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第16話 腕を組んで
「って、尚?」
俺がそんな事を考えている間に、相棒の姿が無い。
入って直ぐの時は隣に居たのにどこ行った!?
焦って見回すが見当たらない。
「尚!…おいっ、尚?!どこだ~!?」
俺が声を上げると、視線が集まる。
気にせずに声をもう1度上げようとすると、随分前の方から「まさと~!!」という声と共に手がニュッと上に伸びた。
ここに居るというアピールだ。
身長が平均より若干低い為か、人の群れにすっかり埋められていた。
手のかかるヤツだな、ったく~。
女なら腕を組んでくるから迷子なんて無いんだけど…。
大人の男が迷子ってマジ笑えるな。
「行くから待ってろ!!」
そう声を掛けると、俺は人の波を「すいません」と最強の顔面力と甘い声で潜り抜けていく。
これも技だ。
そうして尚の元へと辿り着くと首根っこ辺りの服を掴んだ。
「おい、尚。来たぞ」
そうして尚が潰れない様に懐辺りに囲ってやるとホッとした顔を見せた。
「将人~!俺、マジ潰されるかと思った」
情けない顔で見上げるので笑いそうになる。
確かに展示コースへの入り口はエスカレーターとなっており、我先にと皆が一極集中してしまうので当然の激混み具合だ。
「ったく、お前迷子とか子どもかよ?しっかり俺の服でも掴んどけ。なんなら腕でもいいぞ」
男同士で腕組むのはなんだが、尚は幼なじみで子どもの頃から手を繋いでいる仲だし、どうせ見られてもその時だけだ。
それにこの混雑だから、見られても前後左右の人間だけ。
おまけに1時間もすれば相手はそんな事忘れてるだろうし、どうせ二度と会うことの無い連中だ。
旅の恥はかき捨て…というしな。
尚は迷子になって潰されるより恥を選んだらしい。
腕を掴んできたので、俺も肩を抱いてガードしてやりエスカレーターを目指した。
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