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「……はあぁ……」 息を大きく吐く。 稜に押し倒されてから一日。あのときの稜の顔が頭から離れなくて、全く仕事に集中できなかった。 「……橙里さん、どうしたの?」 「えっ……あ」 仕事中だということをすっかり忘れていた。それも客のカット中だというのに。 「すみません、つい」 「全然大丈夫ですけど……珍しくない? 橙里さんがそんなため息吐くところ見たことないもん」 毎回橙里のことを指名する女性がそう言ってきた。ため息を吐くところを見せたことがないのでそう言うのは当然なのだが、やはりそれほど橙里は客から完璧に見えているのだろう。 なにはともあれ、客の前でため息を吐くのはしてはいけない。なのに、橙里は仕事に集中できずに吐いてしまった。 「なにかあったんでしょー。だって、顔色もすごく悪いんだもん」 「はは、大丈夫ですよ。切っていきますね」

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