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赤ずきんちゃん危機一髪7

「ふぅ」 お子様二人をベットに寝かせたところで大きなため息が出る。 俺は簡単に着替えて翔や命が着ていた洋服と自分の着ていたものを洗濯機に放りこんでスイッチを押した。 「よっと…」 寝室に戻ってベットに倒れた所でやっと一息ついた。 命の頭を撫でると、いつも通りふわふわの髪が心地よく指に絡まる。 次に翔の頭を撫でると染めているのに意外にもつるつるとした手触りに驚く。 髪の手入れとかは無頓着そうに見えるが、これもママの指導あってのことなのかもしれない。 俺はお子様二人を胸元に引き寄せ目を閉じた。 チュッ、チュッ 鳥の囀りの音で目が覚める。 親指に違和感を感じて視線をずらすと命が俺の指を吸っていた。 そこから鳥の鳴く様な音がしているので、合点がいく。 俺は命の口から指を引き抜いた。 案の定指は唾液のせいでふやけているが、命はまだ口をもごもごと動かしている。 枕元のスマホを取り上げると、時間は9時を回っていた。 いつもより早く目覚めた俺はベットから抜け出して毎朝のルーティンをこなしていく。 「さぁ…お子様達の朝メシだな」 軽くベーコンをローストして縁に色がついてきた所で卵を投入する。 野菜とフルーツを刻んでサラダを作った所でパンをトースターに放り込む。 随分と料理も慣れたものだ。 独り暮らしを始めたばかりの頃は色々失敗ばかりしてたなと懐かしく思う。 「こんなもんかな…」 お盆に作ったものと飲み物を乗せ、寝室に運ぶ。 サイドテーブルにお盆を乗せてお子様達の顔を覗きこむと、命はうっすら口を開けているし翔は眉間に皺がよっている。 俺は命の唇をふにふにと摘まんで遊び、翔の眉間の皺は人差し指でぐいぐい伸ばす。 「んむ?」 「えあ?」 二人とも流石に気が付いたのかパチリと目を開ける。 命は俺に気が付いて顔を背け名残惜しげに枕に顔を埋めていた。 もしかしたら昨日相手にしなかったのが気に入らないのかもしれない。 一方の翔は状況を掴めず視線をさ迷わせている。 「パ…さ?」 「おはよう。昨日は無理してごめんな?」 「ん?きの…?」 翔はまだ寝ぼけているのか俺の言葉に首をかしげている。 俺がベットに腰掛けると、その振動で本格的に目が覚めたのかがばりと勢いよく起き上がった。 「いっ!!いっつー」 「おい。急に起き上がるな」 翔は起き上がったのはいいが、すぐに前屈みになったので俺は体を支えてやりつつ腰の下に枕を置いてそれにもたれかからせて楽な体制にしてやる。 「なに?え?」 「昨日の事覚えてないの?」 「あの…えっと…」 身体の痛みに戸惑っている翔の首筋につけた痕へ指を這わすと、顔が面白いくらいに真っ赤になった。 俺はわざと酔いがさめた翔を相手にしたのだが、その事には気が付いていないだろう。 「翔は初めてなのに、俺も久し振りで加減ができなかったんだ」 「え…いや…」 俺は更に身体を近付けつつ頭を撫でると、翔の顔がどんどん俯いて行く。 横ではそのまま夢の国へ戻ってしまったのか命がまた寝息を立てている。 翔はそちらも気になるのかチラチラと様子をうかがっている。 「もしかして命の事気にしてる?」 「そんなことは…」 「心配しなくても、命は翔の事大好きだから問題ないぞ?あ、期待してる?」 「ち、違います!!」 腰にするっと手を回してやると、手をぶんぶん振って否定してはいるが満更でも無いのだろうほっとした顔をしている。 「ほら朝メシが冷めるぞ」 「なっ!!」 頬にちゅっとキスをしてやると、更に頬を赤くして遂に掌で顔を隠してしまった。 「米の方がよかった?」 「いや…それはいいんですけど…」 俺が朝食の盆を引き寄せ、翔の太股に乗せた。 その重みに諦めたのか翔は盆に視線を落とす。 「でも昨日言ったことは本当だよ」 「ごほっ、ごほっ!!」 俺は珈琲の入ったカップを取り上げて口をつける。 飲む前にぼそりと呟くと翔がむせた。 「今日は1日命と寝てればいいよ」 「はい」 「あ、眼鏡ね?」 「なっ!!」 俺が盆をさげサイドテーブルに飲み物の入ったピッチャーを置く。 翔に買ってやった眼鏡をかけさせてやり、ちゅっと額にキスしてから部屋を後にする。 部屋を出る瞬間、焦った翔の顔が印象的だった。 溜まっていた仕事をさっさと終わらせて、午後からはお子様達とゆっくり過ごそうと俺は仕事部屋へと急ぐ。 カタカタ キーボードを叩く音が部屋に響いている。 「ふぅ…」 久しぶりに2時間近くパソコンの前に居たので流石に疲れてしまった。 これが仕事じゃなければあっという間だったのだろうが、久々に真剣に仕事をするとやはり疲れる。 まぁ今日はこれ位で良いだろうと仕事用のパソコンを閉じた。 お子様達は何をしているのかとのんびり住居の方の寝室に向かう。 「これは?」 「これはカバ、こっちがコビトカバ」 「同じカバなのにおおきさがちがうの?」 寝室を覗くと命が翔と仲良く本を読んでいた。 命の誕生日に他の組の組長達に何が欲しいか聞かれて、新しい図鑑が欲しいと言ってから翌週には幾らするのか分からない分厚い図鑑セットと、本屋が開けるのではないかという程の絵本が家にどっさりと届いた。 流石に全部は置いておけないので、段ボールに入ったままの物も多い。 昔から動物図鑑と最近では鉱物図鑑がお気に入りの様だ。 「居る国や環境によって大きさや習慣を変えるんだよ」 「あ、知ってるよ!!“進化”でしょ!」 「そうだよ。命くんは物知りだね」 こうして見ると本当に歳の離れた兄弟の様だ。 翔が命の頭を撫でて居るのを見ると、気不味そうな雰囲気などなく昨日の事は断片的にしか覚えて居ないのかもしれない。 「何読んでるんだ~?」 「あ!ひろみつさん!!」 「パパさん…」 俺がゆっくり声をかけながら中に入って行くと、命が満面の笑みで俺に手を広げる。 一方の翔は、俺の顔を見るなりポッと頬を染めて下を向いてしまう。 「はいはい。お寝坊さんは翔に本を読んでもらってたのか」 「そう!!翔ちゃん腰痛いから!!」 「み、命くん!!」 俺は素直に命を抱き上げ、ベットに腰かけるとギシリとベットが揺れる。 命の言葉に慌てる翔に、ついつい笑みが溢れた。 「何だよ…命は良くて、俺は恥ずかしいの?」 「そ、それは…」 ついついウブな反応にからかいたくなってニヤニヤと言ってやると、シーツをもじもじと手で触り出した。 「ひろみつさん格好いいもんね!!」 「そうだね…」 命が嬉々として俺の首に抱きついたのを見て、翔の顔が一瞬だが歪む。 「今回の事は事情があったから、謝らないよ。でも大丈夫…翔にも俺達以外に大切な人が絶対現れるから」 「すぐにひろみつさんに探して来てもらうからね!!」 「探して来てもらう?」 「うん!!」 「頼もしいね」 俺の言葉に神妙な面持ちだった翔だが、命の言葉で気が抜けたのか少し表情が和らいだ。 「それまでは、溜まったら俺か命が相手するからね?」 「いいです!!いいです!!」 俺がウィンクして言ってやると、翔は慌てて手を振る。 性的な事に疎かった翔なら当然の反応だが、若い身体で尚且学に慣らされた身体では以前と勝手が違うだろう。 まぁその時になったら考えてやれば良い事だ。 「俺も今日は仕事は終わりだ」 「やった!!ひろみつさんとゴロゴロ!!」 「そうだな…スクリーンでも持って来て何か見るか」 趣味の部屋以外でも大画面でアニメが見れるようにホームシアターをもう1台買ったのだ。 命の一件でなかなか使う機会が無かったが、折角なので今日お披露目するのもいいかもしれない。 ベットの足元に移動式のスクリーンを広げ、機械類を手早く繋げる。 「新作も開けられなかったんだよ~」 「すげー。初回特典版」 俺がBlu-rayのパッケージのビニールを剥がしていると、先程の反応を忘れたみたいに翔がキラキラした目で特典の入った段ボールを見ている。 4月に入ってから始まった魔法の妖精シリーズは1話だけ見て、そのあとは見れなかったので実は翔以上に楽しみにしていた。 「夏…間に合うかな」 「いやー。今作も良作の予感ですよね。あ、新作楽しみにしてます!!」 俺と翔はスクリーンを見ながら思い思いに感想を述べていくが、命はまた俺の膝に頭を乗せて寝てしまっている。 髪をくるくると指に絡めて遊び、柔らかな頬にも触れる。 命にも夏のイベントに出すためのグッツのイラストを描かせねばならない。 命は店で暇な時は絵を描いていたらしくなかなかの腕前だ。 命が描いたデフォルメのキャラクターイラストをアクリルキーホルダーにしたところすぐに完売したとブースのスタッフから聞いたので今年の夏も出す予定だ。 自分は毎年別のブース回りに忙しいので、毎年サークルは売り子に任せている。 「いや…翔も手伝うんだよ?」 「え?」 「今からはじめて、プロット、こま割、下書き、清書してから余裕を持って入稿だぞ?のんびりしてたら、原稿間に合うわけないだろ」 「そ、そうですね…」 俺は指を折り曲げ手順を説明すると、流石の翔も気圧されて居る。 この時期は流石の兄さん達でも俺に仕事を振ってこない。 それは冬のイベントの前もしかりだ。 出したいグッツをすべて作ろうと思うと時間が無いのだ。 「他のバイトってどうなってる?」 「え、えっと家庭教師と居酒屋とファーストフードです」 「うーん。どれか辞められる?」 「何でですか?」 「報酬は出すから、本気で手伝ってくれない?」 本来なら冬のイベントが終わってからコツコツとはじめてというのがいつものパターンだったのだが、今回は全てにおもいて遅れてしまっている。 これを機会に他の仕事を辞めさせてしまおうという魂胆もある。 同人誌のネタは今の上映会で軽く出来たので、後は時間のかかる作業ばかりだ。 「でも、急に辞めたりとかできないですし…」 真面目な翔は流石に渋り出したので、俺はするりと腰に腕を回しつつお願いしてみることにした。 「どうしても…だめ?給料足りない?」 「いえ…そういう訳では…」 顔を近付けつつ首を傾げると困った様に眉を下げている。 ちゅっ 「頼む…」 俺は唇を合わせ、軽くバードキスをして耳元で囁くとコクンと肩に微かな振動を感じた。 俺は心の中でガッツポーズをとりつつ耳にも軽くキスをしてやったのだった。

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