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先ほどよりも深く眉の間に皺が刻まれるその姿は、数十秒前に話した彼よりずっと人間らしい。 薄々勘づいてはいたが、このソムリエは橙里に弱い。そして、甘い。 そして、瀬島は思う。もしこの男から橙里を取ったら、なにが残るのだろうか、と。橙里を瀬島が泣かせたら、どんな反応をするのか、と。 例えるなら瀬島は好きな子ほどいじめたい、という子どものような思考のそれに近いのかもしれない。 「……ねえ、オレが頂いちゃってもいいかな?」 「なにを」 「かわいいかわいいももちゃんを、だよ」 瀬島の目線よりやや上にある耳元に向かってそう囁く。瀬島の声も声質が良く、小さくてもよく通る声をしている。そのため、吐息を吐くように言ったら橙里はかわいらしい反応をするのだが──この男は違うようだ。 凍りついてしまいそうになるほど冷たい視線を寄越してくる。そんな顔さえ男前なのは、妬みという感情が心の中を占めていくのがわかる。

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