6 / 13

第5話

目を見開くと、いつもと変わらぬ風景が広がっている。 昨日は昼から夜中まで太宰に抱かれたのだ。 腰痛が酷く、簡単には起き上がれない。 軽く寝返りを打ち、掛け布団を抱く。 芥川は昨夜の事を置い除け、太宰の様子を思い出す。 昨日の太宰の様子は可笑しかった。悪夢に魘されていたかと思いきや、涙目になりながら自分を欲した。 それは自分にとって嬉しいものであった。 だが、自分は太宰のことがたまらなく気になり、ずっとそばにいた。 赤く染った愛の結晶は自分の体に無数に咲いている。たまに血を流す程強く噛まれるが、それは独占欲だということは分かっていたので、それもまた嬉しかった。 目を開け、周りを見ようと体を起こすと、太宰がこちらを向いた。 「……体は大丈夫かい」 こくりと頷くと太宰は目を閉じ、にこりと口角を上げる。 「……突然で悪いのだが」 「私と、心中してくれないかい?」 目を見開いて太宰を見つめる。一瞬、思考が停止してしまった。 芥川はずっと待っていたのだ。太宰からのその言葉を。いつもは"私と生涯を共にするのだからお誘いはしない"と言っていた太宰の口から、その言葉が出てくるとは。 芥川に一切の迷いは無かった。 ポートマフィアの仕事を放って太宰と心中をする。 それは、芥川にとって幸福以外の何物でもなかったのだ。 「……勿論。喜んで」 ふっと口角を上げると、太宰も寂しげな表情を浮かべながら微笑んだ。 足を床につけ、いつもの外套を着ようとすると、後ろからパサりとかけられる。 ああ、なんて幸せなのだろう 芥川の穴の空いた心に仄かな光が灯った。

ともだちにシェアしよう!