6 / 13

なに?

───……  それからまたしばらく、飲んで喋って食べてを繰り返していたのだが、やつが何だか落ち着きがなくそわそわしていたのは、薄々勘づいていた。 「おれ、トイレ」 「ん、行ってら」 「……歩けね、から、一緒、来て?」  立ち上がったやつに腕を掴まれて、小さなガキのようにくんと引かれる。  途切れ途切れに、日本語さえまともに話せなくなったそいつに、俺は半ば呆れつつも、同時に心配にもなって素直に着いていくことにした。  とりあえずその時、カウンターにいた犬みたいな笑顔をする店員の兄ちゃんにタクシーを呼んでもらうよう頼んで、俺はやつの肩を担ぎながらトイレへと向かう。 「さっさとしろよー」  そこの居酒屋のトイレは男女ひとつずつしかないようで、俺はやつを個室に押し込んだあと、外で待つことにした。  ドアを背もたれに、やつが用を済ますのをぼうっと待っていると、 「……なあ、」 「ん、どうした。漏らしたか?」 「ちがっ、ちゃんと出来るわそんくらい……!」 「じゃーなんだよ」  しばらく時間が経ってから、個室から声がかかったかと思えば、ドアの隙間を開けて、同じくらいの背丈なのに上目遣いで言われる。  トイレが間に合わなかったのかとも思ったのだが、違うらしい。  ハナから真っ赤な顔をさらに赤くさせて否定されてしまった。  酔っぱらいのくせに、そういう羞恥心は一応あるのな。

ともだちにシェアしよう!