100 / 119

狼は腹の中13

目的の部屋の前までつくと、チャイムなどは存在しないのでそのままドアノブを捻る。 鍵はいつもかかっていないので扉を開けると相変わらず室内は薄暗かった。 「じーさーん?おーい!ヤブ医者ぁ」 声をかけても返事が無いので勝手に奥に進む。 診療室になっている部屋に入ると、白衣を着た男が居た。 その横にある診療台には命が寝かされていて、今まさに点滴のチューブを外そうとしているところだった。 「どうも。先生は外出中ですよ」 「は?」 男は俺が聞いても居ないのにヤブ医者の行方を話し出した。 目の前の男がヤブ医者のじぃさんとどういう関係かは知らないが、こんな違法な施設に普通の医者がいるとは考えにくい。 俺がそう思っている間に手際よく点滴のチューブを外して小さな絆創膏を針を抜いた箇所に貼っている。 「あんた…じぃさんとどういう関係だ?」 「私は薬を貰いに来たんですが、外出すると言うので留守を預かってます。何かご用ですか?」 にっこりと笑みを浮かべた男の顔に薄ら寒さを感じて、命を引き取り一刻も早くここから立ち去ろうと思った。 「そこのベットに寝てるのは俺のだ。引き取りに来た」 「あぁ…貴方のペットだったのか。先生からは“壊すな”と言われて居たので何もしてませんよ」 いつもならムッとしても軽く流せたのだろうが、慣れない簡易ベットで寝て疲れていたせいか男の言葉にゾッと悪寒が背中に走り、足早に診療台に近付き命を抱き上げた。 命の身体がいつもより軽く感じて、男から命を隠すように抱き締める。 「健気だね。ご主人様の洋服をずっと握りしめてたんですよ」 「・・・・」 「私も昔ペットを飼ってたんですけど、実験用のマウスと出ていっちゃったんですよ。だから、最近また遊びをはじめたんです」 聞いてもいない話をベラベラと話す男を無視して踵をかえした。 急いで部屋を出ていく俺に、“要らなくなったらいつでも引き取ります”という男の声がかかる。 俺は何も聞こえなかったふりをして車へと急いで戻った。 「はぁ。何だあいつ…」 俺は車に乗り込み、まだ眠ったままの命の頭に顔を埋め思いきり息を吸い込んだ。 風呂が好きな命の頭はいつも子供用のシャンプーの香りがするのだが、今日はミルクの様な子供の香りがする。 男が言うように手には俺が命をくるんだジャケットが握りしめられていた。 暫し命を抱いて温もりを感じて居たが、ヤブ医者のところで着せられたのであろう病院服は命には大きく手足が全く出ていない。 「ひ…みつさ…て…かないで」 「命?起きたのか?」 命の顔を覗きこんでみるが、瞳は閉じられたままだった。 しかし、小動物みたいにヒクヒクと鼻を動かして俺の胸元に頭を擦り付けてくる。 俺は命の手をゆっくり開かせジャケットを後ろのシートに放り投げると、頭を撫でて助手席に移してやった。 ジャケットを手から離した事で不安になったのか、目を閉じたまま手をさ迷わせ病院服をぎゅっと握ったのを見て俺の良心がチクリと痛んだ。 命の頭をもう1度撫でてから俺はエンジンをかける。 「はぁ…久々のわが家」 駐車場から上層階専用のエレベーターに乗って久々に部屋に帰ってきて、大きなため息が出た。 とりあえず命をソファーに寝かせ俺はシャツやスラックスを脱いでいつも着ているジャージとお気に入りのTシャツに着替える。 命の病院服も脱がせて俺のTシャツを着せる時に身体を観察してみたが特に変わったところが無くて安心した。 「んっ…」 「孔も元に戻ってるな」 Tシャツを着せた後に足首をむんずと掴んで広げさせ、指で孔の様子を見る。 ぽっかりと拡がっていた孔は少し赤くなって、縁が腫れていたがきちんと閉じていて安心した。 指で孔の上を撫でると中が動いているのかヒクヒクと収縮しだす。 「命?」 もう一度命を抱き上げて今度はベットに運んだ。 俺も一緒に横になり、命の耳の後ろの匂いを吸い込む。 そのままベロリと舐めると、命の身体がぶるりと震えた。 命の匂いで久し振りに興奮した俺は、サイドボードからコンドームを取りだして少しずらしたジャージから取り出したぺニスに装着する。 流石に命の酷使した孔に挿入するのは躊躇われたので、命を横向きに寝かせ太股の間にぺニスを滑り込ませた。 太股を行ったり来たりするぺニスに、命の身体は本人の意思とは関係なく反応している。 孔はさっきにも増して収縮を繰り返し、ヒクヒクとしているし乳首もTシャツの上からでも分かるほどピンと尖っている。 「寝ててもやっぱり反応するんだな」 「くぅん…」 Tシャツの上から乳首を摘まんでやると、鼻から子犬の様な吐息が漏れる。 俺はそれに気分が良くなり命の首筋に顔を埋め、柔らかな肌に歯を立てた。 歯に力を込めたところで命の腹が小さく痙攣をはじめたのを掌に感じて、俺は笑みが溢れる。 「俺に何されても嬉しいんだな」 言葉に出すと恥ずかしいが、しかし声に出した事で変な満足感があった。 ラストスパートをかけるべく、腰をグラインドさせながら命の乳首をこれでもかと言うほど押強くし潰す。 俺がフィニッシュを迎えると、勃起をしなくなった命の小さなぺニスからはドロリと薄い精液が俺のコンドームに滴り落ちていた。 俺はコンドームを外して口を縛るとベット脇のゴミ箱に放り投げて自分のジャージを元に戻す。 命の後始末をしてやり、そのまま命を抱いていると、少し高めの体温と2日ぶりの自分のベットに睡魔が襲ってきた。 「もうこんな時間か…」 仮眠から目を覚ますと、デジタル時計がもうすぐ18時になりそうだった。 腕の中の命はまだ寝息をたてており、いつのまにか俺の腹にぴったりと抱きついている。 命を引き剥がして、俺は風呂場へと向かう。 軽くシャワーを浴びて再び着替える。 気が重いが、玲ちゃんのところへこの前のお詫びに行かねばならない。 自分でも子供じみた仕返しをしてしまったものだと後悔よりも恥ずかしさの方が大きかった。 「これはクリーニングだな」 玄関に捏ねてあった命をくるんでいたジャケットを拾い上げると、内側は様々な体液で所々カピカピになっており着れる状態ではなかった。 寝室に戻りクローゼットから適当にスーツとYシャツを取り出して、のそのそと着替える。 面倒ではあるが、自分がしでかした事なのでジャージで詫びを入れに行く訳にもいかない。 起きる様子のない命の額にチュッとキスをして家を出る。 「はぁ…」 玲ちゃんの家に行く道すがら大きなため息が漏れる。 大ボリュームで流しているミコミコの曲も今は楽しめない。 湾岸沿いの高級住宅街から郊外の玲ちゃんの家までは車で30分かかる。 車もそうだが、そろそろ玲ちゃんの近所に引っ越した方が命のためなのではないだろうか。 明日命が起きたら不動産屋と車屋にでも行こうと決意した。 「気が重い…」 通い慣れたマンションに到着した頃には辺りは薄暗くなっていた。 梅雨時のむわっとした空気と、変な緊張感に息が詰まりそうだ。 あまり遅くなっても逆に迷惑だろうと俺は重い足を引きずりつつエレベーターホールに向かう。 腕時計を確認すると家を出てからきっちり30分経過していた。 ピンポーン 目的の部屋のインターホンを押してしばらくで扉がうっすらと開いた。 そぉっと顔を覗かせる玲ちゃんと目があったところで玲ちゃんの顔がふわりと綻んだ。 一旦扉が閉じてから再び開いて、ニコニコとした玲ちゃんが出てきた。 「こんばんは。この前はゴメンね?これじゃ詫びにはならないだろうけど、良かったら食べて」 「パパさん!え?この前?」 俺は昼間に買ったお菓子の包みを渡すと、玲ちゃんは本当に何の事か分かりませんといった様子で戸惑いつつお菓子の入った紙袋を受け取った。 やはり指輪をはずしている時の記憶は曖昧みたいで、俺は悪いと思いつつ少しほっとする。 「そう言えば、2日前からけいちゃんが元気ないの…それかしら?」 「まぁ…それもあるかな」 「そうなんだ!けいちゃんスゴく落ち込んでたから、今日はむかしのお友だちと気晴らしにのみに行くって言っておうちにいないよ」 玲ちゃんは顎に人差し指を置いて考える素振りをするのが凄く…あざとい。 こういう仕草に圭介を含め男は騙されるんだろうなと他人事なのでぼんやりと思う。 今回、一番精神的被害を被ったのは圭介だろう。 家に居ないのなら呑んでいるであろう居酒屋にでも行って、話をしながら今回の事を謝ればいいかと思った。 「じゃあ、圭介のところに直接行くことにするよ」 「しょうちゃんも居ないから、れい1人でおるすばんなんだ」 「命を連れてくれば良かったね。なら、連絡したらお店においで。ご飯一緒に食べよ?」 「いいの?」 「でも、ソフトドリンクだからね?」 俺の言葉に玲ちゃんは嬉しそうにぴょんぴょん跳ねるので、たまに命が同じ様にしてるのはやっぱり玲ちゃんの影響なんだなと思う。 「あ、しょうちゃんにごはんつくっておかなきゃ!」 「玲ちゃん!!圭介どこの店に居るの!?」 思い出した様にキッチンに向かおうとする玲ちゃんを引き留めて聞き出した店名は、俺でも知っている様な安さが売りの居酒屋チェーン店だった。 玲ちゃんに後から連絡するねと言って俺はマンションを後にする。 圭介が居る居酒屋では、きっとアルコールを呑んだりはしないだろうが一応車を置いていく事にした。 玲ちゃんの家は駅から近い住宅地なので、居酒屋には歩いていけない距離ではない。 俺は歩いて行くかと、鍵を尻のポケットに突っ込んで歩き出す。 「もう夏だな…」 駅まで歩いていると、額からじんわりと汗が吹き出してくる。 夜になっても熱い空気の逃げ場がない住宅街はなかなか気温が下がらないので、余計に暑いのだ。 やっぱりビールでも飲もうかなと思いつつ駅前の居酒屋を目指した。

ともだちにシェアしよう!