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第5話
目を見開くと、いつもと変わらぬ風景が広がっている。
昨日は昼から夜中まで太宰に抱かれたのだ。
腰痛が酷く、簡単には起き上がれない。
軽く寝返りを打ち、掛け布団を抱く。
芥川は昨夜の事を置い除け、太宰の様子を思い出す。
昨日の太宰の様子は可笑しかった。悪夢に魘されていたかと思いきや、涙目になりながら自分を欲した。
それは自分にとって嬉しいものであった。
だが、自分は太宰のことがたまらなく気になり、ずっとそばにいた。
赤く染った愛の結晶は自分の体に無数に咲いている。たまに血を流す程強く噛まれるが、それは独占欲だということは分かっていたので、それもまた嬉しかった。
目を開け、周りを見ようと体を起こすと、太宰がこちらを向いた。
「……体は大丈夫かい」
こくりと頷くと太宰は目を閉じ、にこりと口角を上げる。
「……突然で悪いのだが」
「私と、心中してくれないかい?」
目を見開いて太宰を見つめる。一瞬、思考が停止してしまった。
芥川はずっと待っていたのだ。太宰からのその言葉を。いつもは"私と生涯を共にするのだからお誘いはしない"と言っていた太宰の口から、その言葉が出てくるとは。
芥川に一切の迷いは無かった。
ポートマフィアの仕事を放って太宰と心中をする。
それは、芥川にとって幸福以外の何物でもなかったのだ。
「……勿論。喜んで」
ふっと口角を上げると、太宰も寂しげな表情を浮かべながら微笑んだ。
足を床につけ、いつもの外套を着ようとすると、後ろからパサりとかけられる。
ああ、なんて幸せなのだろう
芥川の穴の空いた心に仄かな光が灯った。
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