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「なにも言わないってことは、いいのかな?」 「……」 「オレが冗談で言っていないってことくらいわかるでしょ」 先ほどまでのトーンとは違い、低めな声でそう言うとソムリエが嘲笑するように目を細めたあと、初めて身体の向きを瀬島のほうに向けてきた。 服の上からでもわかる身体の鍛え上げ具合。ピチピチというわけでもなく、ぶかぶかというわけでもない。適度に美しく鍛え上げられているのが男らしい。 「一回しか言わねえ。よく聞け」 「うん?」 「あいつが誰に抱かれようと、気にしねえよ。あいつのことを一番知ってんのは他の誰でもない、俺だ」 淡々に、けれど感情があるような声でそう言う彼は、やはり自分の好みに当てはまると思う。 橙里もこの男も、自分の理想ぴったりなのだ。 橙里が無理なら、彼で遊べばいい。 狙いが橙里ではなく自分だと知った彼の顔を想像し、目の当たりにするのもまた一興だ。

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