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箸が目の前に置かれる。持つ方が右側に置かれており、右利きの橙里のことを気遣ってくれたのがすぐわかる。 グラスの準備も終わり、稜が席に着いたところで手を合わせた。 「いただきまーす」 生ハムに手を伸ばして口の中に入れると、生ハムの風味が口いっぱいに広がる。しょっぱ過ぎず薄過ぎず、加減してくれたのだろう。 「んま」 稜をちらりと見ると、グラスにワインを注いでいる。ボルドーの液体が色鮮やかに注がれていき、喉が乾くのがわかる。 「ん」 グラスを差し出され、くるりと液体を回してから口の中に含む。 葡萄の芳醇な香りが鼻を突き抜け、何故か特別なように感じた。そして、その液体が体内に浸透していくのがわかる。 「おいしいけど……度高くないか?」 「当たり前だろ。おまえを酔わす為にな」 「僕を酔わせて意味ある?」 「……」 「おやおや? もしかして腹いせかな? 瀬島さんに揶揄われた腹いせですか?」 「黙れ。ボトルごと口に突っ込むぞ」 「ひっ」 稜ならやりかねない。

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