64 / 527
[4]-20
「なにも言わないってことは、いいのかな?」
「……」
「オレが冗談で言っていないってことくらいわかるでしょ」
先ほどまでのトーンとは違い、低めな声でそう言うとソムリエが嘲笑するように目を細めたあと、初めて身体の向きを瀬島のほうに向けてきた。
服の上からでもわかる身体の鍛え上げ具合。ピチピチというわけでもなく、ぶかぶかというわけでもない。適度に美しく鍛え上げられているのが男らしい。
「一回しか言わねえ。よく聞け」
「うん?」
「あいつが誰に抱かれようと、気にしねえよ。あいつのことを一番知ってんのは他の誰でもない、俺だ」
淡々に、けれど感情があるような声でそう言う彼は、やはり自分の好みに当てはまると思う。
橙里もこの男も、自分の理想ぴったりなのだ。
橙里が無理なら、彼で遊べばいい。
狙いが橙里ではなく自分だと知った彼の顔を想像し、目の当たりにするのもまた一興だ。
ともだちにシェアしよう!