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第8話
「たまには外にでも出てみたらどうだ」
窓際に敷かれた布団に寝転がり、ただひたすら何も無い壁を見つめる。
帰りにスーパーにでも寄ったのか、袋の音が聞こえてきた。
あれから、退院はしたものの、探偵社には一度も行っていない。
たまに、敦君がドアの前で慰めの言葉をかけてくるが、それがまた心に刺さり、布団に潜り込んでは耳を塞いだ。
国木田君はそんな状態の私を気にしたのか「今なら何時死んでも可笑しくない」と言い、弱っている私の部屋に住み着いて家事だの何だのとしてくれた。
「お母さんみたいだね」と笑うと、国木田君は照れているのか、顔を逸らし溜息を吐いて「無理をするな」とだけ言った。
そんな他愛もない会話は自分にとって何よりもの安らぎになっていた。
「……そういえばお前、最近寝ていないだろう。朝になると酒の匂いが酷くなっている」
エプロンをつけて調理をしだす。
ああ、これが芥川君だったらなぁ……
そんなことを思ってみるも、すぐ考えるのをやめる。
「……目を閉じたくないんだ」
芥川君がいるから。目を閉じると二人で作った思い出が次々に浮かんでくる。でもそんなのも泡となって消えると、恨めしそうな顔をするのだ。
「貴方の所為です」と言いながら。
「……そうか」
何かを察したのか素っ気なく返される。そして「ネギを買い忘れた」と言うとまた家を出ていってしまった。
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