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一人でできます!7
放心状態の翔の顔を覗きこみ、手を降って意識があるのか確かめる。
一応目は手を追う様に動いたので意識はあるようだ。
「はぁー。疲れた…」
「それだけ出したらそうだろうねぇ」
翔からは大きなため息がもれたが、流石に若くてもあれだけ絶頂を迎えれば疲れるだろう。
俺のからかう様な口調にも疲れているからか反論もしてこなかった。
ベッドの下には大きな水溜まりができていたので、部屋の隅から使い捨てのシートが付いたモップを持ってきて軽く後片付けをする。
大きなゴミ箱にシートを捨てて、新しいシートでもう一度拭き取りをした。
そんな俺の様子を翔は眠そうなとろんとした目で見ている。
「折角だから、夜は好きなものでも食べに行こうか?」
「あー。ワガママを聞いてもらえるなら…俺宅配のピザがいいです」
「え?そんなのでいいの?」
「玲は親父が居るとピザなんてとらないし、親父が出張で俺と2人で留守番の時も“こっちのピザはコーンとかへんなトッピングのっててたべるきもちにならないし、なによりたかいよねぇ”って言って却下される事が多くて…」
翔はのそりと身体を起こしながらため息をついた。
しかも玲ちゃんの物まねがとっても上手くて笑いそうになってしまったが、確かにチラシなどを見るとLサイズのピザは3000円弱と中々のお値段がするし枚数を頼むとなるとそれなりのお値段になる。
玲ちゃんに“高い”という感覚があったことがまず驚きだが玲ちゃんにしたらピザやハンバーガーってソウルフードだろうしお手軽な価格で食べられるのが利点なんだろう。
俺がそんな事を考えていると、翔はのそのそとベッドから降りていた。
翔も慣れたもので裸でバスルームの方向に消えていく。
実は俺も太っている時代にはよく宅配ピザにお世話になったものだと懐かしく思う。
引きこもりだったから部屋から出ないし、お小遣いと言う名の資金源もあったので部屋から出ないで食べられる物なんて限られてくる。
基本的には母屋で作って盆に乗ったものが俺の離れに運ばれてきていたが、どうしてもアニメ観賞の時に口寂しくて手っ取り早く自室で食べる物が当時はピザぐらいしかなく懐かしくなってきた。
「懐かしいなぁ」
俺は早速昔よく使っていたピザチェーン店のアプリをダウンロードする。
俺がよく注文していた頃は電話注文のみだったから色々な種類のピザが並んでいる画面が斬新だった。
命を探すために兄さんの仕事を手伝っていたから宅配のピザなんて何年も食べていない。
兄さんに連れられて行くのは、接待の高級料亭や高級中華などの何処も“高級”が着くような店ばかりだ。
高いなりに旨いは旨いのだがたまにはジャンキーな物も食べたくなるのが性だろう。
「どれがいいでござるかねぇ」
写真を見ながら適当に選んでいく。
定番商品から季節限定なんて物も選んで、とりあえずどんどんカートに入れていった。
翔にも一応選ばせようかとも思ったが、自分自身が食べる量も多いから今回はいいかと命の食べそうな物を選びながら思う。
成長痛が終わってから、命の味覚にも変化があった。
元々野菜中心だった食生活の中でも玲ちゃんの作ったケーキやらクッキーやらが大好きだったが、差し入れのせいとは言わないが玲ちゃんの作った激甘スイーツを受け付けなくなった。
玲ちゃんのスイーツを差し出すと、珍しく俺に愛想笑いを浮かべて押し返してくるので罪悪感はありつつも食べたくないという感情はあるのだろう。
どちらかというとしょっぱい煎餅や渋いお菓子の方が好みになってきている様で今回のピザもシンプルな物が良いかもしれないななんて思いながらマルゲリータピザをカートに入れた。
「うーん。サイドメニューも充実しているから…これとこれなんか良いのでは?」
ぶつぶつと独り言が漏れる。
最後に確認画面でメニューの最終確認をして注文ボタンを押した。
確か隣の部屋の冷蔵庫には玲ちゃんの為に買ってあるコーラがあったはずだなと思いながら立ち上がる。
今日はもう仕事は止めて部屋に帰ろうと電子機器類の電源を落として部屋の電気も消す。
「おーい。翔さんやーい。生きてるでござるかぁ?」
「なんとか…」
バスルームを覗くと翔が目を擦りつつバスローブの紐を結ぼうと格闘していた。
流石に学校帰りに身体を酷使したら眠くもなるだろう。
眠くてバスローブの紐が結べないとか小さな子供みたいで笑いが込み上げてくる。
もっと小さな頃の命の事を思い出しながら翔に近付いて髪からポタポタ垂れる水滴を拭いてやった。
本当に眠気がピークに来ているのか大人しく髪を拭かれている。
しばらく翔の頭をゴシゴシと拭いていると身体がぐらりと傾いた。
「おっと…」
俺の方へ倒れてくる翔をなんとか受け止めて大きな溜め息が出る。
性的にも気持ち良くなって、風呂で身体が温まって疲れも相まって立ったまま寝てしまうとか本当に赤ちゃんだなとほっこりしながら俺は翔を抱き上げた。
流石に命よりは重いが苦になる様な重さではなかった。
タオルをバスルームに置いてある籠に放り込んで住居部屋の方へ移動する為に玄関へ向かう。
「この玄関の前の格子邪魔でござるなぁ。そろそろ一軒家にでも移った方がいいでござるかな」
ワンフロアに我家だけなのだが、一応居住スペースと仕事場は隣同士にあるので玄関は別なのは当然ながら扉の前には防犯の為なのか格子状の柵が設置してある。
命は片手で抱き上げて移動できるのであまりこの柵の事を意識してこなかったが、翔は身長もあるから抱き上げているとぐらぐらと安定感がないせいで柵を開ける為に今は俵抱きになってしまった。
自動で開くシステムも良いが、その改装する予算を考えると何処か一軒家に移った方が現実的だろう。
このマンションは下の階はオフィスなどが入っているし、高層マンションの為住民用のジム等も完備されている。
受付もあり、そこにはコンシェルジュなんて者も居て中々便利なのだが一軒家に移るとなると便利な生活もちょっと不便になるなと思ってしまう。
兄達も俺が心配なのと、俺の収入を考えてこのマンションを薦めてくれたのだろう。
住んでから長いし減価償却も終っていることだし車の事も含めて色々考えてもいいかもななんて考えている間に居住スペースのベッドルームに到着した。
未だ寝ている命の横に翔を降ろす。
「よく寝てるな…」
命と翔の頭を撫でてからベッドルームを後にする。
とりあえず何か飲もうとリビングに向かう。
冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出してソファーに座る。
足を組もうと思ったがテーブルが邪魔でどうしたものかとテーブルを眺めた。
このテーブルは次男がくれたんだったかな。
いや自分で買ったんだっかなとぼんやりどうでもいいことを考えてしまう。
ぼんやりとテーブルを眺めていると、インターフォンが鳴る。
意外に早かったなと掛け時計を見ながら思う。
「はい。そこに置いておいてもらっていいですか?えぇ。すぐ取りに行くんで…」
インターフォン越しに配達員とやり取りをして門の前に置いてもらう。
結構量が多いですけど間違いないですか等と聞かれたが、履歴もあるし何かあれば店舗に連絡すれば良いことだ。
大丈夫ですなどと返事をしつつ通話ボタンを切った。
のそのそと玄関の方へ向かい、扉を開けて外に顔を出す。
既に人影はなく、玄関先の門の外側にカラフルな箱が数個あるのが見える。
「これは確かに、頼みすぎでござるかねぇ?」
調子に乗って頼みすぎたのはビニール袋に3箱入ったものが3つも有ることでこれは配達員が確認するのも分かるなと思った。
まぁ1つはサイドメニューが入ってるので実質ピザは6箱になるのかな。
軽くパーティーだななんて呑気に考えながら箱の入った袋を持ち上げた。
ガサガサとビニールの音をたてながらリビングに戻る最中もチーズやら具材の匂いがあがってきて腹が減ってくる。
「全部来てるでござるね」
一通り中身をスマホ片手に確認して注文した商品が全部来ている事を確認した。
確認ついでにサイドメニューであるウェッジカットのフライドポテトを数個つまみ食いする。
ほくほくなのに表面は油であげた事によりカリカリしているので何個でも食べられそうだ。
とりあえずお子様達を起こしに行かねばならないが、リビングのテーブルにピザの箱を開けた状態で並べて再び冷蔵庫へ行き玲ちゃんの為に買っておいたコーラと炭酸飲料やジュース等を取り出す。
飲み物を机の端に並べ、グラスを取り出すついでに取り皿も取り出した。
味変の為の調味料なども並べ、まさにパーティーをしますという雰囲気になっている。
これは壁に飾り付けでもした方がいいのかとも考えたが、ピザが冷めてしまうのでさっさとお子様達を連れてくる事にした。
「んんっ。よし…ショウクン!ショウクン!オキテ?アサダヨ?」
「うぇ?な、なに?え?」
ベッドルームに来ると、お互い微動だにせず寝ているお子様たちにふふふと笑みがこぼれる。
折角なのでイタズラでもしてやろうと翔が寝ている方へ向かい、しゃがんで耳元で裏声を使って話しかけてみた。
九官鳥とかオウムの様な喋る鳥みたいな声が出たが、その声に驚いた翔が飛び起きる。
キョロキョロと辺りを見回して俺と目が合うときょとんとした顔になった。
「ショウクン!ショウクン!キガエタホウガイイヨ」
「え?パパさんの声だったんですか?」
バスローブのままの翔に着替えるようにさっきの様に裏声で話しかけると、驚いた顔をする。
頭を抱えている翔をほっといて命を抱き上げた。
だらんとしている命を小脇に抱えてスタスタとリビングに戻る。
命は座らせてから起こせば良いだろうと言う考えだ。
命を椅子に座らせてから俺も椅子に座って翔を待つ。
すぐに翔が俺を追ってバスローブのままリビングにやって来た。
後から面倒になるだろうなぁと思いつつ、ピザが冷めてしまうので放っておくことにする。
「翔のリクエストのピザ取ったから沢山食べるんだよ?」
「あー。ありがとうございます…」
「冷めちゃうから早く食べようか。あ、命は大丈夫そのうち起き…ないから今起こすわ。命?ご飯食べるぞ」
「むー。ごはん?」
一応命の肩を揺すって声をかけてみたが、今回は成功した。
毎回これで起きてくれればいいがそうは上手くいかないが今は起きただけでよしとしよう。
目を擦りながらぼんやりテーブルの上のピザを見て一瞬凄く微妙な顔をしたのを俺は見逃さなかった。
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