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稜の寝顔は普段生活している顔よりも穏やかで、とても無愛想には思えない。 死んだように眠っているが、実際に亡くなってもこうやって穏やかに眠るのだろうか。 もし稜がここからいなくなったら、自分はどうするのか。 ──やばい。まだクセが抜けてない。 口を手で覆っていると、稜がもそもそと動き始めた。起床のようだ。 「おはよ」 「……チッ……」 「……舌打ちしたな? このやろー」 まだうつ伏せになったままの稜の上に乗っかり、揺すってやる。成人済の男一人が揺すってもびくともしない。 黒く艶のある髪がさらさらと動いていく。頭を動かす度に太陽の光を受けて透き通るように輝いている。 その美しい髪の様子を見ると、弄ってしまいたくなるのは一種の職業病なのだろうか。橙里は、その髪の間に指を滑り込ませるように手を入れる。 手を動かす度に漆黒の髪が指の間を滑り抜けていく。その感覚が、橙里にとって愉悦以外のなにでもなかった。

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