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赤ずきんちゃんとお花3
「しょうちゃん…」
「な、何だよ」
玲が怖い顔で詰め寄ってきたので、俺はたじろぐ。
思わずソファーの上だと言うのに仰け反った位だ。
「これでおかいものしてきて!」
「は?買い物?」
玲は真剣な顔で俺の手に何かを握らせる。
俺が手の中の物を見ると、玲が親父から持たされている電子マネーのカードだった。
玲は計算が極端にできない。
近所の個人商店ではそれが店の人も分かっているから、買い物用の財布から商品の金額分を抜いてお釣りをくれるらしい。
しかし、大型のスーパーマーケットなどではそうもいかないので、親父にカードを持たされているのだ。
きちんと家計簿をつけている玲にはクレジットカードではなく、電子マネーの方がいいだろうという謎の気遣いだった。
「うーん。お、皆勢揃いだな」
「きゃー!!!」
パパさんが伸びをしながら部屋から出てきたのを見た玲は再び大絶叫する。
「パパさんほっぺたがふっくらしてるー!!」
「おぉ…圭介も久し振りだな」
パパさんは、絶叫している玲を無視して近くに居た親父に声をかけている。
親父は命くんを抱き上げて小さい子にするみたいに背中をトントン叩いていた。
命くんはまた眠くなってきたのか親父の肩に頬を押し付けとろんとした目をしている。
「いい?今から言うものかってくるのヨ」
「あ、あぁ…いいけど…」
「あ!ダメよ!しょうちゃんのお祝いなんだから!それに…」
玲は思い出した様に自分の掌に顔を埋めると、すぐにパッと顔を上げてソファーに座っている俺を上から下まで見てからニコッと笑った。
「お祝い?」
「パパさんにたのむね!」
俺の疑問を余所に、そう言うと玲はパパさんのところにとんで行った。
俺は何が何だか分からずその様子を見ていると、玲はパパさんに向かって怒っている。
「パパさん!ふとったデショ!それにくらべてみことちゃんあんなにやせちゃって!!」
「点滴とかでなんとかもたせてたって感じだな…」
「しょうちゃんにお菓子持たせてたのに!!」
「美味しかったよ?」
二人の会話は完全に話が噛み合っていない。
俺はハラハラとその様子を見ていたのだが、命くんを抱いた親父が俺の横にまた腰をおろす。
「うちの嫁さん荒ぶってるな…」
「パパさんにあんな態度とれるのはあいつだけだな」
俺も親父も変な感動と共に二人のやり取りを見ていた。
話の中心の筈の命くんは親父の肩で寝てしまったのか、指をしゃぶりながらぷすーっと鼻息が聞こえている。
本当に命くんはマイペースだし、俺達に対して安心しきっているところが本当に弟のようだと思う。
「ジョギングがてら買い物してきて!」
「はいはい。“ママ”」
「はいは1回でいいの!」
キャンキャン噛みついて、そのままパパさんを家から追い出した玲は鼻息も荒くこちらにやって来た。
少し髪の毛が乱れているのを見ると相当興奮していた様だ。
「みことちゃん…大丈夫ヨ?れいがちゃんと元の身体に戻してあげるからね」
親父の肩で寝ている命くんの頭を撫でている玲は、いつも使っているショルダーバッグを下ろして袖をめくっている。
「けいちゃん!みことちゃんのことちゃんと見ててね!」
「わかったよ」
「しょうちゃんはそこに居てね!」
玲は勝手知ったる他人の家で冷蔵庫を物色している。
それから何やらバタバタと慌ただしくキッチンを行ったり来たりていた。
+
「さぁ…パパさん以外は沢山食べてネ」
買い物へ行かせ、帰ってきてから冷蔵庫にあった炭酸飲料について説教をされたパパさんの前にはサラダとこんにゃく料理が並んでいた。
流石にやりすぎだとは思ったが、料理の事に関して玲には逆らえないので俺はそれを見守る事しかできない。
「玲さん…ちょっとやりすぎじゃないですか?」
「けいちゃんは黙ってて!!」
親父も助け舟を出そうとしたが、今回は太刀打ちできそうに無さそうだ。
料理や健康に関しては、流石の親父も玲には口出しできない。
「へぇ。こんにゃくラーメンってのがあるのか」
そんな仕打ちにも動じる事なくパパさんは自分の目の前の料理を観察している。
「みことちゃん…ほらあーん?」
「んー?」
玲はパパさんの事を監視しつつ横に居る命くんの世話を焼いていた。
命くんは玲にフォークを握らさせられ、幼児用の食事エプロンを首に掛けられた状態でうとうとしている。
そんな命くんに玲は一口大にした唐揚げを口に押し込んでいた。
もう食べさせてあげていると言うより、強制的に摂取させているというのが正しい。
「ほら、みことちゃんもぐもぐ~」
命くんは玲の声にゆっくりと口を動かしているが、やはり途中で動きが止まってしまっている。
「つか、何で赤飯なの?」
俺達の目の前には玲が作ったオードブルと、赤飯のおにぎり。
それに俺の好物が並んでいる。
さっきもお祝いだと言っていた玲だが、一体何のお祝いなんだろう。
「みことちゃーん?ブロッコリーよ?」
今度は命くんの口にブロッコリーを押し込んでいる玲は、不思議がる俺を見てニヤニヤしている。
一方、パパさんは親父に酒を勧めているし本当に何なのだろう。
「玲ちゃん?命と少し寝てきたらどう?昨日の夜からこれ作ってくれたんでしょ?」
見かねたパパさんが玲に提案している。
確かにこれだけの量を一人で作ろうと思うと相当時間がかかるだろう。
今は昼を大幅に過ぎた時間だがもしかしたら寝ずに仕込みをしたのかもしれない。
「玲もそうさせてもらったらどうだ?昨日寝てないだろ?」
「ウン…そうする」
「二人の食べる分は取っといてあげるから」
親父もそう言うので、玲は渋々頷いて命くんを連れて寝室に消えていった。
「命くんよく寝ますね」
「やっぱり痛くてなかなか寝れてなかったからな…」
パパさんは、玲が居なくなった瞬間にオードブルに手をつけている。
「成長痛でしたっけ?」
「そう…今は落ち着いてる」
親父は心配そうに寝室に消えた二人を見ていた。
「俺の姿が見えなくなると暴れるから俺も命から目が離せなくて大変だったが、生き物は最期まで世話しなきゃいけないからな」
「ははは。ペットじゃないんですから…」
親父も俺もそこで笑うが、パパさんはにこっと微笑んだだけだった。
「さぁ折角玲ちゃんが用意してくれたんだから食べようか」
パパさんは命くんと玲が食べる分の食べ物をよけるとグラスを手にした。
そこにはアルコールがなみなみと入っていて、俺もグラスを持たさせられ乾杯をする。
「あはは。今日も呑みすぎちゃったぁ」
「そうだな翔はもう少し警戒心を持った方がいいと思うぞ?」
「警戒心ですかー?」
頭がふわふわしてパパさんの言葉までもふわふわしている。
親父もソファーでダウンしているし、俺は楽しいし何だかよく分からないがいい気分だ。
「うーん。これは据え膳か?」
「すえぜん?」
「まぁいいか…」
パパさんが何か考えているのか、顎に手を当ててるのが見える。
しばらく動かなかったが、考えるのをやめたのか俺の方に近付いてきた。
「まぁ、命の要望が叶うまでは俺が面倒見てやらなきゃな」
気が付いた時にはパパさんの顔が近くにあって温かい物が口の中を動いてるのを感じる。
それが気持ちいいなぁと思っていたところで、記憶がない。
気が付いた時には朝で、またパパさんの腕の中で目覚めた俺は頭を抱えていた。
「あ、服は着てる」
おそるおそる布団をめくると、お互い服はちゃんと着ていたので一安心する。
パパさんは命くんを抱き締めながら眠るので、俺も現在パパさんの胸の中にいたりする。
俺は変にドキドキするが、なんとか周りの状況を確認しようと首を動かす。
命くんが見あたらず、もしかしたら玲と一緒に寝てしまったのかもしれない。
ゆっくり身体を起こすと、まだ肉がひきつる様な痛みがあったがなんとかベットからおりてリビングに向かう。
「あ、しょうちゃん!」
「しょうちゃんおはよー」
寝室から出ると香ばしい良い香りがしている。
ダイニングキッチンでは命くんと玲が仲良く朝食の準備をしていた。
俺に気が付いた二人は満面の笑みで迎えてくれる。
「いま、めだまやきやくね!」
玲はパタパタと冷蔵庫に向かい、卵を2つとウインナーを取り出した。
それをフライパンに入れて火にかける。
実は玲が何気無く冷蔵庫から出した卵も、俺達が普段食べている卵の倍の値段なのだが玲はそれに気が付いても居ないだろう。
シンクの三角コーナーにはその卵の殻が大量に捨ててあり、何かを作ったのは明白だ。
「今カップケーキ焼いてるから、しょうちゃんも食べるでしょ?」
「あ、うん」
玲がいそいそと俺にご飯のよそわれた茶碗と味噌汁を出してくる。
本当にここが他人の家だという事を忘れる位玲はいつも通りに家事をこなしていた。
ただいつもと違うのは目の前に出された茶碗も箸でさえいつも使っているものとは雰囲気も違い、高そうと言うことだ。
「二人はもう朝食べたのか?」
「いまからヨ」
三つ口のコンロの上では、俺の朝食の横で違うものが調理されていた。
それが二人の朝食なのだろう。
目玉焼きと、ウインナーの乗った皿を目の前に置かれ一緒にサラダをサイドにつけてくれる。
玲が来てから食事に困った事がなく、その点では玲に感謝していた。
「はい。みことちゃん…れい特性のパンケーキヨ!」
玲は命くんにパンケーキの皿を見せると、自分の分の乗った皿と一緒にダイニングテーブルに持ってきて着席する。
「いただきまーす!」
「じゃあ、俺もいただきます」
命くんが手を合わせた所で、俺もそれを見習い手を合わせた。
命くんと俺が手を合わせるのを玲は嬉しそうに見ていた。
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