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勘弁して

「……ははっ、それは無理」  何か閃いたみたいにパッと顔をあげたかと思えば、突拍子もなくそんなことを言い出し、アホらしくて思わず鼻で笑ってしまった。  いや、これだけ酔っ払ったあげく意味の分からんことを言われたら、誰しもこんな対応になると思いますけど。 「……っゔ、ううっ、なんれ、なんれぇ……っ」 「あのなあ……、俺とちゅーして何が楽しいの? お前も気持ち悪い思いするだけだぞ」 「やら、やらっ、ちゅーして、ちゅーしてくれよう……っ」  なのに、俺のもっともな言い分に納得がいかないのか、幼児化したようにふるふると首を振って泣く。 ……あぁ、ものすごく面倒だな、こいつ。  これだから下戸のくせに飲みたがるやつは嫌なんだよ。  無意識のうちに深い溜め息が漏れていたのか、やつはさらに涙を溢れさせて、震える唇をきゅっと横に引き締める。  見た目は今時のチャラ男っぽいが、性格は男らしい素面の時とは違って、大声で泣き出したいのを我慢するその姿は、ほんとに子どもみたいだ。 ……言っておくが、通常に見える俺だって、こいつに付き合えるくらいにはそれなりに飲んでるし、多少は酔いが回っている。  だから、俺も正常な返しが思いつかなくて。 「あーもう、泣き止めって……」 「うっ、ひっぐ、ゔ、うぇ、うぇぇ……っ、うえぇ……ッ」 「なんだそのヤギみてえな泣きかた……」  内心で頭を抱えながら、泣き止まないそいつの後頭部へ、宥めるように腕をのばして、撫でる。  ここは居酒屋だ。分かってる。  周りに人がいるのも、こいつが騒ぐせいで、結構前からすでに視線に集めているのも、気付いては、いた。

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