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仕方ないから
けれどまあ、端から見れば野郎同士でただふざけてるくらいで済むだろうし……。
キスくらいならいいやって軽く考えてしまったのは、きっと俺も、少しは酔っているから。
「っうぇ、なに…、?」
「黙れ」
丁寧にセットされた髪をくしゃりと掴んで、手繰り寄せる。
呆然と目を見開くやつを後目に、俺はゆっくりと顔を傾けて。
「……これで満足か。この酔っ払いが」
リップ音さえ鳴らない、一瞬だけ触れたキスの出来損ないみたいなもので、唇の感触すら分からないほどすぐに離したが。
これでこいつが納得して機嫌を取り戻してくれるのなら……、と言われたとおりに一応してみた。なのに、
「……もっ、と」
「あ?」
「もっと、して……っ」
しかしまあ、俺の作戦らしきものは仇となったわけだ。
余計に変な衝動を掻き立てたのか、スイッチが入ってしまったらしく、むしろ乗り気になってしまった。
どうしたもんかと額に手を当てて、ため息が漏れる。
もう……こいつ、めんどくさい。
「……あとでな」
こういうとき、頭ごなしに怒ったり拒絶したり、とにかく感情的になっても意味がない。
そう思い、やつの頭を軽く叩くように撫でてから、長らく口をつけてなかったぬるいビールを飲み干した。
──素面じゃやってられない、こんなこと。
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