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狼は腹の中08

俺は青ざめた顔で呆然としている圭介の拘束を解くと、命に自分の着ていたジャケットを掛けてさっさと部屋を後にする。 部屋を出る俺の後ろではドタドタと揉み合う様な音がしていたが俺は振り向く事もせず玄関へ向かった。 後ろ手で扉を閉めると、マンションの廊下にその音がその音が大きく響く。 「ひろ…み…つさっ」 車につくと、後部座席の扉を開けて命を横たえてやる。 その軽い衝撃に目を開いた命は、息もたえだえに手を伸ばしてきたが、流石に酷使した身体には大きな負荷が掛かった様で掴んだ掌はいつもより熱かった。 しかし、1度火が付いた怒りはなかなか収まるはずもなく俺はすぐに手を離して運転席へ乗り込む。 「どこ…いっ」 何とか俺に話そうとする命の声はエンジンの音で掻き消され、息苦しそうな息遣いだけが車の中に響いている。 しばらく車を走らせ最近通い慣れた雑居ビルの横へ車を停めた。 命を抱き上げ目的の場所まで向かう。 「なんじゃ?また来たのか…」 無言で扉を開けると、珍しく表に居たヤブ医者が俺の顔を見るなり大きく溜め息をついた。 俺はジャケットにくるんだ命を近くの診察台に寝かせると踵を返す。 「おいおい!!チビを置いて何処に行くんじゃ」 「頭を冷すのに2、3日地下にもぐるからその間に治療を頼む」 気まずさからヤブ医者の顔も見ずに吐き捨て、そまま足早に診療所を後にしたが後からは言葉汚く文句を言っているのが聞こえてきた。 あのヤブ医者は命の事を犬や猫位に思っているのか“チビ”と呼んでいる。 預ける事に心配はあったが、いつも快く預かってくれる花吹家から今しがた出てきたばかりだ。 しかも命に対する怒りもまだ残っている状況で二人になるのは恐ろしかった。 このままだと命の事を殺しかねないと随分痛い事を考えてしまったのだ。 「はぁ…」 俺は再び車に乗り込むと大きな溜め息をついてエンジンをかけた。 オーディオのボリュームを上げてアクセルを踏み込む。 景色はどんどん後ろに流れ、建物も人も疎らになりはじめた。 とある大きな倉庫の前に車を停める。 「相変わらず…悪趣味だな」 建物の前に停まっている車はどれも例外なく“それらしい”車ばかりだ。 それを見て流石の俺も少し頭が冷える。 滅多に吸わなかった煙草も、命が体調を悪くしたここ2ヶ月程で量が増えた。 「チッ」 俺は煙草を取り出そうと胸元を探るが、ジャケットは命と共にヤブ医者のところに置いてきた事を思い出して小さく舌打ちする。 倉庫の横には人里から離れているにも関わらず立派な建物が建っている。 関係者以外には何かの製造工場に見えることだろと思いつつ俺は入口にあるセキュリティに手をかざすとピッという電子音の後に鍵が開く。 「お疲れ様」 「あ、博光さん…お疲れ様です」 建物の中には20代前半位の少しやんちゃ系の男達が何やら会議をしていた。 その一人に声をかけるとペコリと頭をさげる。 博英の本職は、うちの組の資金作りの為の貸金業だ。 当然、返済が滞れば取り立てもするし返せないとなれば実力行使に出る。 俺はその手伝いに駆り出され取立てをするのだが、本当に払えない人間は身柄を確保した時点で身体ひとつで返済をせねばならない。 女なら借金返済の為にAVに出演させ、それでも返せない分を系列の風俗店に沈めて返済させるのだ。 「任せきりで悪かったな」 「はじめは抵抗してたんすけど、ちょっと殴ったら言うこと聞くようになりましたよ」 「ああいう奴は、いざ自分弱い立場に回ると脆いな」 「それから…」 男が俺にタブレットを差し出すと、周りの男達からクスクスという笑い声が上がる。 タブレットには動画ファイルのアイコンが並んでいて、そのひとつを開くとなんら普通のアダルトビデオだった。 しかし、全てが無修正で男優の顔も映っている。 「へぇ…これは面白いな」 そこには、この男達に押し付けた翔のバイト先の先輩で“狼”だった吉高 学が映っている。 嫌がる女と、同じ様に嫌がる学がセックスしていたのだ。 恋人同士が無理矢理カメラの前でさせられていると言えば十分に通用しそうな程の出来映えである。 流石にプロが録った映像は違うなと感心してしまう。 「流石に俺達も男に興味は無かったんで、無理矢理女とさせたらスゲー嫌がって面白かったですよ」 男達が言うには、学はここに来てすぐに暴れたのだが暴力の前では大人しくなったそうだ。 俺に好きにするように言われていたので、汁男優の一人としてAVに出演させたら烈火のごとく嫌がったので面白がって数人の女とさせたと言っていた。 映像を見る限り、回を重ねる毎に精神的にまいっているのは明白で俺も笑いが込み上げてくる。 「あいつ生粋のホモなんですね?女のマ○コ見せたら涙目になってましたよ」 「へぇ。それは…面白いな」 「ですよねー」 俺が相槌を打つと再び笑いが起こる。 今更ながら目の前に居るのは博英の部下であり、映像部門の奴等だ。 借金を返済ができなかった女達を風俗に沈めるための映像作品を作っている。 女達と違い借金苦の男は別の用途にも使い道があるので重宝するのだが、学の場合はあくまで“俺の私用”でここに預けただけに過ぎないため出来ることに限りがあっただろう。 それにも関わらず抜かりがない事に俺は満足する。 「色々面倒かけたな」 「いえいえ~。こちらもいい画が撮れて良かったスよ!」 俺はタブレットを返し、建物の奥に進む。 このビル自体は宿泊する様な場所ではないが無駄にベットなどは沢山あるため学を放り込んであるらしい。 撮影班の男達が言うには、夜は夜で博英のシマの店に出していたらしく、中々の評判だったと言っていた。 これでちょっとは博英の機嫌が取れればいいなと頭の片隅で思う。 「はぁ…やっぱり運動不足だな」 この建物には普通にエレベーターもあったが、階段を使って目的の部屋まで行くと流石に最近の不摂生のせいか少し息が上がってしまった。 これは旅行に行く前に調整しないとまずいなと実感する。 ガチャッ 目的の部屋の扉はオートロックになっていて外側からは開くが、内側からは鍵がかかって出られない様になっている。 ホテルのオートロックと逆の仕様なのは連れてきた人間が誤って逃げない様にするためだ。 「随分と大人しくしてる様だな」 「あんた…」 撮影用に使うベットの隅で枕を抱えて丸くなっていた学は俺の気配に顔をあげた。 俺と目があった瞬間、抱えていた枕を投げて来たが全く届かず少し離れた所に落ちる。 「はじめての女はどうだった?中々様になってたぞ?」 「このっ!!」 俺は笑い混じりに言うと、ベットから立ち上がり此方に向かってくる。 まだ気力はあるようだ。 殴りかかろうと手が上がったのを見計らって足をはらってやる。 そのまま倒れた学の背中に蹴りを入れると咳き込み、胃液と思わしき液体が床を汚す。 「何?まだ懲りてないみたいだね。俺、今日はとっても機嫌が悪いから覚悟しといた方がいいよ?」 俺の言葉に学がヒュッと息を詰めたのを聞きつつ、俺は腕時計を見た。 ここに来る前に別の撮影班と男優を手配したのだが、来るまでにしばらく時間がある。 学は諦めたのか、咳を未だしているものの先程の威勢が嘘の様に大人しくなった。 「不本意だけど、俺が準備してやるよ」 「じゅん…び?」 足を学の背中から退けて、俺はしゃがみこむ。 髪を掴み顔を上に向かせると生理的な涙を浮かべていた学は俺の言葉に眉を寄せていぶかしむ顔をする。 俺がわざとにっこりと微笑んでやると再び言葉を失ってしまった。 俺が手を離した瞬間に扉の方へヨロヨロと駆けていくのを俺はぼんやりと見ていた。 ノブをガチャガチャと動かし、扉をドンドンと叩いている。 何度か試して出られないのは分かっているだろうに無駄な事をしているなとしらけた思いでその行動を眺めていた。 「くそっ!」 腹を押さえながら扉伝いに座りこむ学の声を聞きながら、俺は準備を始めた。 物置の様な部屋が併設されており、そこには撮影に使う機材や道具が置いてある。 そこから必要な物を集めるのだが、自分の店の製品ばかりなので不足分等が気になって仕方がない。 とりあえず、ローション類が減ってるな…等と在庫のチェックをしてしまう。 「ん?」 音が止んだ事に気がついて、部屋に戻ると身体を再び縮こまらせている学の姿が目に入る。 しかし、俺はそんな事には気にも止めず準備を進めていった。 「さぁ…やるか」 「離せ!!」 俺は大きく息を吐いて気合いを入れると、学の二の腕を掴み立たせる。 足に力を入れて抵抗する学に俺は大きなため息が出た。 子供の様に暴れる学の頬を平手で叩くと大人しくなったので、いい加減学習しない学に呆れてくる。 「へぇ…」 「くっ」 俺は学が着ているバスローブを剥ぎ取ると、その下には何とも言えない下着を着用させられていたので、込み上げてくる笑いを必死にこらえる。 胸元が強調されるようなコルセット風の物に、ビキニパンツの上にはスカート状の小さなプリーツがついていた。 この姿で店に出されていたのだろう。 左の乳首にはピアスが煌めいており、改めて相当遊んでいたことが分かる。 「じゃ、狼さんを今からこらしめてやるよ」 「ひっ!!」 壁の隅へ逃げた学が動けない様に拘束して、そのまま風呂場に転がす。 学が着ていたものは面白いのでそのままに、いつも使っているハンディカムを回した。 「これはシャワーヘッド外して、このパッキンを装着します。それから専用ヘッドをつけます」 俺はハンディカムを持ちながら商品レビューをはじめる。 商品レビューが溜まってしまっていたので、丁度いい機会だから消化しようと在庫を見ながら思ったのだ。 楽しくなりそうだと思いながらファインダー越しに学を見つめていた。

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