13 / 527
[1]-13
耳に届くか届かないかくらいの声量でぼそっと稜が呟いた。その言葉を理解するのに時間は要さなくて、橙里は乙女のように赤面する。
「なっ、な……」
「あ?」
これは、自惚れてもいいのだろうか。
自分は稜に特別扱いされている、と捉えてもいいのだろうか。
やはりこの男の隣は居心地がいいと思ってしまう。昔誰かが稜のことを無愛想だと言った。でもそれは稜のテリトリーに無理やり踏み込もうとしているからで、ゆっくり侵入していけばどうってことない。
──やっぱり、稜だな。
変わったのは見た目だけで、中身と橙里に対する態度は一切変わらない。
稜は裏表がないから無駄な駆け引きをする必要もなく、橙里も素でいられる。
「……僕、やっぱり金出した方がよくない?」
「なんの」
「家賃とかの」
いくら稜がそういうものに無頓着とは言え、なにも払わないというのは居心地が悪くなる。
ともだちにシェアしよう!