃんは収まらない様で圭ちゃんにキャンキャン吠えている。 「まぁ、玲ちゃん…今度改めて命に何かしてやって?プリンセスがキャンキャン騒いだらダメだよ」 「あ…」 「せっかく命が作ってくれたんだから」 「ぶぅ!!」 パパは何でも無いように唇に人差し指を当ててシーっとポーズを取ると、玲ちゃんは自分の服を見下ろして黙ってしまう。 パパに丸め込まれたのが気に食わなかった様で頬を膨らませている。 それでも怒りは収まらなかったのか、ドレスと同系色のミュールで地団駄を踏んでいた。 部屋にひかれた絨毯のせいで音はしなかったが不機嫌だと言うことは伝わった。 「ほら、この部屋に2泊するっていっても王子さまを待たせちゃだめでしょ?」 「2泊?」 「ベットの上にあったのは翔から、ドレスは命。パーティー会場は会場に居た怖い顔のおじさん達からだよ。この部屋は俺からのプレゼントで、2日分押さえてある」 「すごーい!!」 「食事はブッフェに行ってもいいし、取り合えず明日の朝食はルームサービス頼んであるよ?どう?機嫌直った??」 「うーん何だか違う気がするけど…嬉しい」 そんなやり取りに圭ちゃんが頭を抱えている。 「アホかわいいけど…それ多分妥協しちゃダメなやつだぞ」 「けいちゃんも、ありがとう」 がっくり肩を落としている圭ちゃんのスーツの袖を引いてぼくはにっこり笑うと、圭ちゃんに優しく頭を撫でられる。 パパとは違う大きな手に、ぼくはそれに頭をすり付ける。 「俺も知らないこととは言え、何も用意してなくてごめんな?本人に聞くのはどうかと思うけど、何か欲しいものない?」 「ほしいもの??」 「若旦那みたいに高いものは無理だけど、何でもいいよ」 「何でもいいの??」 「うん。俺に用意できるものなら」 ぼくは少し考えて居ると、玲ちゃんもパパも興味があそうかるのかぼくの様子をうかがっているのを感じる。 「じゃあね…」 「うん」 「しょうちゃんちょうだい?」 「え?」 ぼくがにっこり圭ちゃんに告げると、予想外の返答に鳩が豆鉄砲を食らったような顔になる。 「けいちゃん??」 圭ちゃんの動きが完全に停止してしまったので、再びスーツの袖を引く。 ぼくは欲しいものを言っただけなのに、何かだめだったのだろうか。

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