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バッグを手にし、稜の元へ向かうと幹が稜の腕に巻きついていた。稜の顔が最高に不機嫌な顔に歪んでいて、橙里は慌てて幹を引き剥がす。
「なにやってるんだよ! 稜が不機嫌になったらマジで面倒なんだって!」
「ええー! こんなイケメンがいたら抱きつきたくもなっちゃうわよぉ!」
「てかおまえらも止めろ!」
「なんか面白そうだったし、放置しといたよ」
「俺は止めようと思ったんですけど桐野さんに止められて。すんません」
笑う羽村に、申し訳なさそうに眉を下げる戸園。戸園の態度を見て怒る気が失せ、橙里は小さくため息を吐く。
「じゃあ、僕もう上がります。お疲れ様でしたー」
「お疲れー」
稜の腕を引っ張りながら出ていき、暗くなった夜道を歩いていく。月明かりが眩しすぎる都心の明かりに邪魔されて、輝きを失っていた。
歩くスピードを緩め、なにも言葉を発さない稜の顔を見る。すると、やっと口を開いた。
「……んだよ」
「んだよじゃねえし。おまえ無愛想すぎ」
稜の声は低く、聞き取りにくい。なのに耳にすっと入ってくる声をしている。橙里はその声が案外好きだったりした。
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